昨日は雪が降った。
家に着く前までは何ともなかったから、おそらく夜中の間に積もったのだろう。
やわらかな木漏れ日が、彼、「リオル」の顔を優しく照らす。
夏の青々とした森の風景とは違い、一面真っ白な世界に思わず心が歓喜する。
正直、窓を開けたとき一面銀色だったのには驚いた。
なにせここでの生活の中で、初めての雪だったからだ。
街の辺りでは、きっとクリスマスだのプレゼントだのと騒いでいることだろう。
クリスマスの聖夜には、少し街に出向くのもいいかもしれない。
もちろん、今やっている仕事が終わってからの話だが。
「フゥ。早く終わらせよっと」
悴んだ手を互いに擦り合わせて、それから再び斧を握り、一本だけ立てた薪に向かって斧を振り上げる。
パキッという乾いた音が、山の中に響いた。
「くっ……いてぇ……」
薄暗い森の深部。
そんな不気味な場所で、一匹のポケモン「ルクシオ」が静かに呟いた。
よく見ると、彼の前足からはだらだらと真っ赤な血が流れていた。
それは徐々に、真っ白だった雪にどす黒い色を植え付けていく。
ハァハァと荒い息を繰り返すその様子からは、ただ事ではない雰囲気がにじみ出ていた。
「くそっ! 何で俺がこんな目に!」
パチパチと体から電気を放電しながら、ルクシオは顔をしかめる。
“ガサッ”
突然の草がかき分けられる音に、ルクシオの体はビクリと反応する。
額には汗をかいていた。
「ど、どこだ! でてこ――」
一瞬の出来事だった。
ルクシオは何の抵抗も出来ないまま、枯れ木のごとくなぎ倒された。
不意を突かれたルクシオは、無惨に地面に叩きつけられる。
すぐ後ろには、大きな崖がぽっかりと口を開けていた。
「カハッ! ゲホッ!」
「フン。最初の威勢は嘘だったのか?」
首をポキポキとならしながら現れたのは、体長がルクシオの二倍はあるだろう大きなリザードンだった。
「う、うるさい! 俺は……」
「まだ戦える」その言葉が言えなかったのは、リザードンに首を掴まれたからだ。
「ひぅ! い……息が……でき……」
「このままそのか細い首をへし折ってもいいのだがな」
その言葉に、ルクシオは背筋が凍った。
恐怖と苦しみが混じり合いと姿を見せていた。
次の瞬間、ルクシオの体は投げ出されていた。
「安心しろ。我輩も首をへし折るという残虐な真似はしない」
ホッとしたのもつかの間、リザードンはニヤリと笑ってこう言った。
「だが、食欲には打ち勝てん」
体に電気が走ったかのような感覚をおぼえた。
おもわず体が震えだす。それは恐怖以外の何物でもない。
「しかも若くて柔らかい肉塊となると、我慢など出来るわけがなかろう」
ルクシオは体の震えを止められずにいた。
動かないといけない。
逃げないと、自分は喰われる。
そう思っていても、体が言うことをきいてくれない。まるで足を地面に縫い付けらているかのように。
猟犬に睨まれた鳥は空を飛べない。
蛇に睨まれた蛙は、飲み込まれるまでその場でじっとしている。
絶対的な天敵に本気で睨まれたとき、獲物は獲物としてしか振る舞えなくなる。
ルクシオはまさにその状態だった。
「う……あ……」
情けない声を漏らす。
恐怖のあまり、表情を変えることもできない。
目を見開き、「やめてくれ」と訴える。
もちろんそれが無意味だったということは、言うまでもない。
「久しぶりの獲物だ。ゆっくりと楽しませてもらおうか」
顔をルクシオに近づけ、口を大きく開く。
真っ赤な舌は、嬉しそうにうねうね
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