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願い

「……いやぁ、快適だった! 着けているだけで春みたいに暖かいんだもん! お陰様で大猟だよ! ありがとう、コユキちゃん!」
 気持ち良くスッキリできたらしい。チュッ、チュッと左右のミトンの甲に接吻しながら軽やかな足取りで洞窟の奥底に戻ってくるベロベルト。トイレットペーパーを元の場所に置き、ニット帽に降り積もった雪を払い落とした彼は、脱ぎ去った防寒着を箱の中に戻していく。
「……おっと、ダメダメ。これは乾かしておかないと。もう汗びっしょりだよ」
 危うくカビだらけにするところだった。ニット帽とミトンを仕舞ったところで箱を閉めた彼は、履き口からホカホカと湯気が立ち上るブーツを焚き火の近くまで持っていく。
 燃え盛る炎の前に両足を投げ出して座り、長いベロのタオルで左右の足の汗を綺麗さっぱり拭い取るベロベルト。誰が何と言おうと綺麗だった。べっとりと足の裏まで舐め尽くした彼は、クルクルと巻き取った舌を爽やかな表情で喉奥のベロ袋に収納する。
 ふと顔を上げると、沸騰したケトルの口から湯気が噴き出していた。ひっくり返ったカップをソーサーに戻した彼は、二枚目となる板チョコレートの銀紙をビリビリと剥がし取る。
「……そろそろ眠り姫を起こすとするかぁ。くちゃい匂いで気絶させちゃったんだ。良い匂いで目覚めさせてあげよう!」
 適当な大きさに割った板チョコレートをカップに放り込み、その上からトロトロと練乳を垂らしたら、あとはケトルの湯を注いで一気にスプーンでかき混ぜるだけ。でき上がった茶褐色の液体をソーサーごと持ち上げた彼は、ふんわりと泡立つ水面をキュウコンの口元に近寄せる。
 ひくひくと鼻を鳴らし始めるキュウコン。毛布に包まれた彼女の体がピクリと動く。
「んっ、ココアの匂い……」
 うっすらと目を開けた先にあったのは――いっぱいに笑みを浮かべたベロベルトの大きな顔。食べるなんて大嘘だったのだ。彼女の口元がフッと緩む。
「おはよう、コユキちゃん! はい、どうぞ! 温かいココアだよ!」
「おはようございます、ベロベルトさん。確か……舐め回されて気絶しちゃったんでしたっけ、私? その他はよく覚えていませんわ……」
 あぁ、よかった! そのまま忘れちゃって! カップを手渡した彼は胸をなでおろす。
 一口だけ啜ってソーサーの上に置くキュウコン。毛布を蹴飛ばし、眠い目を前足でこすった途端に思い出したのは――顔中を唾液塗れにされていたことだった。汚れた前足を見つめた彼女は表情を歪ませる。
「うぅ……ベトベトです。トリモチみたい……。ベロリンガのとは比べ物にならないほど粘りますわね、これ……」
 えっ、舐められたことあるの? 喉まで出かかるも、今は聞いている場合ではなかった。彼は部屋の一角に置かれた金ダライを指差す。
「大丈夫! 水で簡単に落ちるよ! あすこに置いてあるタライで洗っておいで! ……天井から漏れてくる湧き水を受け止めているんだ。もう満杯になっている頃じゃないかな? 飲めるくらい綺麗な水だから安心して使って!」
「たっ、助かりますわ! それでは遠慮なく!」
 よほど気持ち悪かったらしい。弾かれたような勢いで駆けていくキュウコン。大きく息を吸って水面に顔を突っ込んだ彼女は、ザブザブと首から上を丸洗いし始める。
「そうだ、タオル、タオルっと……。どこに仕舞ったかな……?」
 オイラのベロで拭いたら意味ないもんなぁ。キョロキョロし始めるベロベルト。独り言を聞きつけた彼女はザバッと顔を上げる。
「……ぷはっ! 荷物の中にバスタオルが入っていますわ! 出しておいてもらえます!?」

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