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連載小説
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ページ3
 ……呑み込んだグラエナの体が完全に溶けてしまってから数日後のお昼下がり。村の広場を久し振りに訪れた僕は、今まさに広場のど真ん中で、僕の到着を喜ぶ村の子供達の盛大な歓声に囲まれている真っ最中だった。子供達がここまでの喜びを見せているのは、僕がしばらくぶりに村を訪れたからという理由もあるにはあるのだろうが、何よりも村の子供達が僕の到着を喜んでいる理由――それは今や僕の顎の下に重くぶら下がる、この島のジャングルに実るどんなフルーツよりも甘く豊潤な香りを力強く辺りに漂わせている、完全に熟した僕の首のフサだった。
 子供達は、今日は僕の首のフサを食べられる日という事ではしゃいでいるのだった。もっとも僕の方も僕の方で、今日はこの熟した首のフサを子供達にプレゼントする目的で村にやって来ているのではあるのだが。
 さぁ、僕から君達へのプレゼントだ。
 僕は首を地面のすぐ近くまで下ろし、子供達に僕の首のフサを取るように促した。その途端、我先にと僕の首のフサを手に入れようとする子供達を大声で制したのは……例の白いワンピースの少女だった。
「みんな! ストップ、ストップ! 取り合いなんてみっともないよ!」
 彼女は子供達の集団のど真ん中に立ち、子供達にそう言って呼び掛ける。
「ココの言う通りだ。この子二人なんだけど……まだ一度もトロピコの首のフサを食べたことがないんだ」
 白いワンピースの少女の言葉に呼応する形で、子供達の集団の後ろの方から二人の幼児の手を引いて前に出て来たのは、パオという名前の例の半裸の少年だった。そんな彼に連れられて前に出てきたのは、この前に僕の背中の上に乗っかって早く僕の首のフサを食べたいと言っていた三つ編みの髪をした小さな女の子と……右腕に真っ白い包帯がぐるぐる巻きにされてある、青いTシャツを着た幼い男の子だった。
 この幼い男の子こそ、僕が村に子供達と遊びにやって来れば決まって顔を見せている男の子なのだ。やはりグラエナに襲われて怪我をしていたのはこの男の子だったらしい。
「みんな、この二人に先に食べさせてあげよう! ねっ? みんなもその方が良いと思わない?」
 白いワンピースの少女が一人一人の子供の顔を見て回ると、子供達はみんな揃って首を縦に振るのだった。この白いワンピースの少女だが、僕が最後に見た時よりも随分と精神的に成長しているような印象を受ける。あれから村長からも色々と言われたのだろう。
 白いワンピースの少女は、そこで僕の顔を見てきた。
「トロピコ、お願い! 先にこの子達二人にフサを食べさせてあげて!」
 お安い御用さ。僕は笑顔でワンピースの少女に頷いて見せ、幼い子供二人の方へとたわわにフサを実らせた首を伸ばす。二人の子供は、さも嬉しそうな表情を覗かせながら一本ずつ僕の首からフサをもぎ取り、早速皮を剥いてしまって大きく口を開けてフサにかぶり付くのだった。途端、二人の子供は目の色を輝かせ始め、三つ編みの女の子が感激の声を上げる。
「わー! すっごく甘い! ブンちゃん、良かったね! ケガが今日までに治って!」
「うん!」
 腕に包帯を巻いた男の子は少女の声に元気そうな声で頷いて応じる。もう怪我の心配はなさそうだ。……また今日から僕と一緒に仲良く遊ぼうな。僕はおいしそうにフサを頬張る男の子の横顔を見つめながら、そんな事を思うのだった。
 その後も小さい子供の順番で僕の首のフサを子供達に手渡して行き……子供達は皆で仲良く僕の首のフサを堪能するのだった。今回の僕の首のフサは村の子供達からは中々の評判のようだ。特に白いワンピースの少女や半裸の少年を含む年長の子供達は、口々に今まで食べた僕の首のフサの中で一番甘いなどと僕に言ってくれたものだったから素直に嬉しかった。
 それもその筈で、僕が普段は口にする事のない動物質の栄養こそが僕の首のフサの味をより一層甘くするのである。少し前に僕が失敬した村の結婚の宴の残飯……そして何よりも、丸呑みにしたグラエナの体が僕にもたらしてくれた栄養――すなわち、僕の胃袋の中でドロドロに溶けていった彼の毛皮、内臓、肉、そして骨こそが、このフサを甘く、そして栄養満点にしてくれた真の立役者なのだ。
「トロピコ! 今回もありがとうね! トロピコの首のフサ、とってもおいしいよ! ここまでおいしいフサをごちそうして貰ったんだから、私達も何かお礼を考えなきゃね!」
 僕の背中の上によじ登ってフサを食べていた白いワンピースの少女が弾んだ声を上げる。
 ――君達の笑顔こそが僕にとっての一番のお礼さ。さて、今日はどんな事をして遊ぼうか。
僕は背中の上のワンピースの少女に向かって静かにほほ笑み掛けるのだった。
13/02/21 02:25更新 / こまいぬ
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