「ん…」
打ち所が悪かったのか、気を失っていたようだ
まだ意識がはっきりしないまま、何とか起き上がろうとしたが…
ぶにゅり
「えっ?きゃっ!」
床が異常に柔らかい…
手首までその床の中に埋まってしまった
何というか、小学校の時に作ったスライムに手を突っ込んだ時と同じ感触
しかも粘ついた何かが絡みついてくる
真っ暗な為、一体これが何なのか分からない…
蜘蛛の巣にしては、やけにドロドロしている
とりあえず一言で言えば気持ち悪い
そんな場所に私は体勢を崩して、うつ伏せにまた倒れてしまう
むにゅっ、と顔に張り付く床に鳥肌が立つ
生暖かくて、湿り気を帯びた柔らかい床…
空気も冷たいものから温かいものに変わっている
しかも何処か生臭い
最初は何か分からなかった
耳を済ませると暗闇の中、どくん、どくんと心臓の鼓動音が聞こえてくる
更にぐちゅぐちゅと、粘着質な音もこの空間に谺している
まさか…と思った
「違う!有り得ない!!!」
私は体内にいる
恐らく主はあの狼だろう
つまり私は狼に食べられた…
この事実を受け入れたくない、認めたくない
だから思いっきり床を叩いた
床…いや、胃壁はまた波打ちながら揺れ、私の手を呑み込んでしまう
そのままムニムニと小さく動いて揉んでくる
くすぐったいような気持ち悪さ
それでも私は何度も叩き、体内からの脱出を試みる
でもそれは無意味な行動に過ぎない
むしろ命の終焉に自ら近づいて行ってるようなものだった
そう、刺激された胃壁は動きが活発になる
気がつけば私の体は、奥に引きずり込まれていた
ズプズプと音を立ててウォーターベッドの様な感触がする肉壁の隙間に埋められる
全身に感じる圧迫感
息は何とか出来るが、あまりこの空気を吸いたくない…
上下左右、全てが分からない場所で私はもう一度抵抗してみる
べちゃっ、ぶにゅっ…ぺちゃっ、むにゅっ…
やっぱり無駄だった
弾力のあるスライムの様な胃壁は衝撃を全部吸収している
そして、今度は此方の番だと言わんばかりに私の体を揉み始める
ぐちゅっ…ぬちゅ…、にちゃぁぁ…
胃壁は前後左右、時には円を描くように蠢く
先程よりも体を揉む強さが変わっており、少し息苦しい
更に胃壁が動く度に私の体には濃厚な体液がコーティングされていった
ぬるぬる、ねとねと
頭から爪先までの全部にその感触が伝わる
このまま私は狼の栄養になっちゃうんだ…
そう思った瞬間、また胃壁が動き出す
苦しいぐらいに胃壁が私を圧迫してくる
そしてまた蠢き始めた
でもさっきのと違う動き…
上へ上へと移動しているようだ
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