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連載小説
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3
世の中には、どうしても好きになれない人が一人や二人はいる。
昔そんなことを言われた。

しかも、それを誰から聞いたのかと言えば、俺が一番苦手なやつからだというのだから笑える。
そしてそいつは今、まさに目の前にいるのだ。

「ハブネーク。今日の気分は?」

「……最高です、長。」

「それはいいことだな」

一応“長”ということになっているのだが、奴は俺と同い年。他の仲間からの信頼が厚いことは認めるが、俺はどうしてもコイツを好きになれなかった。

なぜと聞かれても分からない。ただ単に苦手なだけなんだ。

「ところで早速だが、今日君を呼んだのはちょっと頼みたい事があってね」

「はい……」

同年代のやつに“君”と言われることが、どんなに気持ち悪いことか。
この際、“お前”と言われた方が気が楽な気がする。

どちらにしてもコイツを好きにはなれないことに変わりはないだろう。
その点では、勝手だなと思う。

「君は『アイオライト』と呼ばれる宝石を知ってるか?」

アイオライト? 聞いたことのない名だ。

「いえ、知りません。それが何か?」

「実はその宝石は、少し訳あって探しているんだが。なかなか見つからなくてね。そこで是非とも君に探してもらいたいんだが……どうだろう」

半ば強制的な感じの口調だが、断る理由が俺にはない。
それに万が一断ったら、後がめんどくさそうだ。

「……わかりました。出来る限りの事はします」

「おぉ、助かるよ。ありがとう」

とりあえず言っておく、みたいな返答。
きっと俺はなめられてるのだろう。

まぁ、確かになめられてもしょうがないと言えばしょうがない。

何せ、丸呑みが苦手な蛇なんて他にいないのだから。

まあ、そんなことはどうでもいい。
とにかく、長の言うアイオライトの情報を集めないといけない。

俺はその場を離れて、周りの仲間に聞いて回ることにした。




「アイオライト? 知らないね……」

「そうか、分かった。ありがとう」

ハァ……と重いため息を吐き出し舌をチロチロと出す。

周りのみんな、やはり聞いたこともないようなやつばかりだった。

無理もない。
この辺りには草原しかないというほどに高い山などほとんど見かけないし、ぽつりぽつりとそびえ立つそれが鉱山であるわけがない。

そんなわけで、知らないやつばかりな訳だ。

ただ、一つ分かった事がある。
色は薄い青紫色らしい。
物知りな仲間が言っていた。

信頼できるやつだから、多分本当だろう。

しかし、それだけでは情報が少なすぎる。
なんとかもっと情報を得られないだろうか。

「どうしたものかな……」

とぼとぼと誰もいない道を歩く。
その時、顔を下を向けたままだった俺は視界の真ん中に黄色い足があることに気がついた。

何だと思い顔を上げると、見覚えのある顔がそこにいた。

「や、やぁ。この間はありがとう」

おどおどしながら、ピカチュウは声を震わせてそう言った。

「あぁ……。気にしなくていいからな、別に助ける気があった訳ではないから」

「でも、結果的には助けてくれたんだよね。ありがとう」

本来、恐怖の対象でしかない俺に対する精一杯の笑顔。
それは、可愛らしくてあたたかい。そんな表現がしっくりくる、そんな笑顔だった。

「ところで、何かあったの? 顔が優れないみたいだけど……」

「いや、ちょっと探し物をしていてね。そうだ、お前知らないか? アイオライトっていう青紫色の宝石」

意を決して聞いてみる。
もちろんあまり期待はしていないが、せっかく接点ができたのだから聞かないよりはましだろう。

「アイオライト? なんか……どこかで聞いたような……しないような」

だから、ピカチュウがそんなことを言い出したときは、思わず目を見開いてしまった。

「なっ! 本当か? 頼む、教えてくれないか?」

ずいずいと顔を近づけ、問い詰める。
ピカチュウは少しビクリと体を強張らせたが、なんとか思い出そうと必死そうに頭を抱えた。

「んー……。ここまで出かけて来てるんだけど……」

そう言ってしばらくすると、顔をパッと明るくするとおもむろに首に巻いていたスカーフをほどき始めた。

「それは……昨日の?」

俺がそう尋ねると、ピカチュウは首を縦に振る。

「うん。君が取り返してくれたアレ。で、君が言ってた『アイオライト』ってやつはこれに書いてあるんだ」

ほどき終わったスカーフを俺に見せてくる。

「……何か書いてあるな。これは?」

ピカチュウは少し悲しげな顔をする。

「これ、僕の兄ちゃんが残していった物なんだ」

「そ、そうなのか……」

俺だって馬鹿じゃない。
この話の意味を理解できる。

あえてその事に触れないことにしよう。そう思った。

「……地図もあるな。これってまさか」

「そう、これはつまり宝の地図。みたいなものじゃないかな」

驚きで体が震えた。
まさかこんな身近に、こんな凄い情報があるなんて。
誰かが、そう、“運命”とか言う何か。そんなものを操っているかのように感じた。

「兄ちゃんが僕に何をしたかったのかはもう分からない。でも、これを探し出せば何か分かるかもしれない。だから……」

ピカチュウの、スゥ……と息をする音が聞こえた。

「僕と、一緒に探してくれないかな」

「……は?」

あまりに唐突過ぎて驚きが隠せなかった。
取り乱してしまった心を落ち着かせるために、俺は咳払いをして続けた。

「いや、ピカチュウ。分かってる? 俺はハブネークだぞ?」

もしも仮に、コイツと一緒に旅をしている間に耐えられない程の空腹になってしまったら。
その後の俺がする行動は目に見えている。

空腹は理性を失わせる、日常的な病だ。
時間と共に侵攻し、対処に遅れれば死に繋がる。

「うん、君はハブネークだよ。それが?」

「いやだから……とにかくお前と一緒には探せれないんだ」

「えっ? 何でさ?」

どこまで鈍いんだ……。
その事に気づかないなんて、今までどう生きてきたのか逆に不思議だ。

「ねぇ何で? 理由を言ってくれないと納得できるものもできないよ」

これ以上隠し続けるのは不可能だ。
仕方ない……。

俺は意を決して、言い放った。

「俺がお前を食べてしまうかもしれないからだ」

しばらく静かな時が流れた。
俺は気まずくて、顔を背けた。

「――そんなことあるわけないでしょ?」

「えっ?」

「君は僕に言ったよね。『お前を食べるつもりはない』って」

「いや、あの時は――」

「とにかく、明日の朝にここに来てね。来なかったら僕一人で行くから」

俺に言葉を発する間を与えずに、ピカチュウは草むらの中へと消えていった。

要するに、俺はこの話を断るのは不可能というわけだ。

「……ハァ。嘘だろ」

濃いため息を吐き出して、ゆっくりと群れに戻ることにしたのだった。
12/03/07 13:42更新 / ミカ
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