鋭い牙が立ち並ぶ空間。
足元には、真っ赤なリザードンの舌が敷かれている。
その柔軟な地面に顔を押し付けられ、リオルは呼吸が上手く出来ずにいた。
ぴったりとついた耳には、リザードンの脈打つ音がはっきりと聞こえていた。
「んっ! んー!」
顔を上げて息をしようと腕を突き出すが、柔らかい舌の上では無意味である。
立ち上がるための力が吸収されてしまうからだ。
口から泡が吹き出る。
もう無理だ。
そう感じた時、リザードンの声がリオルの耳にエコーして聞こえた。
「おっと、死ぬのはまだ早いぞ」
押さえつけられていた力が弱まり、顔が舌から離れる。
リオルは反射的に息をする。
急に大量の酸素を吸い込んだからか、はたまたリザードンの口内が堪らなく獣臭いせいなのか、よく分からないがリオルはむせてしまった。
「ゲホッ! ゲェ! ……」
体が重たい。
苦しさのあまり死にたいと思った。
しかし、リザードンはそれすらも許してはくれなかった。
リオルはリザードンにされるがままに咀嚼され、体を唾液まみれにされ、そして何度も牙に傷つけられた。
体力はもう残っていない。
精神的にも限界を越えていた。
「んく。もういいか」
リザードンがそう言うと、口内に傾斜が生まれた。
彼が頭をもたげたからである。
唾液を塗りたくられた体はいとも簡単に喉の奥を目指して滑っていく。
「いや……助けて」
弱々しいリオルの声は、リザードンには聞こえていない。
一瞬のことだった。
リオルの片足が穴へと吸い込まれたかと思うと、それにつられるように体全体が暗い闇の中へと消えた。
「あぁぁっ――!」
“ゴクリッ”
叫び声もろとも、リオルは飲み込まれてしまった。
リザードンの喉の膨らみが、徐々に胃袋へ向かって下っていく。
やがて流れが止まった。
それが胃袋に到達したことを表していたのは言うまでもない。
膨らんだ部分が微かにだが波打っていた。
「ゲフッ、もう喰えん。腹一杯だ」
膨らんだ腹を擦りながら、リザードンは満足げに言った。
「そいつはよかった。……もうここには用はない。行くぞ」
ルカリオはそう言って小屋を出ようとしたとき、偶然にもあの日撮った写真に気がついた。
あのリオルと一緒に撮った写真だ。
しばらく見ていたら、リザードンに“ククク”と笑われた。
「どうする? 今ならまだ助かるぞ?」
「……いや、いい。どのみち俺はもう無理だ」
『もとの生活に戻ることは不可能』ということだ。
ルカリオは、写真立てを倒して視線を前に戻す。
扉を蹴破って外へ出ると、冷たい空気が肌をピリピリとつついてきた。
続いてリザードンが重たくなった体をなんとか動かしながら出てきた。
そして、そう約束していたのか、リザードンは小屋に向かって火を吐いた。
リオルの小屋が。
ルカリオと過ごした思い出が、激しい真っ赤な炎に包まれていく。
その様子を見ながら、ルカリオは先程見た写真立ての近くに置いてあったペンダントを首にかける。
懐かしい、昔リオルに預けたペンダントである。
「リオル。ごめんな」
ぎゅっとそれを握りしめ、リザードンに向かって声をかける。
冷たい雪の道を踏みしめながら、二匹は燃え盛る小屋を後にしたのだった。
狭い食道に押し潰されながら、リオルは奥へと進んでいく。
唾液を塗りたくられた体は、いとも簡単に食道を流れていく。
だがさっきの舌同様、頭がぴったりと肉壁に密着しているため、息を吸うことが出来ずにいた。
しばらくすると、少しばかり広い
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