香水
ここはポケモンだけが暮らす世界。とある大陸の中央部に位置する広大な森の中を一匹の獣が歩いていた。
時は夏の盛り。よく晴れた日の真っ昼間。うだるような暑さは確実に彼女の体力を奪いつつあった。藤色の毛皮、紫色の目、大きな耳、そして二股の尻尾と額に埋め込まれた赤い宝石が特徴的な四つ足のポケモン――エーフィの息は次第に荒くなっていき、歩みも段々と覚束ないものになっていく。
もう一つ体力の消耗を早める原因を挙げるとすれば、彼女が極度の肥満体であるということだった。贅の限りを尽くした食生活を何年も続けて標準の倍以上の体重になってしまった結果、同じ距離を移動するにも倍以上の労力が掛かるようになってしまったのである。
それでも先を急ぐべく、毛皮の下にミッチリと詰まった分厚い脂肪をユサユサと揺らしつつ、フラフラの足取りで進み続けていた彼女だったが――
バタッ!
やがて崩れ落ちるように倒れ込んでしまう。
「ゼェッ、ゼェッ……。もうダメ、一休みしましょう」
既に疲労は限界に達していた。放り出したリュックの中から引っ張り出した水筒で喉を潤した彼女は、昼寝をするべくリュックを枕に瞼を閉じる。
「うーん、寝苦しい……」
その結果は散々たるものだった。木陰に身を隠しても炎熱からは逃げきることができず、おまけに汗でグッショリと濡れそぼった全身の毛皮が汚臭を放ち始めていたものだから、いつまで経っても睡魔に身を委ねることができない。
何か気を紛らわせる方法はないだろうか。悩み抜いた末に彼女は名案を思いつく。
「そうだわ! あれを使えば……!」
上体を起こしてリュックを漁り始めるエーフィ。やがて彼女は琥珀色の液体が詰まったガラスの小瓶を探し当てる。
「あった! 持ってきて正解だったわ!」
独り言ちながら蓋を開け、瓶の中身をパシャパシャと体に振りかければ――花畑の中にいると錯覚させるほどの強烈な甘い香りが彼女を包み込む。小瓶をリュックに戻す頃には夢見心地だった。
「あぁっ、良い匂い……! 今のうちに寝ちゃいましょう!」
暑さも体臭も忘れ去って横になるエーフィ。ぐっすり眠って元気を取り戻した彼女は、再び目的地に向かって歩き始めるのだった。
彼女は知る由もなかった。その甘い香りが腹ペコの怪獣を惹きつけたことなど――。
時は夏の盛り。よく晴れた日の真っ昼間。うだるような暑さは確実に彼女の体力を奪いつつあった。藤色の毛皮、紫色の目、大きな耳、そして二股の尻尾と額に埋め込まれた赤い宝石が特徴的な四つ足のポケモン――エーフィの息は次第に荒くなっていき、歩みも段々と覚束ないものになっていく。
もう一つ体力の消耗を早める原因を挙げるとすれば、彼女が極度の肥満体であるということだった。贅の限りを尽くした食生活を何年も続けて標準の倍以上の体重になってしまった結果、同じ距離を移動するにも倍以上の労力が掛かるようになってしまったのである。
それでも先を急ぐべく、毛皮の下にミッチリと詰まった分厚い脂肪をユサユサと揺らしつつ、フラフラの足取りで進み続けていた彼女だったが――
バタッ!
やがて崩れ落ちるように倒れ込んでしまう。
「ゼェッ、ゼェッ……。もうダメ、一休みしましょう」
既に疲労は限界に達していた。放り出したリュックの中から引っ張り出した水筒で喉を潤した彼女は、昼寝をするべくリュックを枕に瞼を閉じる。
「うーん、寝苦しい……」
その結果は散々たるものだった。木陰に身を隠しても炎熱からは逃げきることができず、おまけに汗でグッショリと濡れそぼった全身の毛皮が汚臭を放ち始めていたものだから、いつまで経っても睡魔に身を委ねることができない。
何か気を紛らわせる方法はないだろうか。悩み抜いた末に彼女は名案を思いつく。
「そうだわ! あれを使えば……!」
上体を起こしてリュックを漁り始めるエーフィ。やがて彼女は琥珀色の液体が詰まったガラスの小瓶を探し当てる。
「あった! 持ってきて正解だったわ!」
独り言ちながら蓋を開け、瓶の中身をパシャパシャと体に振りかければ――花畑の中にいると錯覚させるほどの強烈な甘い香りが彼女を包み込む。小瓶をリュックに戻す頃には夢見心地だった。
「あぁっ、良い匂い……! 今のうちに寝ちゃいましょう!」
暑さも体臭も忘れ去って横になるエーフィ。ぐっすり眠って元気を取り戻した彼女は、再び目的地に向かって歩き始めるのだった。
彼女は知る由もなかった。その甘い香りが腹ペコの怪獣を惹きつけたことなど――。
24/08/11 07:09更新 / こまいぬ