「っ?こ、ここは…?」
暗い森の中
陽が沈み始めたのか、周りが淡い橙色に染まっている
その中で彼が目を覚ました
あの魔女に喰われた青年だ
消化された事を思いだし、辺りをキョロキョロと見渡している
「起きたか?」
背後から聞こえる声
反射的に彼の体が震える
恐る恐る振り返れば……
魔女がいた
姿は金竜のままだ
「え、何で…」
青年は混乱した
蘇生する気はないと言った魔女が、蘇生術を使ったのだから
その疑問に彼女は不適な笑みを浮かべたまま言った
「良い悲鳴だったな」
本当に死を怖れるものにしか出せないあの断末魔
それを聞く為に、わざと言ったらしい
「酷い方だ…じゃあ帰らせて…」
「待て」
またニヤリと魔女が笑う
その笑みに嫌な予感がし、彼を戦慄させる
「蘇生したら帰してやる、なんて何時言った?」
予感は的中だ
青年は蘇生術を使う条件を飲んだ事に酷く後悔した
彼の人生が大きく歪み、変わる
真っ白になった頭の中には、魔女の笑い声が一際大きく響いていた
尻尾が彼を彼女の元まで引き寄せる
また間近で見る竜の腹、そして邪な笑みを浮かべ続ける魔女
「フフフ…お前はもう私の物だ
何処にも逃がさないぞ」
突きつけられたものは死より残酷なもの
相方は殺され、人生まで奪われてしまった青年
気がつけば、彼の頭上にはあの大口が開かれていた
何度見てもその光景は恐ろしい
下顎から零れた唾液が彼の顔にかかった
何が恐ろしいと言えば…
「こ、今度は優しく食べて下さい…」
唾液で濡れた顔で発する言葉
最初の捕食に対する抵抗が消え始めていた
体だけではなく、心までもが蕩けてしまったようだ
殺すはずだった人喰い魔女に玩具に変えられてしまった青年
逆に彼は殺された
そして玩具という新しい命を与えられたのだ
つまり彼はこの先、魔女の玩具として生きていかなければならない
何度も喰われては蘇生されの繰り返し
それが死ぬまで続くのだ
悲しい運命のはずだが彼は何処か嬉しそうな顔をしていた
それは、魔法にでもかけられたようだ
「優しくか…フフ、約束は出来ないな」
魔女にかけられた“魔法”
それが解ける日は彼に訪れるのだろうか…
人喰い魔女の森
そこへ入れば、帰れなくなるそうですよ
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