街に入るには関税がかかる。
それは大きい街ほど高い。
リオルが訪れたその街、「レナーハルス」はこの辺りでは一番栄えている貿易街だ。
そのため、街の至るところには様々な売店が立ち並び、商人の声が鳴り響く。
久しぶりの街の活気に新鮮さを感じながら、リオルは目的の場所へと向かう。
「たしかここらへん……あっ、いた。おーいブラッキー!」
「んっ? おぉリオル! 久しぶりだなぁ」
体を粉で真っ白に染めたそいつは、リオルの小さい頃からの友人、ブラッキー。
体が粉で真っ白なのは、彼がパン職人の見習いだからだ。
「どう? 最近」
「ん、まあまあかな。何とかぼちぼちやってるよ。とっ、無駄話すると師匠がうるさいからさ。ごめんな」
「あぁ、そうだね」
仕事中の無駄話があまり好かれないのはどこの国でも同じだ。
「それで? こんな時間に来たということは、客として来たんだろ?」
んんっと咳払いしてから、ブラッキーは聞いた。
「うん。ここの小麦粉を袋一杯にして売ってほしいと思ってね」
「……また凄い量だな。何かあったのか?」
高価な小麦粉は貴族以外、客人や式典などで使われるのが一般的だ。
普段は固くて苦いライ麦パンを食べるし、リオルはそんなに嫌いではないので苦にはなっていないのだが、あいにくと今回の客人は安いものでは納得してはくれそうにない。
そんなわけで、高価な小麦粉を購入する羽目になっているのだ。
「ふーん。大変だな」
「まぁね、まだ寄らないといけない場所があるからね」
「そうなんだ。あっ、小麦粉だったな。ちょっと待ってろよ」
そう言うと、ブラッキーは店の奥へと消えていった。
その間、リオルは自分の財布と睨めっこをしていた。
「おまたせ、小麦粉ね。ほら」
はちきれそうな袋を抱えてブラッキーは戻ってきた。
なんだか、さらに白くなった気がする。
「料金は?」
「2シーナでいいぜ」
この量でこの金額は安いほうだ。
そう思って、リオルは銀貨を二枚差し出した。
「まいどっ」
「ありがとう。じゃあ仕事頑張ってね」
挨拶をしてリオルはパン屋をあとにした。
まだまだ買うものは山ほどある。
日がくれる前に帰りたいと、リオルは思った。
やけに静かだと思った。
どうやら連れはこの俺様を置いて、どこかに行ってしまったようだ。
「んー……あふ」
久しぶりのふかふかなベッドのおかげか、やけに目覚めがいい。
昨日死にかけていたのが嘘のように感じられる。
特にすることもなく、ベッドの上でぼーっとする。
外に出ようかと思ったが、雪が降っているからやめにした。
「暇だな……」
ただ時間だけが過ぎていく。
もう一眠りしようかとベッドに横たわった時、暖炉の火が消えかけていることに気がついた。
薪を入れるのはめんどくさいが、これ以上寒くなるのはごめんだ。
「やれやれ」とまた起き上がり、暖炉に近づく。
そして薪を手にしたとき、もう一つ気になることがあった。
「あれ? これ、リオルか? てことは隣は兄さんかな……」
暖炉の棚に置いてあった写真だ。
薪を適当に火の中に投げ込みその写真に釘付けになる。
「なんか、この人どこかで……」
その時、玄関の扉にかかった鍵が外れる音が小屋の中に響いた。
思わず体がビクリと反応してしまう。
「っ! たくっ、びっくりさせるなよ。おいリオ――」
言葉を失ったのは、入って来たのがリオルではなかったから。
まさか、いやそんなわけない。
これは夢だ。俺はまた寝ぼけてるんだ。
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