空は分厚い灰色の雲に覆われていた。
時折ゴロゴロと鳴るその音は、更に俺たちの気持ちを焦らせる。
「ハブネーク。もう少しだよ! ほら、頑張って!」
ふらつく俺を必死に支えてくれるピカチュウ。
肉食獣ともあろう俺が……なんと情けないことだろうか。
けど、そんなことを気にしている余裕は俺にはなかった。
視界がグラグラと揺れ、少しだけでも気を抜けば意識を手放してしまうかもしれない。
いや、下手したらまたピカチュウに牙を向けてしまうかもしれない。
食料も尽きた。
動物性たんぱく質を摂っていないからか、体に力が入らない。
重たい体を、ピカチュウに引いてもらってようやく動くくらいだ。
このままだと、死ぬということは目に見えていた。
「……それもいいかもな」
「えっ、何? ハブネーク」
俺には、呟いた程度の音量だと思っていたがピカチュウには若干聞こえていたらしい。
ゆっくり微笑み、「何でもない」と言っておいた。
もはや作り笑いをしているということはバレバレだ。
でもやはり、ピカチュウは優しい。
特に問いただすこともしなかった。気を遣ってくれているのだろう。
「――ハブネーク! 着いた。着いたよ!」
ピカチュウの声が脳に響いたような気がした。
顔を上げると、目の前に一面、緑色をした草々が生い茂り、色鮮やかな花が見事に咲き誇っていた。
とても自分が、山の頂きにいるとは思えない。
華やかだ。
例えるなら、そう、“楽園”のような。
ただ、俺はそんなことはどうでもよかった。
願うことはただ一つ。
「――っ! ハブネーク!」
横になりたかった。
「ハブネーク! しっかりし――」
その時だった、俺が倒れるのとほぼ同時に楽園に黄色い閃光がほとばしった。
それはこの場所で一番高いであろう樹木に直撃した。
バリバリッと木が割れる音が耳に突き刺さる。
次の瞬間、その大きな木が傾き、まさに俺たちの方向へと倒れようとしていた。
「っ! ハブネーク! 起きて! 潰されちゃう!」
ピカチュウの声だということは分かってた。
でも何を言っているのかまでは分からなかった。
「ハブネーク! ハブネ――」
木の影が次第に濃くなり、そしてそれは地震を思わせるような爆音を鳴らし、倒れた。
どれだけ時間が過ぎただろうか。
いつの間にか、空からは大粒の冷たい雨が降り注いでいた。
「うっ……うぅ」
よろよろと体を起こし、雨で濡れた顔を拭う。
そこで、顔に激痛が走った。
雨とは違ったヌメヌメとした生暖かい液体。
真っ赤に染まったそれは、俺の左目から流れていた。
「あっ、ぐっあああぁぁ!」
顔をおさえ、その場で叫ぶ。
どうやら、倒れてきた木の枝に引っ掻かれて裂けたらしい。
味わったことのない深い痛み。
俺は叫ぶことしかできなかった。
「ぁぁ。ピ、ピカチュウ?」
そんな時、ふと気付いた。ピカチュウはどこだ、と。
右目だけを開き辺りを見渡す。
ザァァァという雨の音しか聞こえない。
「ピカチュウ! どこだ! どこにいる!」
必死に辺りを見渡す。
その時、見覚えのある黄色い体が見えた。
「っ! ピカチュウ!」
ズルズルと体を引きずり、その黄色いやつに近づく。
それは紛れもなくピカチュウだった。
「ピカチュウ……あぁよかっ――」
言葉を途中で失った。
何故なら、ピカチュウの額からは大量の血が流れ、下半身を木に押し潰されていたからだ。
「ピ、ピカチュウ!」
俺が叫
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