天井のわずかに空いた穴から、月の光が漏れ出してくる。
それは、窓一つないこの真っ暗な空間を照らすにはうってつけであった。
牢獄の中で、一匹の小さな生き物は冷たいコンクリートの壁にもたれ掛かっていた。
天井から差し込むそれをぼんやりと眺める。
ただそれだけを見つめていた。
そしてふと思う。
“そとの世界ってどんなのだったかな”と。
しかし、考えてすぐ顔を横に振る。
それを解き明かすのは、今の自分では無理だ。
やがて、重たい鉄の扉が大きな音をたてて開かれた。
眩しい明かりが目に突き刺さり、おもわず顔を歪ませる。
「実験番号1658番。時間だ、来い!」
今日最後の苦しみが、始まらうとしていた。
これを乗りきれば、また明日も生きることが出来るのだ。
動かない体にムチを打ち、ゆっくりと起き上がる。
【実験番号1658番】
腕に焼き付けられた文字が不意に見えた。
ここで名前を呼ばれたことは一度もない。
母がつけてくれた名前を忘れかけてしまったこともあった。
願わくば、もう一度家族に会いたい。
こんな冷たい場所ではなく、暖かい家族のもとへ帰りたい。
そんなことを思いながら『ヨーギラス』は、とぼとぼと研究員の後をついていくのだった。
「調子はどうだ? 1658番」
「……別に」
「あんまり横暴な態度だと、実験はさらに厳しくなるからな?」
ヨーギラスの縛り付けられた左腕に注射針を突き刺しながら、その研究員は言った。
「っ……。これで血液を採るのは何回目だよ」
いくつになっても慣れない痛みに顔を歪ませる。
少量の血液を採られるだけでも、そこから身体中のエネルギーが抜けるような感じが、するのだ。
それを日に数回繰り返される。
耐えれなくはないが、やはり辛い。
「まぁ、そう言うな。これから投与する薬の前後で何が変わるかを確かめるのに使う、いわば大事な“資料”なのだからな」
薬。
響きはなんだか危ないような気もする、まさにその通りである。
男は、ヨーギラスから採取した血液を立て掛けると、密封された袋に手を入れる。
中から、薄く緑がかった液体の入った、試験管のような容器が出てきた。
危険な匂いしかしないような物だが、それを拒む権利はヨーギラスにはない。
それを注射器に取り付け、ヨーギラスを見つめる。
「そう不安そうな顔をするな。こいつはそんなに対したものじゃない」
ゆっくりと近づいてくる男に少し身構えるヨーギラス。
「べ、別に怖いわけじゃないし」
「ふふ、声が震えているぞ?」
その言葉にハッとして、ヨーギラスは下唇を噛みしめる。
「少し副作用が強いかもしれないが、その辺は了承しろよな」
「なっ! そんなこと聞いてな――」
有無を言わせることなく、再び針を腕に突き刺す男。
じわりと入ってくる液体を感じながら、ふとヨーギラスは袋に書いてあった文字が目に入った。
【進化助長剤】
投与されてすぐ、体が熱く感じられた。
腕から始まったそれは、徐々に体全体に広がっていく。
「う……くぅっ」
身体中から汗が溢れだす。
苦しいというよりも、ただ熱いというだけだった。
それでも、喘いでしまう。
それがしばらく続いた後、体に変化が起きた。
ヨーギラスの体は肥大化し始め、骨格も彼のものではなくなりつつある。
その変化に追い付けず、ヨーギラスを拘束していたロープ状の拘束具が音をたてて裂ける。
ビキビキと骨が軋むような音をあげて、牙と爪が鋭く尖り始めた。
口も前に突き出る。
気がつけば、ヨーギラ
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