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「――ぃ。おい! 起きろ!」
「ふぇ?」
誰だよまったく。人が気持ちよく寝ているというのに……。
間抜けな声を出し、リオルはそう思った。
目を擦りながら起き上がると、目の前には見慣れない顔が一つ。
誰だったか。
「おはよう……えっと……」
とろんとした目付きでリオルは問いかける。
どうやら半分寝ぼけているようだ。
「ルクシオ。自己紹介は後でいいから、とりあえず飯。腹減った」
まだ意識が遠くにあるリオルは、ぼんやりとだが記憶をたどっていく。
そして、ハッとするわけでもなく、リオルは「あぁ」と呟いた。
「君は、昨日の?」
「ん、まぁそうだな。とりあえず礼は言っておく」
ピョンとベッドから飛び降り、早くしろという視線をリオルに向ける。
何を言っても聞いてくれないような目付きである。
やれやれと思いながら、リオルはよっこらせとベッドから起き上がり、朝の準備を始めた。
「それで? 君――ルクシオはどこから来たの?」
「んぁ? 何だって?」
ガツガツと焼きたてのソーセージにかぶりつくルクシオ。
まだ朝だというのに凄い食欲だ。
この様子だと、食べ終わるまでは何を話しても無駄だろう。
リオルは同じくソーセージにフォークを突き立てた。
パキッというこんがりと焼かれた皮が破れる音と共に、じゅわっと肉汁が溢れ出す。
ルクシオが夢中になるのも分からなくはない。
普段ならあまり手を出さない上等な羊肉のソーセージを、今回は奮発してみたのだ。
口に含むと、肉の香ばしさと油の甘さが口一杯に広がる。
これを毎朝食べているような貴族には、嫉妬してしまう。
しばらくカチャカチャと食器のなる音だけが響いていたが、それは満足そうなルクシオのおくびで幕を閉じた。
「げふっ、美味かった」
「ずいぶんと夢中になって食べてたね」
口に残っていた羊肉を飲み下してから、リオルは口を開く。
「なに、久しぶりに飯を食ったからな、止まらなくなるのは当然だ」
ペロペロと口周りに着いた油を舐めとるルクシオ。
よほど気に入ったらしい。
「まぁ確かに。いつもならこんな贅沢なものは食べないからね」
「そうなのか? これが普通なのかと思った」
「それはいい身分だね」
フンッと鼻を鳴らすルクシオの耳は、ピクピクと動いていた。
案外、照れるのを隠すのが下手なのかもしれない。
「……で? これからどうする?」
この言葉を投げ掛けたのは、意外にもルクシオだった。
「いや、それはこっちの台詞なんですけど……」
「俺? 俺はしばらく世話になるよ。目的を果たすまでは」
ルクシオの目的も気になったが、リオルにはそれの一つ前も気になっていた。
「ちょ、待って。行きなり来られて、しかも世話になるって……準備が」
「なら、いま準備をすればいい」
ふぁぁ、と呑気に欠伸をしてルクシオは答えた。
誰がどう考えても理不尽だ。
「俺はもう一眠りするからな。そのうちに準備しとけよ」
「いや、だからっ」
最後まで言う前に、ルクシオはバタンと床に寝そべり、いびきをたて始めた。
「――っ、何なんだよ」
片手を頭に乗せ、ため息を吐く。
これだと、追っ払うのは無理だろう。
とりあえず二人分の食糧を調達してこないといけない。
リオルはベッドの下に隠してあった財布を取りだし、中身を確認する。
中には『シーナ銀貨』という、そこそこ信用度の高い銀貨が十六枚入っていった。
これだけあれば、あのソーセージだけでも数百本は買えるだろう。
それぐらいの価値がある銀貨だ。
「えらい出費だよ……」
ぶつぶつ文句をたれながら、リオルは街にいこうと玄関の扉に手をかけた。
外の冷たい空気が、リオルに同情しているようだった。
「ふぇ?」
誰だよまったく。人が気持ちよく寝ているというのに……。
間抜けな声を出し、リオルはそう思った。
目を擦りながら起き上がると、目の前には見慣れない顔が一つ。
誰だったか。
「おはよう……えっと……」
とろんとした目付きでリオルは問いかける。
どうやら半分寝ぼけているようだ。
「ルクシオ。自己紹介は後でいいから、とりあえず飯。腹減った」
まだ意識が遠くにあるリオルは、ぼんやりとだが記憶をたどっていく。
そして、ハッとするわけでもなく、リオルは「あぁ」と呟いた。
「君は、昨日の?」
「ん、まぁそうだな。とりあえず礼は言っておく」
ピョンとベッドから飛び降り、早くしろという視線をリオルに向ける。
何を言っても聞いてくれないような目付きである。
やれやれと思いながら、リオルはよっこらせとベッドから起き上がり、朝の準備を始めた。
「それで? 君――ルクシオはどこから来たの?」
「んぁ? 何だって?」
ガツガツと焼きたてのソーセージにかぶりつくルクシオ。
まだ朝だというのに凄い食欲だ。
この様子だと、食べ終わるまでは何を話しても無駄だろう。
リオルは同じくソーセージにフォークを突き立てた。
パキッというこんがりと焼かれた皮が破れる音と共に、じゅわっと肉汁が溢れ出す。
ルクシオが夢中になるのも分からなくはない。
普段ならあまり手を出さない上等な羊肉のソーセージを、今回は奮発してみたのだ。
口に含むと、肉の香ばしさと油の甘さが口一杯に広がる。
これを毎朝食べているような貴族には、嫉妬してしまう。
しばらくカチャカチャと食器のなる音だけが響いていたが、それは満足そうなルクシオのおくびで幕を閉じた。
「げふっ、美味かった」
「ずいぶんと夢中になって食べてたね」
口に残っていた羊肉を飲み下してから、リオルは口を開く。
「なに、久しぶりに飯を食ったからな、止まらなくなるのは当然だ」
ペロペロと口周りに着いた油を舐めとるルクシオ。
よほど気に入ったらしい。
「まぁ確かに。いつもならこんな贅沢なものは食べないからね」
「そうなのか? これが普通なのかと思った」
「それはいい身分だね」
フンッと鼻を鳴らすルクシオの耳は、ピクピクと動いていた。
案外、照れるのを隠すのが下手なのかもしれない。
「……で? これからどうする?」
この言葉を投げ掛けたのは、意外にもルクシオだった。
「いや、それはこっちの台詞なんですけど……」
「俺? 俺はしばらく世話になるよ。目的を果たすまでは」
ルクシオの目的も気になったが、リオルにはそれの一つ前も気になっていた。
「ちょ、待って。行きなり来られて、しかも世話になるって……準備が」
「なら、いま準備をすればいい」
ふぁぁ、と呑気に欠伸をしてルクシオは答えた。
誰がどう考えても理不尽だ。
「俺はもう一眠りするからな。そのうちに準備しとけよ」
「いや、だからっ」
最後まで言う前に、ルクシオはバタンと床に寝そべり、いびきをたて始めた。
「――っ、何なんだよ」
片手を頭に乗せ、ため息を吐く。
これだと、追っ払うのは無理だろう。
とりあえず二人分の食糧を調達してこないといけない。
リオルはベッドの下に隠してあった財布を取りだし、中身を確認する。
中には『シーナ銀貨』という、そこそこ信用度の高い銀貨が十六枚入っていった。
これだけあれば、あのソーセージだけでも数百本は買えるだろう。
それぐらいの価値がある銀貨だ。
「えらい出費だよ……」
ぶつぶつ文句をたれながら、リオルは街にいこうと玄関の扉に手をかけた。
外の冷たい空気が、リオルに同情しているようだった。
12/03/21 01:59更新 / ミカ