PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル

連載小説
[TOP][目次]
真夏の決闘【残】【血】
「この一瞬で終わりだぁ! 死ねぇぇぇぇぇい!」
 強靭な後ろ足で地面を蹴って突進するオーダイル。まるで瞬間移動のようだった。あっという間にベロベルトの目と鼻の先に迫った彼は、丸太のような右腕を振り上げ――
「ラァッ!」
 巨大な拳をベロベルトの脳天めがけて勢いよく振り下ろす。
「くぅっ……!」
 なんとか身をひねってギリギリのところでかわすも、その一撃で終わる訳がなかった。続けざまに右の後ろ足で踏み切って前宙を決めたオーダイルは――
「アクアテール!」
 一回転すると同時に太い尻尾で薙ぎ払ってくる。
「……それっ!」
 くるんっ!
 もう左右にも後ろにも逃げ場はないと悟り、一か八か前転で回避を試みたベロベルトだったが、その選択は吉と出た。上手い具合にオーダイルの股の間をくぐり抜けた彼は、思いがけず相手の背後を取ることに成功する。
「ちょこまか逃げ回りやがって! ぶっ殺してやる!」
 反撃のチャンスだった。すぐさま立ち上がって口を半開きにするベロベルト。相手が振り向いて突撃してきた瞬間、彼は冷静に狙いを定め、
「させるもんか! ベロォォォォォン!」
 進化して更に長くなった舌を素早く伸ばし――
 ベチャッ! ……ネバァァァァァァッ!
 オーダイルの顔を力いっぱい舐め上げる。
「ぐぁっ!?」
 目潰しを食らう形になり、両手で顔を覆って膝をつくオーダイル。この隙を逃す手はなかった。巻き取った舌を口の中に仕舞ったベロベルトは、乾坤一擲の大勝負に打って出る。
「今だっ! まるくなる!」
 丸々と太ったエーフィとブラッキーを大便にすることで得た養分がギッシリと詰まった胴体に、五体と尻尾を引っ込めて完全な球体となった彼は、
「からの、ころがる!」
 砂の地面の上を転がり始め、一気に加速していく。
「……ちぃっ! 気色の悪い真似しやがって! バラバラにしてやらぁ!」
 顔中に塗りたくられた臭いベトベトを拭い去って視界を取り戻す頃には、そう簡単に追い付けない場所まで逃走を許してしまっていた。立ち上がって大顎を開くオーダイル。彼の喉奥から青白い光が放たれ始める。
 狙うは砂煙を巻き上げながら湖畔を転がる桃色の大玉だった。接近戦を諦めた彼は、口から撃ち出す高圧水流でベロベルトを仕留める作戦に出る。
「……来た! くそぉ、どうか当たらないで!」
 祈るしかなかった。狙いを定められないよう蛇行運転を開始するベロベルト。身を隠せそうな岩を運よく近くに見つけ、その裏側に回り込んだ次の瞬間――
「くたばりやがれ!」
 ズガァァァァァァン!
 オーダイルの口から発射された超高圧のジェット水流が直撃し、岩は跡形もなく爆発四散する。
「ひぃぃぃぃぃぃっ!?」
 あと一瞬でも遅ければ自分が粉砕されていたに違いなかった。彼は恐怖のあまり絶叫する。
「ちっ、手前の岩に当たったか! だが……次は外さねぇ!」
 すかさず次の一撃を繰り出しにかかるオーダイル。危機的な状況に変わりはなかったが、
「よし、今ので分かったぞ……!」
 ベロベルトは一つの希望を見出していた。相手の攻撃の隙に気付いたのである。
 それは発射の直前にオーダイルの喉奥から閃光が放たれること。その瞬間に急旋回すれば、
 ヒュッ! ……バシャァァァァァン!
「ぐぅっ……!」
 決して回避は不可能ではなかった。爆発で巻き上げられた砂と大量の水飛沫を浴びるも被害は軽微。グッと堪えた彼は速度を落とすことなく転がり続ける。
「でも、このままじゃジリ貧だ……!」
 しかし、その速度が思うように出なかった。砂浜のため地面に力が吸収されてしまうのである。ベロベルトは焦りを募らせる。
「えぇい、こうなったら……!」
 やるしかなかった。覚悟を決めた彼は急カーブして進路を変える。
「あぁ!?」
 三発目を発射するのも忘れて棒立ちになるオーダイル。鬱蒼とした木々が生い茂る森へとベロベルトが一直線に突っ込んでいったのだから無理もない話だった。彼は指差して笑わずにはいられない。
「グハハハハッ! 大馬鹿野郎が! 飛んで火に入る夏の虫とはこのことよ!」
 もはや攻撃する必要さえなかった。木に衝突して自滅するのを待ちさえすればよいのだから。高みの見物を決め込み始めたオーダイルだったが、
「うおぉぉぉぉぉっ!」
 よく締まった土の地面の上を走り始めたベロベルトは、そんな彼の予想に反し、迫りくる森の木々を次々とかわしながら加速度的にスピードを上げていく。
「ばっ、馬鹿な!? 避けただと!? 俺は夢でも見ているのか……!?」
 進化して脳味噌が大きくなった結果、情報の処理能力が格段に向上し、高速で転がって移動している最中でも難なく障害物を避けられるようになっていたのだった。そんなこととはつゆ知らず、木立の中を爆走し続けるベロベルトを呆然と眺めるオーダイル。やがて我に返り、慌てて攻撃を再開するも――
「クソッ! また外した! どっ、どうなってやがる!?」
 口から発射したジェット水流は相手の背中を掠めたのみ。その動きは完全に見切られていた。
「……よしっ、この調子! さぁ、もう一踏ん張りだ!」
 自信を深めるベロベルト。更に加速した彼は見事なスラローム走行で森の中を突き進む。
「こうなりゃ奥の手だ! 生き埋めにしてやる!」
 まだ策はあった。というよりも、ベロベルトが森の中を転がり始めたことで生まれてしまっていた。オーダイルは相手の進行方向の先にある木立に狙いを定め、
「遊びは終わりだ! ハイドロポンプ!」
 口からジェット水流を吐き出すと同時に右から左へと首を振るい、森の木々をバラバラに切り刻む。次の瞬間、それまで単なる障害物に過ぎなかった森の木々が、倒木となってベロベルトに襲いかかり始める。
「いっくぞぉぉぉぉぉぉ!」
 しかし、彼は動じなかった。雄叫びを上げると同時にラストスパートをかけるベロベルト。何本もの倒木を急旋回でかわし、次々と降ってくる太い幹の真下を紙一重で潜り抜け、とうとう彼はギャロップが走る速さにまで到達する。
 これで準備は万端だった。狙うはオーダイルただ一匹。彼は湖畔へと進路を取る。
「必ず……必ずアイツを倒すんだ! 生き延びるために……!」
 その一心だった。しかし、あと少しで森を抜けるというところで、
 バキッ! ベキッ! メリメリメリィッ! ……ドッシャァァァァァン!
 巨大な木が横倒しになり、彼の進路を塞いでしまう。高圧水流で根元の大部分を抉り取られた木が今になって倒れてきたのだった。
「そんな……!?」
 もう回避する時間はなかった。ベロベルトは最大速度のまま――
 ドガァァァァァァン!
 倒木に真正面から激突してしまうのだった。
「けっ、ざまぁねぇな。お似合いの最期だぜ!」
 爆発と共に上がった巨大な土煙を眺めながら皮肉な笑みを浮かべるオーダイル。動けなくなった相手なら撃つのは簡単だった。大顎を開いた彼は土煙の発生源に狙いを定める。
「仕上げだ! 細切れにしてやる!」
 オーダイルの喉奥が青白い光を放ち始めた――次の瞬間だった。
「あぁぁぁぁぁぁっ!」
 土煙の中から絶叫と共にベロベルトが転がり出てくる。彼は無事だった。土煙の中で粉砕されたのは倒木の方だったのである。
「なっ!? 突き破っただとぉ!?」
 開いた口が塞がらないオーダイル。発射寸前だったジェット水流も動揺のあまり撃てなくなってしまう。
 逃げるしかなかった。脇目も振らず走り出そうとする彼だったが――
 ピシャッ! ビリビリビリビリッ!
「ぐわぁぁぁぁぁぁっ!?」
 突如として、雷に打たれたような感覚が脳天から爪先まで駆け抜ける。これでは走るどころか歩くことすらできなかった。オーダイルは体が痺れて動けなくなってしまう。
 ベロベルトに顔を舐められたのが原因だった。どんな物も溶かす成分がたっぷり含まれた唾液が、鎧のように分厚い鱗すらも溶かして体内へと侵入を果たし、血流に乗って全身に運ばれることによって彼を麻痺させたのである。
「うっ、嘘だ……! この俺様が……こんな奴隷ごときに……!」
 仰け反りながらビクビクと痙攣するオーダイル。もう逃げられなかった。ベロベルトはオーダイルに向かってフルスピードで突っ込んでいき――
「それぇぇぇぇぇぇっ!」
 バゴォォォォォォン!
 そして激突する。衝突の衝撃でロケットのように打ち上げられてしまうオーダイル。ぐんぐんと高度を上げていき、やがて森で一番の背丈を誇る大木と同じ高さまで達し、
「負ける……なん……て……! ぐはぁっ……!」
 そして高度を下げ始める。白目を剥いた彼の口から大量の鮮血が溢れ出す。
「トドメだぁっ! ベロォォォォォン!」
 引っ込めていた五体と尻尾を出して見事に着地したベロベルトは、ボロ雑巾と化したオーダイルめがけて長い舌を思い切り伸ばし、
 シュルシュルシュルッ! ギュムッ!
 首から上を除いてグルグル巻きにする。そして、
「えぇぇぇぇぇぇぇい!」
 オーダイルが日光浴に使っていた岩のテーブルめがけて渾身の力で振り下ろし――
 グチャッ!
 情け容赦なく頭のトサカから叩き付ける。よく熟れたマトマの実が潰れるような音と共に頭骨を粉砕され、大切な脳味噌を全部ぶちまけてしまうオーダイル。再起不能が確定した彼は、活け造りにされた魚ポケモンみたく全身を小刻みに震わせながら、地獄の底へと真っ逆さまに落ちていったのだった。
「はぁっ……はぁっ……! たっ、倒したぁっ……!」
 脱力して軟体動物のようにグニャグニャになったオーダイルを岩のテーブルの上に横たえ、伸ばしていた長い舌を巻き取って口の中に仕舞うベロベルト。その瞬間に緊張の糸を切らした彼は、
 ドサッ!
 背中から砂浜に大の字で倒れ込む。
 肩を上下させながら荒い息をするベロベルト。そんな彼の視界いっぱいに飛び込んできたのは、吸い込まれるように青い快晴の空だった。彼は右手の拳を高々と突き上げる。
「勝った……勝ったんだ……!」
 そう独り言ちた彼は、雲一つない空に向かって微笑むのだった。
24/08/11 07:27更新 / こまいぬ
前へ 次へ

TOP | RSS | 感想 | 目次

まろやか投稿小説 Ver1.53c