「レナードさんからは浅い洞窟だと伺っていましたが……随分と深い洞窟なんですね。びっくりしちゃいました」
キョロキョロと辺りを見回しながら薄暗い中を進んでいくキュウコン。ユサユサと贅肉を揺らしながら前を歩いていたベロベルトは笑い声を漏らす。
「ははっ、そりゃリフォームしたからだよ! 最後にレナードさんと会った後でね! どうせ住むなら居心地のいい場所に住みたかったから、掘って掘りまくって深い洞窟に作り変えたのさ。……こっちだよ、足元に気を付けて!」
進むべき方向を指し示したベロベルトは最後の分岐を左に進む。右に行った先は三つ目の食糧倉庫。たくさんの食べ物を蓄えておけるよう、秋の収穫後の手持ち無沙汰な時間を利用して大改造していたのだった。最奥の居室から入り口まではベロの長さとほぼ同じ。洞窟に迷い込んだ獲物をペロッと食べるのに丁度いい深さに仕上げていたのだった。
やがて焚き火の炎が揺れる明るい広間に行き着く一行。洞窟の壁に背を向けたベロベルトは部屋の中央を指差す。
「お待たせ! 足場の悪い中を長々と歩かせて申し訳なかったね! まずは焚き火にあたって……」
そこまで言いかけた彼は口を噤んでしまう。
忘れていた。彼女は氷タイプなのだ。焚き火になんかあたらせて良いのだろうか? ましてや熱いお茶なんか御馳走して良いのだろうか? 焚き火の前に広げられたティーセットを見つめて考えを巡らした彼は顔を上げる。
「えっと……ごめん。コユキちゃんって暖かいのは苦手だよね? 焚き火は消して、飲み物は冷たいものを用意した方が……」
「いいえ、ちっとも! 別に寒いのが好きというワケではありませんの! 温かい飲み物だって大好物ですわ!」
笑顔で返すキュウコン。彼はホッと胸をなで下ろす。
「あぁ、よかった! 凍え死なずに済みそうで助かったよ! ちなみに……大好物の飲み物ってなんだい?」
まだまだ幼い子供のことである。渋いお茶など眼中にもないだろう。彼はそれとなく尋ねる。
「うふふっ! ココアです! 虫歯になるから控えなさいって母さんから注意されてはいるのですが……飲み出したらキリがないですわ! 濃厚で、甘くって、ほろりと苦くって……あぁ! 考えただけで涎が出てきちゃいました!」
はにかみながら答えるキュウコン。彼は心の中でガッツポーズを決める。
「あははっ! 聞いているオイラも出てきちゃった! 美味しいよね、ココア! それなら御馳走してあげるよ! 舌もとろける甘くて濃厚な練乳ココアをね!」
レナードと取り引きして秋の収穫の一部を様々な食料と交換していたのが幸いだった。缶詰の練乳と板チョコレートの存在を思い出した彼は、お座りの姿勢で両前足を頬に当てたキュウコンに微笑みかける。
「本当ですか!? ありがとうございます!」
「うん! すぐに作るから待っていて! お湯もあることだし……って、へっ!?」
吹きこぼれて焚き火が消えぬよう、小用に立つ前に少しだけ火から遠ざけておいたケトルを持ち上げた彼は目玉を飛び出させる。さっきまで熱湯だった筈が、すっかり湯冷ましになっていたのだった。
チョコレートはおろか練乳すら溶けてくれそうになかった。彼はケトル片手に肩を落とす。
「あの……どうされましたか?」
「いやね、さっき沸かした筈のお湯が冷え切っちゃっていてさ。ちょっと待ってもらえる? すぐ沸かし直すよ」
前足を両頬に当てたまま心配そうな顔をするキュウコン。何とも格好の悪い話だった。手でポリポリと頭を掻いた彼は伏し目がちに打ち明ける。
「あら、そんなの構いませんよ! いくらでも
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