彼女はジャーナリストであった。
この大戦を世に伝えるために夫婦で戦場を駆けていたが、夫が戦いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
しかし夫は最後の最後までカメラを回し続け、散っていったのだ。
彼の願いは妻の無事と役目の達成。
彼女は終戦まで生き残り、現在に至る。
子は祖国の祖父母に預かってもらっているらしく、帰れる時が来るまでこの小屋で生活しているという。
彼は彼女と共に過ごしている間、『個性』が生まれ始めていた。
一人称は僕になったり、人間のように振舞ったり。
しかも彼は食物を補給しエネルギーに変える高性能で、食事が一番の楽しみだったのだ。
腹が減っているわけではない。
彼女と一緒にいるのが、楽しいのだ。
彼女は僕と過ごしていると、夫のことを思い出すようで、涙を流す。
僕は慰めることしかできなかったけれど、彼女の笑顔がスキだった。
スキ。
また、新しい単語。
胸が熱い。
ショートでもおこした?
違う、これが・・・?
でも僕は機械。人じゃないんだ。
それとも、僕の製作者は、なにをした?
ジニス、博士。
「どうしたの?」
彼女の顔が目の前に現れた。
「イヤ、何デモナイヨ」
彼女は困ったように笑うと、背伸びすると届くぐらいの僕の肩に手を置いた。
「言いなさいよ、私が聞いてあげるから」
ニコリと笑うと僕を小さな椅子に座らせる。
「僕ノ製作者ハ、僕ヲ作ル時ニ何ヲシタノダロウ。ナンテ言ウカ、ティアルヲ見テルト胸ガ苦シクナルンダ」
しばらく間が空くと、ティアルはニヤニヤと笑って僕をじっとみつめた。
怪しい笑顔。よからぬことを考えてるのかな。
「貴方、ほんと可愛いわね、それはね、『心』があるから感じるの」
「ココロ?」
「喜んだり、悲しんだり、怒ったり・・・恋したりする生き物は『心』を持っているの」
部屋を歩き回り、語るようにティアルが言う。
「デモ、僕ハ機械ダヨ?」
そう言うと唐突にティアルが抱きついてきた。
胸にこみ上げるものが感じる。
「ナナナナ、ナニヲ、ティティティ・・・/////」
いたるところから煙がでてショートする気分だった。
体が熱い。
その様子にニコニコと笑って僕を見上げた。
「貴方は、立派な生き物よ、『心』をもつね」
不器用に兵器の腕を憎みながら彼女を包んだ。
「アリガトウ、ティアル」
僕は『ココロ』を知った。
でも、僕は自分は元兵器ということに、恐怖を感じていた。
嫌な予感がする。
黒い影が、僕たちに迫っている気がした。
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