「……って、熱っ! 火傷しちゃうよ!」
疲労が癒えるまで寝そべり続ける気でいた彼だったが、そうは問屋が卸さなかった。熱砂に背中を焼かれた彼は思わず飛び起きる。体に付着した砂を一粒残さず両手で払い落とすベロベルト。回れ右をして湖に背を向けた彼は小さく息を吐く。
「木陰で休もうっと。ここじゃ丸焼きになっちゃう!」
火照った体を冷ますべく、重い足を引きずって歩き始めるベロベルト。ザブンと湖に飛び込みさえすれば済む話だったが、金槌の彼には踝までしか水に浸かる勇気がないのだった。
「よし、ここにしよう」
間もなくして森に分け入り、灼熱の陽射しから解放された彼が休憩場所に選んだのは、樹齢数百年は下らないだろう、表面にびっしりと苔むした大木だった。
「……ふぅ! あぁ、冷たくって良い気持ち!」
その根元に腰を下ろして両足を投げ出し、幹に背中を預けたら気分は極楽。うんと伸びをした彼の脳裏に蘇ったのは激闘のクライマックス、最高威力の転がり攻撃を棒立ちのオーダイルに食らわせた瞬間の一コマだった。
「へんっ、どんなもんだい! 最後に笑うのはオイラたちなのさ!」
岩のテーブルの上でビクビクと痙攣するオーダイルを遠目に眺めつつ、勝利の喜びに酔いしれるベロベルト。しかし――その一言が彼を残酷な現実へと引き戻す。
「オイラたちって……そっか。もうオイラしかいないんだっけ……」
ボソリと呟くベロベルト。その瞬間に彼は底なしの虚しさに襲われる。
いま彼が述べたとおりだった。ある者は餌食にされ、またある者は理不尽に殺され、更にある者は抵抗の果てに命を落としていった結果――彼の仲間は全滅していたのだった。
「あれ、おかしいな? ははっ、駄目じゃないか。泣いたりしちゃ……!」
自分で自分を叱咤激励するも、込み上げる感情には抗えなかった。頭を垂れた彼の両頬を幾粒もの熱い雫が伝い落ち始める。
面白い話を披露し合っては大いに盛り上がったこと、力を合わせて獲物の群れを追い詰めたこと、真心を込めて育てた秋の実りを一緒に収穫したこと、洞窟の中で身を寄せ合って励まし合いながら真冬の寒さを耐えたこと、待ちに待った春の訪れを御馳走で祝ったこと、快晴の夏の夜空を駆け抜ける流星群を眺めたこと。その時々に感じた一体感と興奮、達成感、肌の温もり、喜び、そして感動。仲間と共に過ごした日々の思い出が、走馬灯のように浮かんでは消えていく。
「あぁっ! ああぁぁぁぁっ!」
我慢していられたのはそこまで。洟と涙でクシャクシャになった顔を両腕に埋めて泣きに泣きまくるベロベルト。何もかもを分かち合った仲間たちへの思いが涙と共に溢れ出した、次の瞬間――
「ちょっと! 私のこと勝手に殺さないでくれるかしら!?」
彼の耳に女性の不機嫌な声が飛び込んでくる。
「えっ……誰だい?」
ハッとして前を見るも姿はない。キョロキョロし始めた彼に再び声の主が呼びかける。
「うふふっ、どこを探しているのかしら、泣き虫さん!? 私はここよ!」
真上からだった。恐らくは木の枝葉の中。そこまで気付いて顔を上向けた彼の目と鼻の先にあったのは――
ぐぱぁっ!
いっぱいに開かれた蛇の大口。真っ逆さまに木から落下した声の主が噛み付いてきたのだった。
「……むぐぅ!?」
避けようとするも時すでに遅し。生温かく湿った柔らかな感触に顔全体を覆われたと思う間もなく、さながら頭に袋を被されたかのように、すっぽりと首から上を咥え込まれてしまう。
「んーっ! んっ、んーっ!」
両手で掴んで引き剥がそうとしても効果はなかった。ジタバタして振り
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