3
鈍重な疲労感に苛ままれた体をベッドへ放り出した。
伸縮性に富んだスプリングを搭載したやや高価なベッドが月華の体を
優しく受け止めた。
他者からの視線がこれほどまでとは、
と彼女は痛感した。
現に今もその不気味な視線は彼女を監視していた。
「そんなに疲れてるのかぁ……」
その視線を極度の疲労と判断した月華はそうすることで
体にかかる負荷をどうにか躱していた。
とは言え、かつての日常からかけ離れた今日は
彼女自身の体、精神を貪った。
仕事帰りのベッド直行。
当然ながら……
「すぅ……すぅ……」
柔らかな寝息を立てて、月華は正装のまま
深い眠りに落ちていた。
形見であるあの鏡から覗く碧玉。
それこそが得体の知れない正体。
しかし、その全貌は明らかではない。
ただ、鏡の右上に妖艶に誘惑する碧玉。
ただ、それだけ。
それから……数刻。
「……あっ!」
不意に深い眠りから覚醒し、嘆きを零した。
勤務中の制服とも言えるスーツのまま眠ってしまったのだ。
皺がつこう物なら笑い者にされかねない。
夕食も取っておらず、入浴も然り。
取り敢えずスーツを脱ぎ、ハンガーにかけた。
スーツの状態は夕食、入浴後に確かめよう。
そう決めると、彼女は部屋を後にした。
まるで、それを追うかのように
鏡に揺らんでいた碧玉も薄らと消えていった。
無論、月華は不認知のまま。
数十分もの時間をかけて、入浴。
体の隅々の疲労を癒し
就寝着に着替えた月華。
頭にバスタオルを被せ、ファッションを確かめる際に使用するような
長身の鏡の前に腰掛けた。
「ふぅ……生き返った」
まだ湿っている頭髪をごしごし、と水気を取っていく。
そして、思案に耽る。
今まで無視を決め込んでいた、得体の知れない視線。
ただ、見据えられているだけではない。
舐めるように全身を見られているような……
品定めをされているような……
とにかく質が悪く、心地悪い事この上ない。
心から滲み出るどす黒い悪意のようなものさえも感じられる。
「っ……」
月華は身震いした。
不気味で、気味が悪く、
その上、正体も分からない。
動作の一つ一つを細かく監視されているような感覚。
それで身震いしない者などいない。
唐突にさぁっ、と冷たい何かが吹いた。
生気の感じられない冷徹な感じさえした。
「え……ぁ……」
月華の目は確かに捉えてしまった。
鏡の隅で微かに動いた何かの存在に。
特に霊感が強い訳でもない。
それでも、肉眼ではっきり捉えられるのか……
月華には未だ嘗てない悪寒が駆けていた。
「何なの……何何何何?」
一人しかいない筈のこの部屋に蠢く他者の存在。
すっかり恐怖が芽生え、竦み上がってしまう。
怯えのあまり椅子から転げ落ち、鏡から目が離せられない。
体を酷く震わせ、恐怖を表現していた。
しかし、それ以上鏡に異変は生じなかった。
過ぎていった、得体の知れない存在は過った以降から姿を現す事なく、
ポルターガイストのような怪奇現象も生じなかった。
そう…… そ れ 以 上 は ー
伸縮性に富んだスプリングを搭載したやや高価なベッドが月華の体を
優しく受け止めた。
他者からの視線がこれほどまでとは、
と彼女は痛感した。
現に今もその不気味な視線は彼女を監視していた。
「そんなに疲れてるのかぁ……」
その視線を極度の疲労と判断した月華はそうすることで
体にかかる負荷をどうにか躱していた。
とは言え、かつての日常からかけ離れた今日は
彼女自身の体、精神を貪った。
仕事帰りのベッド直行。
当然ながら……
「すぅ……すぅ……」
柔らかな寝息を立てて、月華は正装のまま
深い眠りに落ちていた。
形見であるあの鏡から覗く碧玉。
それこそが得体の知れない正体。
しかし、その全貌は明らかではない。
ただ、鏡の右上に妖艶に誘惑する碧玉。
ただ、それだけ。
それから……数刻。
「……あっ!」
不意に深い眠りから覚醒し、嘆きを零した。
勤務中の制服とも言えるスーツのまま眠ってしまったのだ。
皺がつこう物なら笑い者にされかねない。
夕食も取っておらず、入浴も然り。
取り敢えずスーツを脱ぎ、ハンガーにかけた。
スーツの状態は夕食、入浴後に確かめよう。
そう決めると、彼女は部屋を後にした。
まるで、それを追うかのように
鏡に揺らんでいた碧玉も薄らと消えていった。
無論、月華は不認知のまま。
数十分もの時間をかけて、入浴。
体の隅々の疲労を癒し
就寝着に着替えた月華。
頭にバスタオルを被せ、ファッションを確かめる際に使用するような
長身の鏡の前に腰掛けた。
「ふぅ……生き返った」
まだ湿っている頭髪をごしごし、と水気を取っていく。
そして、思案に耽る。
今まで無視を決め込んでいた、得体の知れない視線。
ただ、見据えられているだけではない。
舐めるように全身を見られているような……
品定めをされているような……
とにかく質が悪く、心地悪い事この上ない。
心から滲み出るどす黒い悪意のようなものさえも感じられる。
「っ……」
月華は身震いした。
不気味で、気味が悪く、
その上、正体も分からない。
動作の一つ一つを細かく監視されているような感覚。
それで身震いしない者などいない。
唐突にさぁっ、と冷たい何かが吹いた。
生気の感じられない冷徹な感じさえした。
「え……ぁ……」
月華の目は確かに捉えてしまった。
鏡の隅で微かに動いた何かの存在に。
特に霊感が強い訳でもない。
それでも、肉眼ではっきり捉えられるのか……
月華には未だ嘗てない悪寒が駆けていた。
「何なの……何何何何?」
一人しかいない筈のこの部屋に蠢く他者の存在。
すっかり恐怖が芽生え、竦み上がってしまう。
怯えのあまり椅子から転げ落ち、鏡から目が離せられない。
体を酷く震わせ、恐怖を表現していた。
しかし、それ以上鏡に異変は生じなかった。
過ぎていった、得体の知れない存在は過った以降から姿を現す事なく、
ポルターガイストのような怪奇現象も生じなかった。
そう…… そ れ 以 上 は ー
12/03/03 16:12更新 / セイル