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連載小説
[TOP][目次]
初勤務から十数日……
数日前から土嶋が行方不明に。
土嶋は新人社員として入社し、仕事中に月華に声をかけた
あの隣だった社員だ。
その土嶋が数日前の勤務を終え、帰路に就いたきり自宅にも帰っていないそうだ。
現在、警察に捜索届を提出、捜索中であった。
そんな不穏な空気を悟ったかのように天は涙を零していた。
雨粒は地面で爆ぜて、水たまりに姿を変えていく。
月華は青色の傘を差し、街灯の照らす帰路を歩んでいた。
「土嶋さん……どうしたのかな……」
自然に慮る言葉が漏れるのも仕方ない。
彼女にとって、土嶋は最初の知人かつ、頼れる存在だった。
それに……少々、好意を寄せていた。
「あっ、メール……」
バッグにしまっていた携帯電話が震え、新規の電子メールの通達を知らせた。
両手で持っていた傘を片手に、携帯を取り出し開く。


差出人……土嶋。


「つ、土嶋さんっ!?」
捜索中の当本人だ。
生唾を飲み込む。指先が震える。
恐る恐る、操作を重ねて行く。
メールのボタンを押し、受信フォルダを開く。
未読の新着メール……
土嶋からのメール。


……空文。


「え、あ……何もない……?」
月華にとって拍子抜けだった。
何か救いを求めようとして送られたメールと予想していたからだ。
荒くても、現状を伝える文が表示されると思っていた。
しかしこのメールは、ただのきっかけだった。
無論、月華には認知不可能。



ぴちゃ……ぴちゃっ……



突然の雨が息を潜めたように止んだ。
歩道橋では水の滴る場所は少ない。
しかし、爆ぜる水音はすぐ背後。
「えっ……?」
身を翻した。
無数にある水たまり。
奥から次第に波紋が広がった。
何かにかけられた圧力で飛散する水滴、それすらこちらへ迫っていた。
正体のないままに生じる現象。
それは正しく……怪奇現象。
かつてに経験した恐怖がぶり返す。
「嫌ぁぁっ!!」
戦慄を覚えた本能が足を駆り立てた。
革靴と言う決して奔走には向いていない靴でありながらも
その速度は速かった。
怪奇現象と距離が離れる筈ー だった。



ばしゃっ、ばしゃばしゃ!!



荒々しく波紋が広がる。
大粒の水しぶきが飛散する。
その程度がより大きなものに変化して月華を追い立ててきたのだ。
月華の表情はより恐怖に歪み、足をさらに加速させ
逃亡を図った。
しかし、月華の速度に比例して怪奇も激しく追い立てた。
ところが怪奇には、余裕が見て取れた。
まるで、困惑する獲物を嬲り残虐な笑みを浮かべていそうなように。
それでも月華は走った。
この怪奇から逃亡するために。



「はぁ……何か憑いてるのかなぁ……」
入浴を済まし、就寝着にまだ湿った状態の長髪で
長身の鏡の前に腰を降ろしていた。
ここ最近はろくなことが起きていない。
謎の視線。
鏡に映り込んだ謎の存在。
土嶋の行方不明。
歩道橋の怪奇現象。
きっと、何かが何かを引き寄せているのだろう。
そう判断した月華は髪型を変えようとしていた。
縛りも装飾もしてないシンプルな長髪をただ垂らしていただけだ。
背面で縛りでもしようか。
髪留めを手首に潜らせ、首もとで髪を束ね
空いた手で形見の鏡を持ち、髪もとの様子を窺おうとした時だったー



「繋がった……幾つから待ち侘びたか!」


低く重く、かつ鋭い声ー
人間では到底、真似できない声だ。
心待ちにした時が訪れたようで、
その声色だけで歓喜の度合いが感じられ、
笑みが零れているのが想像に容易い。
「えっ……」
一人の空間に異なる二つの声。
明瞭に他者の存在を肯定する事が出来る。
そこにいるのだから。
悪意に溢れ返った声に釣られるように月華は
目線を形見の鏡から、正面に向けた。
白と黒が織り成す異空間。
同じ世界とは思えない異質な冷気が零れ落ちて、
月華に纏わりつく。
その異空間は月華を貼り付け、かつ逃げ出す事すら封じた。
異空間……何かの口そのもの。
鏡から黒い靄を漂わせ、その中心から広がる上顎、下顎。
薄らと紅く染まった牙が不規則間隔でびっしりと。
中央に鎮座する純白の舌が微動に蠢いていた。
「はっ……えぁ……」
月華が単語を紡ごうか否か。
異次元の顎が月華に喰い付いた。
矮小な抵抗すらさせず、咥え込むように奥の深淵に引きずり込んでいく。
体を牙や舌で押さえつけられた月華も抵抗として悲鳴を上げた。
しかし、時すでに遅し。
悲鳴もくぐもり、他者には聴こえない。
数秒もかからず……


   ごくり


鏡の奥で喉が鳴らされた。
異次元の存在が鏡に還っていく。

がたっ……がしゃん……

月華の形見の鏡は異次元には歓迎されなかった。
鏡の境界で支えを失い、落下。
盛大な悲鳴を立てて、粉々に砕け散った。
12/03/03 16:14更新 / セイル
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