「はぁ…はぁ…」
破裂しそうな勢いで拍動する心臓、全身から噴き出す冷や汗
暗い部屋に再び静寂が訪れた
本田の体は恐怖に支配され、ほんの些細な物音にも悲鳴をあげてしまう
ガタガタと震えながら周囲を警戒する
「…っ!?」
ふとパソコンの黒い画面に何かが映った気がし、咄嗟に振り向こうとした
しかしホラー映画を思い出し、自身の動きを封じる
“振り返れば殺されるかもしれない”
その考えが彼を引き止めるが、彼の好奇心が見たいと言い張る
葛藤した末、本田は目を瞑りながら振り返ることを決意した
ゆっくりと踵を返し、心の中でカウントダウンを始める
3…2…1…
「!!!…あれ?」
思い切って目を開けるが、そこには何もなく半開きの扉と彼のベッドがあるだけだった
「気のせいか…」
胸を撫で下ろそうとした瞬間だった
ボタッ!
本田の肩に何かが落ちてきた
それは粘っこく、生臭い匂いがした
本田は恐る恐る謎の液体が落ちてきた天井を仰いだ
いた。
巨大な狐…五本の尾をもつ妖狐がいた
天井から紅い瞳で本田を見据えており、口元からは本田の肩にかかった液体を零していた
「あっ……っ!!?」
悲鳴を上げようとした瞬間に妖狐が本田にのしかかる
「ほっほっほっ、妾を呼び出したのはお主でありんすか?」
「ぁっ、あっ…しゃ、喋った…」
立て続けに起こる事に本田は言葉を失った
近くで見ると妖狐はテレビ等でよく見かける狐と変わらない容姿をしている
耳と手足は黒く、顔から背中にかけて綺麗な狐色の体毛をもち、腹部と尻尾の先は真っ白な狐である
他の狐と違う点は、軽く五メートルを超える程の巨躯の持ち主であることと尻尾の数である
よくよく見れば尻尾の生え際に四つ、何かで切られた跡があった
元々は九尾…でも四本も尻尾は斬られ、五尾の狐となったらしい
それがまたその妖狐がどれくらい長く生き、人間を襲ったのかを物語っているようだった
妖狐は本田の顔を見ると真っ赤な舌を口の端から端へと這わせる
そして牙を覗かせながら不適な笑みを浮かべた
「美味そうな人間でありんすね、どれ…」
ベロォォ…
「んん!!」
妖狐の唾液を纏った舌が本田の顔をゆっくりと舐めあげる
本田との間に何本か糸を引きながら舌を戻し、味を確かめる為に口を小さく動かした
「やはり人間は美味でありんすね」
そう言うと目を細め、また舌なめずりをした
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