「お、狼?」
目の前の光景が信じられなかった
こんな場所に狼、しかも真っ黄色
呑気そうに欠伸をして、後ろ足で耳の後ろをかいている
「あっ!」
狼と視線が合ってしまう
完全に気づかれてしまった
私を見ると狼は一歩ずつ近づいてくる
逃げろ、と頭の中で警報が鳴り響く
このままでは食い殺されてしまうかもしれない
だから私は踵を返し、走ろうとした
しかし相手は狼
素早さは人間よりも速い
バタッ!!
「うっ!」
あっという間に追いつかれ、私は押し倒されてしまった
床の冷たさを感じながら、手足をばたつかせてみる
でも無駄だった
くんくん、と狼が私の匂いを嗅ぎ始める
その度にかかる鼻息に、軽く悶えてしまう
もうダメだ、私はこの狼に殺されてしまう
そう思った時だった
「遊ぼ」
突然声が聞こえてきた
それと同時に私を押さえつける足が退く
私は急いで起き上がり、周りを見る
私以外に人間はいない
だとすると声の発生源はただ一つ…
「遊ぼ!」
この狼だった
「しゃ、喋った!?」
動揺を隠せなかった
目の前にいるのは肉食獣
しかも大きさは、普通の狼と桁違いに大きい
4、5メートルは普通にある
私なんか一呑み出来る大きさだ
それが今、犬のように尻尾を振り、私に話しかけてくる
一気に恐怖心が消え去る
まだ不安ではあるが、ホッとした
「あ〜そ〜ぼぉ〜
ボクお姉ちゃんと凄く遊びたい!」
狼の表情ってイマイチ読み取れない
でもこの狼は無邪気な笑顔をしているに違いない
ただ純粋に遊びたいのだろう
でも私はそんな気分ではなかった
今は誰とも話したくない…相手が狼でも
一人で居たいという気持ちの方が強い
「また今度ね」
起き上がりながら言い、埃を払う
そして狼を一瞥すると階段へ向かった
けれど簡単には帰してくれないみたい
タッタッと後ろから走ってくる音がするかと思えば、すぐ隣に狼がいた
翡翠色の綺麗な瞳を輝かせて私を見上げてくる
「遊ぼうよ!」
尻尾を左右に大きく振り、私の周りを走り出す
飼い主に甘える犬と同じ仕草
でも…やっぱり私は遊びたくなかった
「今は遊ぶ気分じゃないの」
そう冷たく言った
動物好きな人を怒らせてしまいそう、と自分でも思った
それでもまだ狼は私についてくる
それを無視して階段の近くまで来た
「ちょっと離れてよ!」
階段を降りようとしたけど、狼がくっついて来て降りにくくなっていた
擦り寄るように私にくっついている
そして、案の定…
「きゃぁぁっ!」
私は階段から転げ落ちた
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