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きゅっ、とネクタイがしっかりと絞められた。
やや明度の明るい紺のスーツを身に纏い、正装を整える。
以前の長髪も新参者にはよろしくないと判断し、
短髪に切り落とし、化粧も整えた。
あとは勤務先に向かうだけ。
「行ってきます」
父の形見……正確には叔母の形見か。
生前、叔母が使っていた鏡。
それを父が形見として所持していたが
その父も不慮の事故でこの世を去った。
可愛らしい水玉模様の装飾されたこの鏡は
父の形見に当たるのだ。
ちらりと一瞥し、月華は部屋を後にするー
鏡の隅の碧玉に気付かずに……
「鏡野 月華です。 よろしくお願いします」
あと数人加えれば部屋からたちまち社員が溢れてしまうだろう。
と言えそうな程、多勢な社員の前で自らの名前、特徴を告げ
頭を深く下げた。
今日から配属される勤務先。それは人間としてまず行わなけれなならない礼儀だ。
簡単な挨拶をすませ、彼女は指示された席に腰を降ろし、早速デスクワークを始めた。
キーボードを叩き始めて10分。
突如、彼女に得体の知れない気配が襲いかかった。
体を震わせ、勢いよく背後を振り返った。
「?……どうしたのかな? 鏡野君?」
「あ、いえ……」
振り向いた先にはお盆に紅茶や珈琲を乗せた、ウェイターのような状況の社員だった。
言葉を交わした際にはその気配は感じていなかった。
再度振り返った先を見据えてみるも、何もなかった。
純白の雲が点々とする青空を切り取った窓があるだけ。
頻りに首を傾げながらも、彼女は仕事に戻った。
資料から情報を読み取り、その情報をデータとしてPCに入力するだけの仕事。
もともと彼女はそういった方面は得意だった。
地味な作業を黙々とこなすのには慣れており、苦痛ではない。
ただし、いつもとは状況が違った。
勿論、勤務先であるのは確かだが。
時折感じられる得体の知れない気配。
先程の気配と同様。
じっ、と見据えられている感覚。
しかし、振り向けば何もない。
ただの窓に、青空が広がるだけ。
「何度も振り返って……どうしたの?」
「あ、いえ……その」
何かに憑かれた気はない。
それに思い当たる節もない。
隣接した社員にそわそわした素振りを不思議がられ、
遂に声をかけられる。
「だ、誰かに見られてる気がして……」
「見られてる? う〜ん、何も感じないけど……」
月華が再び、背面を振り返り詳細を話すも、
同僚は首を傾げたまま。
「疲れてるんじゃない? それとも体調が悪い?」
「う〜ん……」
「体調が悪いなら家まで送ってくよ?」
「あ、いえ……大丈夫です。 それに先輩のお手を煩わせる訳にはいきませんよ」
片手でやんわりと断りの意志を伝え、苦笑いを浮べる。
取り敢えず、月華はその悪意の視線を無視を決め込み、
新人の作業に勤しんだ。
やや明度の明るい紺のスーツを身に纏い、正装を整える。
以前の長髪も新参者にはよろしくないと判断し、
短髪に切り落とし、化粧も整えた。
あとは勤務先に向かうだけ。
「行ってきます」
父の形見……正確には叔母の形見か。
生前、叔母が使っていた鏡。
それを父が形見として所持していたが
その父も不慮の事故でこの世を去った。
可愛らしい水玉模様の装飾されたこの鏡は
父の形見に当たるのだ。
ちらりと一瞥し、月華は部屋を後にするー
鏡の隅の碧玉に気付かずに……
「鏡野 月華です。 よろしくお願いします」
あと数人加えれば部屋からたちまち社員が溢れてしまうだろう。
と言えそうな程、多勢な社員の前で自らの名前、特徴を告げ
頭を深く下げた。
今日から配属される勤務先。それは人間としてまず行わなけれなならない礼儀だ。
簡単な挨拶をすませ、彼女は指示された席に腰を降ろし、早速デスクワークを始めた。
キーボードを叩き始めて10分。
突如、彼女に得体の知れない気配が襲いかかった。
体を震わせ、勢いよく背後を振り返った。
「?……どうしたのかな? 鏡野君?」
「あ、いえ……」
振り向いた先にはお盆に紅茶や珈琲を乗せた、ウェイターのような状況の社員だった。
言葉を交わした際にはその気配は感じていなかった。
再度振り返った先を見据えてみるも、何もなかった。
純白の雲が点々とする青空を切り取った窓があるだけ。
頻りに首を傾げながらも、彼女は仕事に戻った。
資料から情報を読み取り、その情報をデータとしてPCに入力するだけの仕事。
もともと彼女はそういった方面は得意だった。
地味な作業を黙々とこなすのには慣れており、苦痛ではない。
ただし、いつもとは状況が違った。
勿論、勤務先であるのは確かだが。
時折感じられる得体の知れない気配。
先程の気配と同様。
じっ、と見据えられている感覚。
しかし、振り向けば何もない。
ただの窓に、青空が広がるだけ。
「何度も振り返って……どうしたの?」
「あ、いえ……その」
何かに憑かれた気はない。
それに思い当たる節もない。
隣接した社員にそわそわした素振りを不思議がられ、
遂に声をかけられる。
「だ、誰かに見られてる気がして……」
「見られてる? う〜ん、何も感じないけど……」
月華が再び、背面を振り返り詳細を話すも、
同僚は首を傾げたまま。
「疲れてるんじゃない? それとも体調が悪い?」
「う〜ん……」
「体調が悪いなら家まで送ってくよ?」
「あ、いえ……大丈夫です。 それに先輩のお手を煩わせる訳にはいきませんよ」
片手でやんわりと断りの意志を伝え、苦笑いを浮べる。
取り敢えず、月華はその悪意の視線を無視を決め込み、
新人の作業に勤しんだ。
12/03/03 16:12更新 / セイル