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気がつけば、さっきまで澄んだ青色をしていた空があたたかな夕日に照らされていた。
額の汗をぬぐい、視線をあげる。
目の前にある山積みにされた薪が、リオルの努力を物語っていた。
「今日はこのくらいでいいかな」
これだけの量があれば、しばらく薪割りをしなくても大丈夫だろう。
そう思い、リオルは斧をもとあった場所に立て掛け、早速割ったばかりの薪を担いで小屋の中へと入っていった。
中には、ベッドと暖炉、それから貯水用の樽とか何かが置かれている。
この小屋には、生きていくうえで必要最低限の物しかない。
ガスも水道管も勿論通っていない。
一見不便な気もするが、リオルはここでの暮らしを案外気に入っていた。
街とは違い、自然の変化が激しいこの場所は、一人で孤独なリオルの心をまぎらわしてくれる。
抱えた薪を暖炉のとなりに積み上げると、ふと視界に写真立てがはいった。
「……兄さん」
リオルと一緒に写っているもう一人のポケモン。
彼よりも頭一つ分くらい背が高いそのぽケモンは、ルカリオ。
彼の兄だった。
「兄さん……どこにいるの?」
写真立ての隣においてあるエメラルドのペンダントをぼんやりと見つめながら、リオルは呟いた。
それはちょうど去年の今頃だった。
その日は吹雪いていて、外に出るのもままならなかった。
運悪く、その日に風邪をひいていたリオルはベッドに倒れ込んでいた。
「待ってろ。今薬探してくるからな」
ルカリオはそう言って、吹雪の中へと飛び出していった。
疲れもあって、リオルはゆっくりと意識を手放していった。
次に目が覚めたとき、目の前には困惑した顔の兄がいた。
「リオル……俺、当分会えなくなくなっちまったらしいんだ。だから少しの間だけ、我慢しててくれないか?」
はっきりしない意識の中で、リオルは兄にそんな感じの言葉を言われた。
それからルカリオは首にかけていたあのペンダントを薬草と一緒に、棚の上に置いた。
リオルには兄が何をしているのか理解できずにいた。
支度を済ませ、玄関のドアノブに触れながら兄は言った。
「またな」と。
あれ以来、兄とは一度も会えていない。
探すにも、手がかりも何もないため、兄が帰ってくるのを待つ他ないのだ。
苦悩の息を吐き出し、薪に火を焚き付けようと薪に手を伸ばした瞬間。
「――っ! 地震!?」
グラグラと小さく揺れたそれは、瞬く間に大きな揺れへと発展する。
小屋が潰れてしまうかと思うほどに大きな地震は、幸運なことにほんの数秒で収まった。
「……もう大丈夫。だよね? ……」
その場にしゃがみこんでいたリオルは、恐る恐る立ち上がる。
地震のお陰で、部屋の中は倒れた樽や木の皿などの小物が散らばっていた。
「ハァ……せっかく掃除したのに」
頭をポリポリとかきながら、ぶつぶつ文句をたれる。
とにかく、片付けないことには何も変わらない。
リオルはため息混じりに、本日二度目の掃除を開始したのだった。
一通り掃除を終えたリオルは暖炉に火を焚き、スープを作っていた。
冬の山は、昼こそ太陽の日で輝く雪が神秘的で美しいのだが、夜はそうも言ってられない。
なにせ、体が凍ってしまうように冷たい風が吹き付けるのだ。
とても外に出る気がしない。
だがしかし、その中で飲むスープもまた格別というものだ。
くつくつといい感じに煮詰まってきたそれは、リオルが育てたかぼちゃで作った自慢のパンプキン・スープだった。
とろりとした濃厚なそれになめらかな生クリームを加えれば、完成だ。
もうもうと立ち上る湯気と共にかぼちゃの甘い香りが部屋いっぱいに広がる。
リオルは直ぐ様木の器と匙を準備し、布越しに鍋の取っ手をつかむ。
器にスープを注ぎ入れ、さあ食べようとしたその時だった。
ドンドンと乱暴に小屋の扉を叩く音が響いた。
こんな寒い時期に、しこもこんな時間に誰だろうか。
せっかく人が食事をしようとしているのに。
無視をしようかと思ったが、あまりにもしつこいので仕方なくリオルは扉を開けに、よっこらしょと立ち上がる。
ドアノブを掴むと、その冷たさにびっくりした。
そのまま扉を開く。
現れたのは、全身雪まみれになったポケモンだった。
「どなたですか」と言う前にそいつは、よろよろと部屋の中に入ってきた。
「ちょっ、何なんです――」
か、という言葉が出たのかどうか。
そのポケモンはどさりと床に倒れ込んだのだ。
「っ! だ、大丈夫ですか!?」
突然の事に慌てるリオル。
屈んで肩を揺らすと、その冷たさに思わず手が引っ込んだ。
(さっきのドアノブよりも……)
そうこう考えている間に、そいつはブルブルと震え、ヒュッヒュッと短い呼吸を繰り返していた。
よく見ると、前足は何かに引っ掻かれたかの様な切り傷がある。
リオルはとりあえず救急箱から包帯を取り出し、それを彼の傷口に巻き付けた。
すぐにじわっと白い包帯が赤い血で染まった。
ここまで寒いと、体の機能は低下する一方なのだろう。
ぱちんと包帯を切り、テープで固定する。
それから、リオルより少し大きい体を持ち上げベッドに寝かし、上から毛布をかける。
すると彼の震えは止まり、やがてスースーと寝息をたて始めた。
どうやら峠は越えたらしい。
ほっとひと安心したリオルは、作っていたスープを思い出した。
まだ湯気のたつそれを器に流し込み、匙ですくう。
口に含むと、濃厚な深い味が広がった。
リオルは顔を幸せなそれに変え、スープを飲下する。
そして、また次の一口を口に運んだのだった。
額の汗をぬぐい、視線をあげる。
目の前にある山積みにされた薪が、リオルの努力を物語っていた。
「今日はこのくらいでいいかな」
これだけの量があれば、しばらく薪割りをしなくても大丈夫だろう。
そう思い、リオルは斧をもとあった場所に立て掛け、早速割ったばかりの薪を担いで小屋の中へと入っていった。
中には、ベッドと暖炉、それから貯水用の樽とか何かが置かれている。
この小屋には、生きていくうえで必要最低限の物しかない。
ガスも水道管も勿論通っていない。
一見不便な気もするが、リオルはここでの暮らしを案外気に入っていた。
街とは違い、自然の変化が激しいこの場所は、一人で孤独なリオルの心をまぎらわしてくれる。
抱えた薪を暖炉のとなりに積み上げると、ふと視界に写真立てがはいった。
「……兄さん」
リオルと一緒に写っているもう一人のポケモン。
彼よりも頭一つ分くらい背が高いそのぽケモンは、ルカリオ。
彼の兄だった。
「兄さん……どこにいるの?」
写真立ての隣においてあるエメラルドのペンダントをぼんやりと見つめながら、リオルは呟いた。
それはちょうど去年の今頃だった。
その日は吹雪いていて、外に出るのもままならなかった。
運悪く、その日に風邪をひいていたリオルはベッドに倒れ込んでいた。
「待ってろ。今薬探してくるからな」
ルカリオはそう言って、吹雪の中へと飛び出していった。
疲れもあって、リオルはゆっくりと意識を手放していった。
次に目が覚めたとき、目の前には困惑した顔の兄がいた。
「リオル……俺、当分会えなくなくなっちまったらしいんだ。だから少しの間だけ、我慢しててくれないか?」
はっきりしない意識の中で、リオルは兄にそんな感じの言葉を言われた。
それからルカリオは首にかけていたあのペンダントを薬草と一緒に、棚の上に置いた。
リオルには兄が何をしているのか理解できずにいた。
支度を済ませ、玄関のドアノブに触れながら兄は言った。
「またな」と。
あれ以来、兄とは一度も会えていない。
探すにも、手がかりも何もないため、兄が帰ってくるのを待つ他ないのだ。
苦悩の息を吐き出し、薪に火を焚き付けようと薪に手を伸ばした瞬間。
「――っ! 地震!?」
グラグラと小さく揺れたそれは、瞬く間に大きな揺れへと発展する。
小屋が潰れてしまうかと思うほどに大きな地震は、幸運なことにほんの数秒で収まった。
「……もう大丈夫。だよね? ……」
その場にしゃがみこんでいたリオルは、恐る恐る立ち上がる。
地震のお陰で、部屋の中は倒れた樽や木の皿などの小物が散らばっていた。
「ハァ……せっかく掃除したのに」
頭をポリポリとかきながら、ぶつぶつ文句をたれる。
とにかく、片付けないことには何も変わらない。
リオルはため息混じりに、本日二度目の掃除を開始したのだった。
一通り掃除を終えたリオルは暖炉に火を焚き、スープを作っていた。
冬の山は、昼こそ太陽の日で輝く雪が神秘的で美しいのだが、夜はそうも言ってられない。
なにせ、体が凍ってしまうように冷たい風が吹き付けるのだ。
とても外に出る気がしない。
だがしかし、その中で飲むスープもまた格別というものだ。
くつくつといい感じに煮詰まってきたそれは、リオルが育てたかぼちゃで作った自慢のパンプキン・スープだった。
とろりとした濃厚なそれになめらかな生クリームを加えれば、完成だ。
もうもうと立ち上る湯気と共にかぼちゃの甘い香りが部屋いっぱいに広がる。
リオルは直ぐ様木の器と匙を準備し、布越しに鍋の取っ手をつかむ。
器にスープを注ぎ入れ、さあ食べようとしたその時だった。
ドンドンと乱暴に小屋の扉を叩く音が響いた。
こんな寒い時期に、しこもこんな時間に誰だろうか。
せっかく人が食事をしようとしているのに。
無視をしようかと思ったが、あまりにもしつこいので仕方なくリオルは扉を開けに、よっこらしょと立ち上がる。
ドアノブを掴むと、その冷たさにびっくりした。
そのまま扉を開く。
現れたのは、全身雪まみれになったポケモンだった。
「どなたですか」と言う前にそいつは、よろよろと部屋の中に入ってきた。
「ちょっ、何なんです――」
か、という言葉が出たのかどうか。
そのポケモンはどさりと床に倒れ込んだのだ。
「っ! だ、大丈夫ですか!?」
突然の事に慌てるリオル。
屈んで肩を揺らすと、その冷たさに思わず手が引っ込んだ。
(さっきのドアノブよりも……)
そうこう考えている間に、そいつはブルブルと震え、ヒュッヒュッと短い呼吸を繰り返していた。
よく見ると、前足は何かに引っ掻かれたかの様な切り傷がある。
リオルはとりあえず救急箱から包帯を取り出し、それを彼の傷口に巻き付けた。
すぐにじわっと白い包帯が赤い血で染まった。
ここまで寒いと、体の機能は低下する一方なのだろう。
ぱちんと包帯を切り、テープで固定する。
それから、リオルより少し大きい体を持ち上げベッドに寝かし、上から毛布をかける。
すると彼の震えは止まり、やがてスースーと寝息をたて始めた。
どうやら峠は越えたらしい。
ほっとひと安心したリオルは、作っていたスープを思い出した。
まだ湯気のたつそれを器に流し込み、匙ですくう。
口に含むと、濃厚な深い味が広がった。
リオルは顔を幸せなそれに変え、スープを飲下する。
そして、また次の一口を口に運んだのだった。
12/03/21 01:58更新 / ミカ