彼は終戦を知らず、流浪人のように興廃の大地を歩き続けていた。
何もない。
テキ、イナイ。
上司は。
彼は殺すためだけに作られた兵器である。
その役目が終わった何もないいらぬ者は捨てられる。
彼はそれを知らなかった。
一人だということ。
独りだということ。
それにしても食物が見当たらない。
このままでは、機能が。
彼は膝をつき、静かに泥の中に倒れこむ。
蒼の鎧が泥に汚れ、体に力が入らなくなっていく。
「テ・・・キ・・・・・ドコ・・・・」
彼の赤く光る目は光を失っていった。
彼はしばしの眠りにつく。
彼が目を覚ました場所は、薄汚い小屋の中だった。
小屋の壁に寄りかかるように彼はいた。
しかしどこか綺麗で整理されている。
少ない食器を重ね、箸を揃えられている。
ここは、どこだ。
何もないところで―――。
と、その時顔がひょこっと目の前に現れる。
「あ!起きた?」
長い黒髪の女性の顔。
体がまだ本調子ではないようで素早く後ずさろうともこけてしまう。
「ああっだめでしょ、まだ動いちゃダメッ」
大人の女性は慌てて、痛めていた腰の節をなでるように拭く。
とてもその顔は心優しくて。
しかし彼にはなぜこのようなことをしているのかわからなかった。
「アナタハ・・・ピゴッ・・・ダレ、デスカ」
少し支障が出ていたのかエコーを起こしながら無機質に彼女に聞く。
「私はティアル。貴方は?」
澄んだ瞳が彼を恐れず見つめる。
「ワタシハ、TKG-16、デス」
「TKG-16・・・貴方の名前は他にはないの?」
彼は動揺していた。
いままでTKG-16と呼ばれていたのに、疑問を持たれるなど。
理解し難かった。
「ハイ」
「じゃあ私が貴方に名前をつけてあげる」
ナマエヲツケル?
これが私の名前だ、TKG-16。
しかし彼は悪い気はしなかった。
「ティアルサンガ、ツケテクダサルノナラ」
ティアルはよし、と嬉しそうに言うと、腕を組んで考え始めた。
しばらく経って。
彼女は口を開いた。
「貴方の名前は、テルド!よろしくね、テルド♪」
テルド。
テルド。
彼は目を赤く点滅させ、ヨロコンデイルようだった。
しかし彼は今の感覚に疑問をもつ。
ヨロコブとはなにか。
ヨロコブという単語は記録されていない。
彼は自分の異変を知りながら、口のシャッターを開き、
「ハイ、ティアルサン」
と、しゃべった。
しかし彼は気づきつつも自分に気づいていない。
二人の生活が始まった。
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