「ただいま」
玄関の扉を開け、誰もいない家に一人呟く
本田の両親は共働きで夜遅くまで家に帰って来ない
一人かったるそうに靴を脱ぎ、自分の部屋へと入った
部屋はベッドと勉強机、パソコンが置かれたいたって普通の部屋である
ドサッと鞄を置き、あの赤い紙を机の上に広げた
教室で皆が言ってた事を思い出しながら、十円玉を鳥居の絵の上に置き、指を置く
一人でやってはいけないと聞いたのも思い出していたが、まだ迷信だと思い込んでる本田は気にしなかった
「こっくりさん、こっくりさん。どうぞおいで下さい。もしおいでになられましたら“はい”の方までお進み下さい」
少しの静寂が訪れる
物音一つしない空間で本田は周りを見回し、また溜息をついた
「やっぱり迷信…ん゛っ!?」
急に空気が重くなった
何か重いものがのしかかってきた様な感覚と、妙な息苦しさが本田を襲う
本田はその息苦しさに悶えながらも、指を離そうとした
しかし指は十円玉にくっついた様に離れることはなく、気がついた時には……
「え…こ、こっくりさん…?」
十円玉は本田の指を乗せたまま“はい”へ移動していた
本田は慌てて姿勢を正し、十円玉を見つめる
「こ、こっくりさん、こっくりさん。僕の友達の田中は今何してますか?」
田中とは今日彼に話し掛けてきたあの男子生徒である
スッ…
“て”“に”“す”
「テニス…合ってる…」
田中はテニス部に所属している
時計を見てもまだ部活動をしている時間だった
本田は驚きを隠せなかった
迷信だと思っていた『こっくりさん』は本物だったのだから
戦慄と恐怖が走る。それと同時に本田は感動というものを覚えていた
そしてほんの数秒、十円玉を見つめると彼は決意を固めた
「鳥居の位置までお戻り下さい」
また十円玉がスッと動き出し、鳥居の絵の上に移動する
決して本田が動かしているわけではない
机が傾いてるわけでもない
「では、こっくりさん、こっくりさん」
深く息を吸った後に本題へと入った
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