ある日の夜だった。
ティアルがいつものように台所で夕食を作っている。
今日は僕の大好物の猪鍋だそうだ、楽しみだ。
おっとそういえば風呂を沸かすために薪を忘れていた。
猪を獲りにいくのに懸命でうっかりしてた。
「チョット薪ヲ運ブノヲ忘レテタカラ、用意シテクルヨ」
台所で作業するティアルに声をかける。
ティアルは猪の肉を調理する手止めずに、首だけテルドに向けて言う。
「はーい、わかったわー。きをつけてねー!」
「ハーイ」
テルドは玄関の扉を開け、お風呂場へと回っていった。
さあて早くテルドのために作らないとねー、と思いながらフライパンで器用に焼き鍋に入れていく。
その時だった。
「んぐっ!?」
ゴツゴツとした何かが、ティアルの口を塞ぐ。
体が持ち上げられ、首が締まりそうだ。
「動くなしゃべるナ・・・ククク」
声ははっきりしているが、たまに無機質に響き、まるでテルドのようだった。
しかし、違う。
テルドはこんなに冷たくない。
ティアルは抵抗する暇もなく外へと連れ出された。
そして、テルドが戻ってきた。
「ナッ!?ティアル!!」
テルドは予想外の事態に反射的にティアルと奴に近づく。
「おっと動くナTKG-16。この女の首が飛ぶゼ・・・?」
奴は刃を彼女の首に当てる。
その言葉に足を止めると、彼は驚愕した。
漆黒の鎧を纏った、自分を見つめているようだった。
たったひとつ違うのは、頭の飾り。
彼は天使の羽根ではなく、悪魔の羽根、蝙蝠の羽根だった。
「ナ、ナンナンダ、オ前ハ・・・?」
赤い目が光り点滅する。
「俺はお前ダ、俺達は同じ時に生まれた同じ兵器ダ、お前を連れ戻しに来タ、喜べヨ」
「オ前ナンカ知ラナイ、ティアルヲ離セ!」
我武者羅に突っ込むテルドを彼はひょいと避け、テルドの背中を切りつける。
しかし、テルドの鎧は傷一つつかず、彼の刃も刃こぼれしなかった。
「流石に硬いナ、だガ、あのフォームだったらお前を八つ裂きにできル」
あのフォーム?
そんなものがあったのか?
彼はティアルを乱暴に放り投げる。
懸命に跳び、ティアルをキャッチすると安堵の息を漏らした。
「大丈夫?ティアル」
「ゲホッ・・・え、ええ・・・それにしても彼は一体・・・」
彼に向き直ると、恐ろしい光景があった。
形が崩れ、また新たな形を作り出している。
「考え直せヨ、お前は戻ればまた楽しく殺し合いが出来るんだゼ?」
変形しながらも、赤いランプは輝き続け語りかけるように話す。
「フザケルナ、殺シナンカヨリ楽シイコトハ、タクサンアルンダ!」
そして彼の形がはっきりしていく。
変形完了。
彼の体は四足歩行に変わり、まるで獣のようなキバを生やし。
彼はケモノだった。
「じゃあお前はいらねえナ。この俺、EVC-13、愛称クレイス様が、あの世に送ってやるヨ!」
クレイスの姿が掻き消える。
なにがおき―――
テルドの世界がひっくり返る。
上に大地、下に空。
鎧に罅が入り、刃が砕け。
テルドは崩れ落ちた。
「グ・・・ア・・・」
「テルド!!」
ティアルが傷だらけのテルドに駆け寄る。
その後ろに死の獣が唸り声を上げていた。
「とどめダ・・・」
まずいまずい・・・。
ティアルに離れるように言うと、クレイスに構える。
目の前が・・・かすむ・・・。
映像にも支障が出たようで姿をとらえるのもやっとだった。
クレイスのテルドの刃に酷似したものを振りかざし、突進したその時。
ドカッ
鈍い音が響く。
痛みがない。
体を見てもさっきと同じ。
しかしふと目の前を見ると。
彼の目の前に広がるのは赤の世界だった。
「う、
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