* * *
早く終わらそうと意気込んだものの、再開後はすぐにやる気も下がっていった。終わり
の見えない単純作業には気が滅入ってくるし、力を入れてごしごし擦っていると手も疲れて
くる。無意識に手だけが動いているような感じだ。
「あー、やだ。もう、やってらんない。疲れたぁ……」
せっせと手を動かしながら、オルガに聞こえないように呟く。あたしは、本当に焦った
り鬱憤が溜まってたりすると、言っても仕方ない独り言をついブツブツと口にしてしまう。
今のもそういう類のものだ。体の中に溜めこんだ苛々を何らかの形で外に出さないと、と
てもじゃないけど耐えられない。
とは言え、相当な時間を掛けて、残り半分くらいにはなった。いや、まだ半分か。ええ
い、物は言い様だ。とにかく始めと比べればかなり進んでいる。もう一頑張りだ。
「ねぇ、もう少し早くできないかな」
……折角自分を奮い立たせたのに、オルガの余計な一言で一気に萎える。
「あのさぁ、真面目にやってるんだから、水差すようなこと言わないでくんない?」
「そうは言っても、このペースだと日が暮れちゃうよ。顎も疲れてきたし、お腹だって空
いてる」
その時、間抜けな調子の低い音が、下の方で鳴った。オルガの腹の音だ。自分の意志で
どうこう出来るものじゃないけど、急かされているようで気に障る。あたしだって空いて
るんだよ!
「だったら、あんたが自分で磨けばいいじゃん。その方が断然早く終わるよ。ちまっこい
あたしだから時間がかかるんだし。不便な思いをしてまで、あたしにこんなことやらせる
必要ないでしょ」
あたしはここぞとばかりにそう提案した。だって、そうだろう。このままあたしが長い
作業を続けたところで、お互い何の得もない。
「うーん、それもそうだね」
オルガは少し考えた後、あたしを口から取り出す。やれやれ、やっと解放される。そう
思ってホッと一息吐いた。
すると、どういう訳かオルガがあたしの体を軽く握った。首から上が拳の外に出ている
という格好だ。
「何するの?」
「何って、自分で牙を磨くんだよ。君の意見に従ってさ」
「牙を磨くのにあたしは関係ないじゃん。離してよ」
「何言ってるの。関係大ありだよ」
オルガはあたしの顔を牙の目の前に持っていく。まだ磨いてない、汚い牙だ。嫌な予感
を覚えて、確認のために口を開く。
「あの、さぁ。もしかして……あたしで*≠アうとしてない?」
「言っておくけど、君に牙を磨かせているのは、口答えへの罰でもあるんだよ。お腹が空
いたなんていう理由で免じてやるほど、俺は甘くない」
オルガはあたしを更に牙に近づける。舌をチロッと出せば牙に届いてしまいそうなほど
の近さだ。
「幸い、君の首から上は細長い造りになってるからね。隙間もしっかり磨けて便利だ」
「嫌、やだっ、やめてっ!」
オルガの手に掴まれているあたしは、唯一自由になっている頭を横にぶんぶんと振って
抵抗した。いくらなんでもそんな乱暴な扱いは受けたくない。
だけどオルガは一切気にすることなく、あたしの顔を牙に押し付けた。
「いやあぁぁぁぁぁ!!」
あたしの視点が全く定まらないほどに、オルガはぐいぐいと力任せに牙の表面で上下さ
せる。お蔭で歯垢はごっそり取れ、顔にへばり付いた。目に入るといけないので目を固く
閉じる。口もがっちりと閉じた。顔の左半分が歯垢でいっぱいになると、次は右半分、そ
の次は首から下顎の裏にかけての部分を使って磨く。そうしてあたしの首から上が歯垢に
埋もれると、一旦口から
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