影の喉がぷっくりと膨れ、それは非常に遅い速度で嚥下されていた。
その様を酔ったような表情で見据え、感じる様に前肢を這わし
再度、喉を鳴らした。
「ふふ、今回は数多の命を喰らったな……」
非常に遅い速度、と言ったにもかかわらず喉の膨らみは胃袋に落ち込み
影の腹部を一回り膨らませた。
そして、静かな腹部が一変した。
ボコボコと不規則に歪み、波打ち始めたのだ。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
「溶けはじめたか……ふふ、溶けろ溶けろ」
予め、胃袋内には超強酸の胃液で満たされていたのだ。
胃袋に送り込まれた獲物は最後。
瞬く間もなく、無になるまで消化されるのだ。
消化の激痛に獲物は悶え、胃袋で暴れ回るのだ。
だからこそ、影の腹部について食事後のこれは日常茶飯事なのだ。
獲物のくぐもった断末魔、心地よさすら感じられる矮小な抵抗。
「蕩けてしまえ……」
次第に抵抗は消え失せ、腹部の蠢きも小さなものになっていく。
断末魔も消え、遂には蕩けてしまい影に吸収されてしまう。
「次はどの村を喰ってやろうか……」
夕暮れに灼かれる妖狐。
生物に関わらず、万物が生じる筈の影。
しかし、影にそれはない。
あるはずべきのそこにはただ、夕日の朱が広がるだけー
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