外では、真っ白な雪が降り始めていた。風が冷たい。今夜はかなり冷え込むようだ。
手袋をしているにもかかわらず冷えてくる指先に苛立ちを感じながら、少年はそれに吐息を吹き掛けた。
『グルルルッ……』
「大丈夫だよ、リザードン。なんとかなるって」
冷たい少年の体を気遣うかのようにその巨体を寄り添わせ、心配そうな目付きで少年を見つめるリザードン。それは、彼が最も信頼する手持ちのポケモンだった。
深い山奥で携帯電話は圏外。おまけに凍えるような寒さが、彼とリザードンの心と体を蝕んでいく。
遭難。まさにそれだった。
「お前の翼も、ボロボロになっちまったな……」
『グル……』
長い絶食の影響で、リザードンの翼には所々穴が開いてしまっていた。これでは空を飛んで脱出もできない。無論そんな力も残っていないのが現状なのだが。
とりあえず洞窟の中に避難したはいいものの、凍えることに変わりはない。なんとかこの山に来る登山者やら誰かが気がついてくれないものだろうか。
「……ないよな。そんなこと……」
少年の口元から白いもやが尾を引く。歯がカチカチ鳴るのを堪えることも難しい。耳は悴んで感覚はおろか、音も聞こえにくかった。
チラリとリザードンを見れば、その尻尾の炎はかなり小さくなってしまっていた。お互い、命が尽きるのも時間の問題だ。
『グ……ルル』
「大丈夫か? リザードン」
いくら炎タイプだからといっても、極寒の中で凍えないとは限らない。風が強く吹けば、小さい炎は消えてしまうのだ。
衰弱して、目が細まっていくのを必死に堪える相棒を見て、少年は心が締め付けられるような感覚を味わった。
助けは望めない。脱出もできない。もう無理だろう。そう考えてしまっても、もはや仕方ない。
ただ、一つ。本当に一つだけ、最悪の結果を避ける道がある。
「リザードン……」
全てはお前のため。そのためなら、全てを差し出しても構わない。
「もう、終わりにしよう?」
そう思ったからこそ、彼はその言葉を口にできた。せめて最後は、笑顔で終わらせたかった。
ポケットの中から、霜が付いたモンスターボールを取り出す。大分使い込まれて、所々色がくすんでいるそれを、少年は地面に投げ出した。
硬質な地面に落ちた瞬間、少年は勢いよくそれを踏みつけた。
ガラスが割れるような、不協和音のような音が、洞窟内に響いた。
今この瞬間、二人の関係は無になったも同然。
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