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連載小説
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第五話
どちゃっ


狭い食道を通り、彼の体は広い空間へと投げ出された
高い場所から落ちたようだが、むにゅっと沈む柔らかい地面のお陰で怪我をせずに済んだようだ

「喰われた…」

口、食道と続けば次は胃袋
獲物を溶かしてしまう大事なものであり、恐ろしい場所でもある
そこに落ちた彼は改めて絶望を感じた

口内より更に蒸し暑いそこからは、絶えず色んな音が響いていた

ぐちゃぐちゃと粘液が混ざる音
ドクン…ドクンと脈を打つ命の音
そして、何かが溶かされる音

「っ!?何処ですか!?」

漂う酸の臭いと液体が泡立つ音が男の存在を教える
目の前の柔らかい壁を押し退け、音の発生源へ向かった

彼の耳に届く音が大きくなる
同時に不安も増す
何とかそこまで行けたらしく、足元から聞こえる音に手を伸ばした

「ぐぅ……」

「良かった!今助け…」

男の声が聞こえると彼は安堵の笑みを浮かべる
だが、それも一瞬で壊されてしまう
男が悲鳴をあげると声が小さくてなっていく…
ズプズプと聞こえる粘液を滴らせている肉壁の蠢く音

青年は急いで男を掴んだ
薄く、柔らかい感触からして恐らく衣服を掴んだのだろう
最初は重みがあったそれは、すぐに軽くなった

「うっ」

強く引っ張った為に力が余り、倒れてしまう青年
そんな彼を胃壁はまた優しく受け止めた
巨大なゴムで出来た柔らかいボールの上に座るような感触だ
むにゅっと沈む胃壁に軽く自由を奪われる

それでも手に残る衣服だったモノ
ただの布の感触が、今では水に浸したティッシュのようだ
大量の粘液を含み、力を加えればちぎれてしまう

時間が経てば更に酷くなる
何もしていないのに、青年の手の上でドロドロの液体に変わった
粘液が触れた手に痒い様な痛みが走る

「溶け…っ!」

直接見る事は出来ないが、それが消化によって溶けているという事を理解した
急いで布だったモノを投げ捨てる


ぺちゃっ…しゅぅぅ…


投げた場所からそんな音が聞こえる
青年はそれを聞いて男の最期について考えてしまった
布が溶けたなら今頃彼は…
一瞬考えたがすぐに首を横に振った

しかし、胸の中にはモヤモヤしたものが残る
焦りと不安、恐怖の塊だろう
ここでしくじれば、蘇生はされずに消えてしまう


むにゅぅぅ…


「んん…!!」

あらゆる感情が渦巻く中
胃壁が彼に迫り、形を変えながら圧迫する
胃粘液も絡め、やりたい放題に弄ぶ


ぐちゅっ…にちゃっにちゃっ…にゅるっ…


彼を挟んだまま左右に、上下に、時折円を描くように動く

「や、め…くぁぁ…」

胃壁は彼の敏感な部分も責める
ぬるりと舌が這うのとは違う首筋に伝わる快感
脇腹から来るくすぐったさも快楽へ変わってしまう

そのまま快楽の海へ沈めるのも一つの手だが、彼女はそうしない
胃壁が彼を更にきつく圧迫する
気にならなかった肩の痛みが甦ってしまい、悲鳴をあげた

「ほら、抵抗してみろ?潰してしまうぞ?」

そこへかけられる魔女の言葉
顔を紅くしながら彼は必死に胃壁を押し返す

グルル、と竜が喉を鳴らした

中で動いてる感触が心地よく、楽しいのだろう
容赦なしに青年をプレスする
そしてムニムニと胃壁で軽くマッサージをするかのように揉む

痛みと苦しみの中に混じる優しい刺激がまた青年に快楽を与える
それに加え、ゆっくりと、着実に感覚を狂わせていく


ぐちゅっ…ぐちゅっ…ねちゃっ、むにゅぅ…


「はぅぅ…くそぉ…」

半分蕩けてしまった心
力が弱ってきたが残っている理性で何とか抵抗を続けている
目は涙目に変わっており、緩む口元からは甘い声が漏れている


じゅぷっ


胃壁を強く押すと、彼の手が呑み込まれてしまった
今までは力を入れれば抜く事出来たが、今は違う
吸い付いてるように彼の手を離さない
どんなに力を入れても無駄だった

そのまま胃壁は青年の肘まで呑み込んでしまう
十字架に貼り付けられたような体勢に戸惑いを隠せない

そこに一滴の液体が肩に落ちる

シュゥゥと音がしたかと思えば、何か物足りない小さな空虚感が彼に伝わる
手が使えない今、それを確認する事は出来ない
ただ彼には何となく分かっていた

先に喰われた男がいた場所から聞こえた音
手の上で溶けた布

そう、胃液だ

「そ、蘇生は!?」

気づいた彼はすぐに魔女に聞いた
ここで溶けても蘇生術を使えば助かる
その為に彼は無い体力で必死に抵抗してきたのだ

「助かりたいか?」

「当たり前…です…」

思わずタメ口で、暴言を吐きそうになったが慎む
今彼女を怒らせれば一瞬で積み重ねた努力が消えてしまうからだ

少し間があった後に魔女が言う

「フフフ、私がそんなに優しいと思うか?」

「え…?」

ぼんやりとした答え
その言葉に青年はキョトンとする
そして顔を歪ませた

最初から彼女は青年を助ける気は無かったようだ
蘇生を条件に抵抗しろと言えば、普通の抵抗よりも面白いものが返ってくる

何より、今このタイミング

獲物を一気に絶望と言う名の闇に落とす事が一番楽しいようだ
泣きそうになっている青年の声に侮蔑の笑みを零す

「この悪魔がぁ!!」

「む、私は魔女だぞ?
 まぁ良いか。フフ…さぁ、さっさと溶けてしまえ」

あちこちから大量の胃液が分泌され始める
一滴一滴、青年の体にかかっては体を溶かしていく
焼けるような痛み、肩の傷に胃液がかかる激痛に声にもならない悲鳴をあげる

それでも胃液は彼に襲い掛かり続ける
滴り落ちる胃液は足元で水溜まりを作り、ジワジワと足までも溶かされていく


シュゥゥ……ぐちゅっ…ぬちゅっ…


更に胃壁までが加わる
また彼に密着し、上下左右に揺れてマッサージを行う
けれど先程とは違い、胃液が分泌されているせいで酷い痛みしか伝わらない

全身くまなく胃液を塗りたくられた体は徐々に溶けていった
アイスが溶けるようにドロッと
胃液と一緒に零れ、汚い水溜まりへと変わる

「く…あっ…あぁぁぁぁぁ!!!」

ポロポロと崩れていく肉の塊
脆くなったそれに胃壁が圧迫という名の止めを刺す
断末魔が響き渡る
そして、ぐちゃっとグロテスクな音と共にそれは消えた

隙間からドロドロの液体が流れる

捕食前と同じ状態に戻った胃袋
粘液がかき混ぜられる音に心臓の音
そして…

「御馳走様…クフフ…」

魔女の、身の毛もよだつ笑い声が谺していた
12/11/04 18:37更新 / どんぐり
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■作者メッセージ
消化エンド希望の方はここで終了ですw

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