「うん、上出来だわ! とっても美味しそう!」
ブーピッグのように丸々と肥え太ったエプロン姿のブースターが、赤々と燃え盛る暖炉のオーブンの中から取り出したのは、彼女の顔の倍ほどの大きさもあるアップルパイだった。手際よく型から外してケーキクーラーの上に乗せたら、後は常温に冷めるまで待つだけ。宴を彩る最後の料理を作り終えた彼女の口から小さな溜め息が漏れる。
「さぁ、大急ぎで片付けちゃいましょう。……まったく、あの子ったら。早く来て手伝うって約束しておきながら大遅刻じゃないの。お陰様で一休みする暇もなかったわ!」
ぶすっとした顔で玄関を一瞥して、散らかり放題のキッチンへと巨体を揺らしながら消えていくブースター。早朝から忙しく働き続けて既に夕焼け小焼け。その恨みは察するに余りあった。
あれから一週間後、満月の夕べ――。宴会料理の準備に追われるブースターの姿は見てのとおり、二階の寝室で昼寝をするサンダースの姿も、豪勢な料理で埋め尽くされた食堂の長机に横一列で並んで食前の酒を酌み交わすグレイシア、シャワーズ、ニンフィア、そしてリーフィアの姿もしかり。森の奥深くにひっそりと佇む丸太小屋の内側に広がっていたのは、マフォクシーの猟夫が予見したのと寸分も違わぬ光景だった。
美酒に酔いながら延々と語らい続ける食堂の四匹。脚付きグラスの赤紫色の液体を喉に通したリーフィアが思い出したように口を開く。
「……ときに兄弟。商売の調子はどうだ? 上手くやっているか?」
ニンフィア、シャワーズを挟んだ向こう側に腰掛けていたグレイシアは笑い声を上げる。
「最高だよ、兄貴。こんなボロい商売ったらありゃしねぇ! 街に逃れてきた野生の奴らに住む場所を恵んでやろうって話になったもんだから、空前の建設ラッシュでなぁ。飛ぶように売れていくぜ。どうやって採ってこようが木材にしちまえば一緒なんだ。口に入る物でもねぇから産地を気にする奴もいねぇ。チョロいもんよ!」
抱き寄せたシャワーズの耳のヒレを撫でながらグラス片手に豪語するグレイシア。そんな彼の言葉に一抹の不安を覚えたリーフィアは声を低くする。
「……その件だが兄弟。俺たちのことを嗅ぎ回っている奴がいると聞いた。本当なのか?」
「あぁ、例のブン屋か」
問い詰めるような口調で尋ねるリーフィア。グレイシアは涼しげな顔でグラスの中身を呷る。
「そいつなら片付けたぜ。あれこれ詮索してきて鬱陶しかったから氷漬けにしてやったのさ。すぐ粉砕して便所に流しちまったから足の付きようもねぇ。今頃は下水道でベトベターどもと仲良く……」
ペチリ!
「って、痛ぇ!?」
空いている方の前足を頬にあてがうグレイシア。シャワーズがビンタを見舞ったのだった。
「もぅ、ダーリンったら汚いでしょ! ……はぁい! 粗相、粗相っと!」
既に酔っ払っているらしい。緑色のボトルを携えて待ち構えていたシャワーズは、差し出されたグラスに意気揚々と赤紫色の液体を注ぎ始める。
「ははっ、すまねぇ。食事前にする話じゃなかったな……って、馬鹿! 入れすぎだ!」
なみなみと注いで怒られるも右から左だった。彼女は意地悪な顔をしてみせる。
「えぇーっ!? なにそれ、これっぽっちも飲めないの!? ダーリンったら弱いのねぇ!」
前足を口元に当てながら嘲笑するシャワーズ。たちまちグレイシアは顔を赤くする。
「よっ、弱かなんかねぇ! これくらい飲み干してやらぁ!」
それが最高級のヴィンテージであることなど気にも留めなかった。一口、二口、そして三口。一気に喉奥に流し込み、空のグラスを勢いよくテー
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