「フーッ、フゥーッ……!」
それから数分後。獣道脇の深い茂みの中。いよいよ待ちに待った瞬間だった。ドクンドクンと心臓を高鳴らせるベロリンガ。獲物の足音が大きくなればなるほど鼻息が荒くなっていく。吐き掛けて動きを鈍らせるため、口の中に溜め続けていた粘着質の唾液も溢れ出る寸前だった。
相手はエスパータイプであるものの、危機意識も能力も皆無に等しいことは、一匹で森の中を歩いていること、彼の存在に全く気付く様子がないこと、野生の欠片すら感じられない贅肉だらけの醜い体をしていることから明らかだった。きっと何一つ不自由ない環境で文明の利器に頼りきって暮らしてきたのだろう。弱肉強食の世界を生き延びてきた彼にとっては餌も同然の存在だった。
そして――運命の時。足音が目の前を通過するなり、
ガサガサッ!
と、前後左右に体を動かして茂みを揺らせば、
「えっ?」
肥満体のエーフィはピタリと足を止めて振り返る。狙いどおりだった。声の方向を凝視した彼は、唇の隙間からニュッと長いベロを伸ばし――
ベチョッ! ……ヌチャァァァァァッ!
「んんんんんんっ!?」
エーフィの鼻面に舌先を押し付け、思いきり顔を舐め上げる。
「……きゃぁっ!?」
尻餅をついてリュックを落とすエーフィ。その隙に茂みから飛び出した彼は大きく口を開き――
「んべぇっ!」
ビチャッ、ビチャチャッ!
おびただしい量の唾液を吐き掛け、エーフィをベトベトにするのだった。
「いやぁぁぁぁぁっ!? なっ、なにこれぇぇぇぇぇっ!?」
前足で顔を拭いながら悲鳴を上げるエーフィ。やがて目を開けた彼女の瞳に珍客の姿が映り込む。
「なっ、なめまわしポケモンのベロリンガ……!?」
ベロリンガは元気に手を挙げる。
「合っているよ! そう言う君は……たいようポケモンのエーフィだね! こんにちは!」
「こんにちは、ですって……? あっ……アンタねぇ……!」
耳を疑う言葉だった。全身から粘液を滴らせながら青筋を浮き立たせるエーフィ。彼女の怒りのボルテージが上がっていき――そして爆発する。
「ふざけんじゃないわよ! ごめんなさい、でしょうが! こんなイタズラして許されると思っているワケ!? 足が取られて歩けないし、まだまだ水場は先だから洗い落とすこともできないじゃない! どう責任取ってくれるのよ!?」
まだ真意には気付いていないようだった。ベロリンガは薄ら笑いを浮かべる。
「とっ、というか……この液体って……!?」
クンクンと鼻を鳴らしながら表情を引き攣らせるエーフィ。彼は大きく頷く。
「そのとおり! オイラの涎さ! ネバネバのベットベトでしょ!? 何でもくっ付くから便利なんだ! それはさておき……」
これから自身を飢えから救ってくれる相手に黙っておく訳にはいかなかった。彼は熱のこもった眼差しでエーフィを見つめる。
「さっきの話だけど、心配には及ばないよ。もう君には歩く必要も体を綺麗にする必要もないからね!」
「はぁ!? なんでよ!?」
食い気味に返すエーフィ。両手を高々と上げた彼は――糸引く唾液で溢れ返る大きな口を開けて彼女に迫る。
「ここで君はオイラに食べられちゃうからさ!」
「……は? どういう意味?」
「へっ……?」
ここまで言って理解してくれなかった時はどうすればいいのだろう? なんとも不格好なポーズで固まってしまうベロリンガ。キョトンとした顔を見つめた彼の額を冷や汗が伝う。
「えぇっ!? どっ、どういう意味って……そりゃ読んで字のごとくさ。ゴハンにしちゃうって意味だよ。頭から爪先までベロベロ
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