僕はそのあとのことを覚えていない。
いつの間にかクレイスと同じ姿になって、やつを思いっきり殴って、彼女を連れて逃げた。
クレイスは生きているかもしれない。
でも僕にはどうでもいいことだった。
なにより、彼女が。
気づく時には雨が降っていた。
冷たくて、心も身体も冷えていく。
背中に乗せた彼女は腹部を刺され、応急処置を施したがこのままでは助からない。
病院、病院はどこだ。
しかし、この姿で医者は受け入れてくれるのだろうか。
僕は今獣の姿だ、おぞましい。
とりあえず、雨宿り出来そうな大きな木の下で、彼女を温めた。
「ん・・・・」
彼女は目を覚ました。
僕は嬉しそうに駆け寄る。
しかしこの姿で・・・とも思い、少し後ずさって声をかけた。
「ティアル・・・僕だよ、わかル?」
「当たり前でしょ、助けてくれてありがとう・・・貴方、しゃべるのいつの間にうまくなったの・・・それにしても、眠いなあ・・・ふふっ」
「やだヨ、死なないでティアル・・・僕の、せいデ・・・」
恐ろしい顔から、ありえないはずのものが流れた。
涙。
オイルなのか、まことなのか。
雨かもしれないが、ティアルは彼の頬を触れ、確実に温かいものを感じた。
ティアルもつられて胸にこみ上げるのを抑えられずに。
「ねえ・・・テルド・・・・・・私は助からない。その代わり、私の身体を食べて。貴方だけなら助かる・・・」
ティアルは思い出していたのだ。
テルドは大戦の頃、食料が少なくなったとき、敵味方限らず、その人間の死肉を食らって生きながらえたという。
彼だけには助かって欲しい。
「できるわけないヨ!僕は絶対死なせなイ!だから・・・」
「テルド!!!」
テルドの声を遮るようにティアルは声を荒げる。
無理をしたために血反吐を吐きながら、彼女はゆっくり口を開いた。
「私は・・・貴方と一緒にいたいの・・・ごめんなさい、わがままな女よね、貴方の気持ちも尊重できない」
彼女はたしかに、助かりそうになかった。
腹を刺され、応急処置を施しても彼女の血は止まらない。
内蔵まで傷つけられたのだろうか。
僕にもう少し人を救う力が、治癒術が使えれば、よかったのに。
「本当ニ、それがティアルの願いなノ・・・?」
「・・・ええ」
彼女は大量の汗を流して、苦しいはずなのに、力強くニコリと笑って。
僕は彼女の願いを、肯定した。
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