「うっ、うーん……。なにこれ……とっても良い匂い……」
鼻の穴をひくつかせるベロベルト。彼の目を覚まさせたのは、どこからともなく漂ってきた美味しそうな香りだった。
「んぁ……あれっ? どうして仰向けになって……?」
匂いのする方を向こうとして気付いたのは、冷たい地面の感触だった。記憶の断片を繋ぎ合わせ始めるベロベルト。やがて彼は事の顛末を思い出す。
「そうだ、気持ち悪くなって気絶しちゃったんだっけ……」
一緒に倒れたジャローダの彼女、手伝う予定だったマフォクシーの猟夫のことが気がかりではあったが、まずは体を起こさねばならなかった。寝ぼけ眼を擦りながら大あくびするベロベルト。長座になって瞼を開けた瞬間に目に飛び込んできたのは――驚くべき光景だった。
「……へっ!? 嘘でしょ!? すっかり暗くなってる!?」
ポカンと口を開けて空を見上げるベロベルト。さっきまで空高く輝いていた筈の太陽は月に取って代わられ、すっかり夜の帳に包まれていたのである。
「にっ、二匹は!? まさか置いてきぼりにされて……?」
だとしても不思議ではないほどの時間が経過していた。彼は慌てて立ち上がって周囲を見回す。
「ううっ、暗くてよく見えないよ。というか、こんな場所で倒れた記憶ないぞ……?」
薄暗い中で目を凝らすも、見えてくるのは鬱蒼と生い茂る木々ばかり。熱中症になってしまうのを心配したマフォクシーが涼しい森の中まで運び込んだのが真相だったが、失神していた彼が覚えている筈もなかった。
「どっ、どうしよう……?」
頭を抱えてしゃがみ込んでしまうベロベルト。そんな彼の鼻孔を――
「うん? これは……?」
またしても良い匂いがくすぐる。肉の焼ける香ばしい匂いだった。同時に発生源まで突き止めた彼はすっくと立ち上がる。
「よし! こっちだ!」
安心した顔で一直線に歩き始めるベロベルト。雑草やら低木やらを大きな足で踏み潰し、邪魔な枝を長いベロで薙ぎ払い続けた先に見つけたのは――湖畔の一画で焚き火をするマフォクシーの姿だった。接近に気付いた彼は驚いた様子で立ち上がる。
「おぉ! 目を覚ましたか! 起こしに行く手間が省けたよ!」
「ごめんね、レナードさん。爆睡しちゃっていたみたいで……」
「なに、気にするな。俺ものんびりしていたところさ」
ペコリと頭を下げるもマフォクシーは笑顔だった。彼は褐色の液体が詰まった小瓶を揺らしてみせる。
「さぁ、立っていないで座ってくれ! もう焼き上がる頃だぞ!」
「うわぁぁぁ……!」
促されるまま石の椅子に腰かけるベロベルト。そこにあったのは夢のような光景だった。大きな葉っぱの上に山のように積み上げられた生肉。焚き火の周りで美味しそうな煙を上げる串刺しの細切れ肉。石を組んで作られたロースターの上でジュウジュウと音を立てる骨付き肉。食いしん坊の怪獣は目を輝かせずにはいられない。
「レッ、レナードさん!? これ……全部オイラが食べちゃっていいの!?」
「もちろんだ。お前さんが最後だからな。好きなだけ食え!」
肉の世話をしながら大きく頷いてみせるマフォクシー。最後と言われて思い出したのはジャローダの存在だった。ベロベルトは辺りをキョロキョロと見回す。
「そうだ、彼女は?」
「あそこだ。よく見てみろ」
マフォクシーは近くの木の上を指差す。
「えっ、どこ……って、あっ! いた!」
ほぼ完全な保護色だった。探すこと数秒あまり。彼は腹をパンパンに膨らませたジャローダの姿を発見する。久しぶりに満腹して不安も悩みも吹き飛んだのだろう。木の枝に全身を巻き付け
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