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ーあの兎、モンスターに喰わせようぜー

ーモンスターと会話できるからっていい気になってー

ー区間長、あいつモンスターと結託して解放しようとか言うんじゃないですか?ー

ー俺ら二人で、あの兎喰っちまおうぜー

移住区の休憩室の扉前ー
開け放たれた扉を潜る事も出来ずに
日陰に身を埋めた。
陰口……本人に伝達されている為、そうとは言えないが。
光を浴びる者がいれば、影に追いやられる者もいる。
大抵、影は光を妬み、蔑むのだ。
自分が届かない頂きにいる者を地に堕とそうと。
ボクは泣きそうだった。
今こそ、ここにいる事を望んでいるが
本当は好きでここにいる訳じゃない。
必要とされているから……
この、モンスターと会話できる能力が本当に必要とされているからこそ
ボクはここにいることを望んでいる。
なのに……なのに……なのに!
それを否定して、ボクの存在を否定する。
そんなの、この能力が禍のようなものー
両親を、家族をモンスターに殺されて……
研究員にも否定された……
ボクは……ボクは……ボクはっ!!

ガッ、バタンっ!

ドアを力強く蹴飛ばし
ボクはその場から走り去った。
とにかく、その場から去りたかった。
心をズタズタに酷く掻きむしられて
不可視の重圧に押し潰されそうだった。
きっと、あそこで泣いていたら歯止めが利かなかっただろう。
それこそ、ソル達と結託して復讐でもしてやろうかと
行動を起こしていたかもしれない。
研究員を憎む奴ばかりだからそれは恐ろしい程、容易だろう。
それぞれに渦巻いた怨炎は瞬く間に膨れ上がり
きっと”言葉”と言う制御も意味を成さず、
誰の手中にも収まらない狂獣に成り堕ちるだろう。
「ソルっ……ソルっ!!」
「雌ウサギ……またお前か……」
時刻は夜の帳。
モンスター達も人間も眠っている者を少なからず。
就寝を叩き起こされ、流石のソルもうんざりしたの表情
を浮べて、いかにも不機嫌そうだ。
「お、お前……泣いてんのか?」
コクリ、と頷きボクはソルにその理由を
事細かに伝えた。
「ハッ。その程度なら俺んとこ通る奴らがしょっちゅう零してるぜ」
「えっ……」
いくらかは予想していたけど
いざ、現実を受け止めるには
傷付いた心では出来そうにもなかった。
「その調子だと明日の夕食はお前が持ってくる事になるな。俺んとこに」
「えっ……何で」
「トドメ。非道な俺に殺して貰うんだろうよ」
もう……そこまで進展していたなんて……
これでは、ボクの居場所は……
大粒の涙をボロボロ零しながら俯いた。
両親を殺された忌まわしいここに尽くしてきたのに
その報酬が……死?
そんなのあんまりだ……酷すぎるよ……
「ま、明日の夕食んとき話ぐらいは聞いてやるよ。だから、今日はもう寝な」
「あ……うんっ!」
まだ涙は零れ落ちる。
涙をなんとか堪えてソルに笑顔で応じる。
それに対しソルは
面倒くさそうに、しかしどこか嬉しそうに
鼻を鳴らした。
12/03/08 02:48更新 / セイル

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