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連載小説
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(グロ表現あり)



「じゃ、これをソルの所にお願いできるかい?」
「はい……」
段ボール三つが積み重ねられた台車を渡される。
そう、これがソルの夕食。
あれだけの巨体だ。
維持するには膨大なエネルギーを必要とする。
その為の食事。ボクたちの比ではない。
絶望を前にして、生気を捨てたような表情で台車の柄を掴む。
いくら仲が良いと言えど、喰われない保証がある訳ではない。
表情が曇るのも仕方ない。
「そんな顔をするな砂羽君。危なくなれば助ける手筈をしているから」

     ー嘘つきー
     
心の奥でそう言葉を紡いだ。
憎しみに溢れた声色で。
 
 手筈なんてない。
 
   ソルの手に掛けようとしているんでしょ?
  
    どうして? どうして?
   
     どうして死ぬ奴にそんな笑顔で送れる?
    
      助ける気なんて微塵もない筈でしょ?
     
       本当は邪魔者を殺せるから嬉しいんでしょ?
      
        邪魔な異分子を排除できるから嬉しいんでしょ?
       
         裏では溜息なんかついて愚痴を零してるんでしょ?
        
          ボクを殺せて歓喜したいんでしょ?
        
      
           自 分 の 手 を 汚 さ ず に !
         
     
      ー ソ ノ テ ヲ チ ニ ソ メ ル コ ト ナ ク ー







がちゃり……ばたん
生の世界から、死の世界。
その境はだった今閉じられた。
鼻を突く獣の臭い。
僅かに混じる血の臭い。
土ぼこりに塗れ、点々と存在する人骨。
影がボクを覆う。
「こっちに来るのは初めてだな。雌ウサギちゃん」
「ソル……夕食持ってきー」
言葉を言い切るか否か。
その刹那に台車ごとボクは宙に舞っていた。
それも高め。
重力に捕われるのが自然の摂理。
上昇が終われば、落下が始まる。
「……っぐ」
激しく背中を地面に打ち付け、激痛に悶絶する。
「あー、この部屋に入ったら最後、俺の気に犯されて体が丈夫になってるからそう簡単には死なねえぜ」
どこか、ソルの様子が変だった。
言葉も口調も以前にも増して刺がある。
「ま、出すつもりもねぇけどな」
どん、とボクの隣にボク自身の身丈より巨大な新鮮の肉塊が置かれた。
それが夕食であり、ボク自信も夕食である事を悟った。
一瞬で血の気が引き、蒼白になるのが自分でも分かった。
白の毛皮もあって雪だるまとも言える状態だった。
「お前、名前は? まだ、聞いてなかっただろ?」
ソルが嬉しそうに肉塊に喰らい付いた。
鮮度は抜群の様で一部を喰い千切る度に
夥しい量の鮮血を撒き散らし
地面を深紅に。
ソルをより深紅に染め上げていく。
その光景は戦場のように激しい死の様を彷彿とさせた。
強者が弱者を殺める。喰らう。
弱肉強食。食物連鎖。
その二つを一瞬で目の当たりに。
今のボクに戦慄以外の動作は赦されなかった。
「おい? 聞いてんのか? 雌ウサギ!」
「ひぃっ!」
”仲良し” だったソルはそこにはいない。
極悪非道の残虐狼。モンスター ”ソル” だ。
牙にも顎にも鮮血に染まり、溢れる血がポタポタと滴る。
ボクも隣の肉塊のような無惨な姿にされる。
体をがたがたと激しく震わせ、肉塊を貪るその横顔から
目が離せない。
「すすす、砂羽っ。砂羽、白怜っ!」
「んぁ……長い。シロでいい」
どこか、邪悪な表情が緩んだ気がした。
でも、ソルはソル。
残虐狼が変わる筈もない。
喰われてもいい……せめて”仲良し”のソルにー
ごくん、と残虐狼の喉が盛大になり膨らみが下っていく。
ものの数分で巨大な肉塊を平らげてしまっていた。
後には入浴が出来そうな程の血だまり。
「ん……悪ぃな。お前が美味そうだったから、つい興奮しちまった」
ソルの凶気が消える。
張り詰めた空気もいつの間にか揺らぎ
そこにいたのは残虐狼でありながらも
”仲良し”のソル。
「悪ぃ悪ぃ。恐かっただろ?」
頬に流れる涙を鮮血の舌が舐め取る。
唾液と混じった血が純白のキャンパスに染み込んで
頬を真っ赤に塗り上げた。
「だが、こっちに来たからには俺のやり方で喰うぞ?」
「うん……分かってた」
残虐狼に喰われるのは酷く戦慄を覚えた。
”仲良し”のソルに喰われるのも幾分か恐い。
残虐狼の肩書きを持つ狼だ。
きっと、楽には死ねない。
喰い千切られるに決まってる。
でも、それでもいい。もうここにはいたくない。
蔑まれ、嫉妬され、生涯孤独を味わわされるぐらいなら。
「ほぅ、覚悟は決まってるってか」
覚悟はもう決まってた。
それに……ボクはソルが好きだった。
確かにモンスターだから恐い。
姿に惹かれた訳じゃない。
残虐でも、ちゃんと心はある。
喜怒哀楽もある。
殺すばかりかもしれないけど
ちゃんと他者を思いやれる。
こんな御託はボクしか知らない。
ボクにしか知れない事なんだ。
ボクはそんな君の心に
暖かい心に……惹かれたんだ。
「それなら、少し優しくしてやるよ。五体満足で喰ってやる。残虐狼である俺と喋ってくれた礼だ」
「え……」
いつもそうだった。話していれば分かる。
時折覗かせる寂しさの断片ー
孤独を感じさせる表情。自らの立場を示す言の葉。
ボクの幻聴でも、幻影でもないー
ソル自身の感情。言葉。心。
今だってそう。
ー残虐狼である俺ー
そんなの寂寥を抱かない者が紡げる言葉じゃない。
時々、君はボクに伝えてくれた。
寂寥……寂しさの断片。
「ぶっ……」
視界が真っ赤に染め上げられた。
ソルは乱暴にボクを血だまりに前脚で押しつけ
鮮血に絡めているようだった。
数十秒もの間、丁寧に執拗に鮮血に絡められ
ようやく摘まみ上げられた。
純白の体毛は大量の血を吸い、ボクも深紅になる。
零れる血は足先を伝って地面に滴り落ちていく。
「んむ。俺好みの味付けだ。さて、シロ。喰うぞ?」
ソルが粘っこく目前で口元を舐めずった。
極上の獲物を前に、興奮を抑えられないと言ったように。
だから、ボクは無言で頷いた。
ふわっとボクの軽い体は宙を舞い

  ばくりっ!
  
寂寥の深淵に捕われ、暗黒に堕ちる。
12/03/08 02:49更新 / セイル
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