第三話
「い、嫌だ…」
今の光景を見た率直な感想
次は自分の番だという事を認めたくないと首を振る
それを見た魔女がまたニヤリと笑う
ぐぱぁ…
突然青年の前で大口を開かれた
彼は目を見開きながら、それを見てしまう
自分の手より巨大な牙
下顎で蠢く肉厚な舌とそれにまとわりつく唾液
赤みを帯びたピンク色の肉壁
これ等が光を浴びて、てらてらと妖しく光っている
更に奥で伸縮する肉洞への入口
牙にこびりついた血と、その臭い
魔法で甘い香りがする息にしてあるようだが、今の血の臭いは消されていないようだ
その臭いが混じった生暖かい吐息が彼の服や髪を揺らす
「嫌だ…怖い…嫌だ……」
金魚のように口をパクパクと動かす彼
そこから吐かれる言葉は同じような単語ばかり
その震え様に魔女も満足げな笑みを零す
まだ青年を入れるつもりはないらしい
生暖かい息を吐きながらゆっくりと口を閉じる
「た、助けて下さい…」
閉じられた口を見て、少しでも助かるかもしれないと無理矢理にでも思い込む
そして彼は震える声で命乞いをした
涙を流していたせいで嗚咽も混じる
それとは対称的に金竜は笑っていた
「その怯えた顔…たまらない…
フフフ、早く喰ってしまいたい」
何処か重みのある声
それが彼に死を告げる
「お、お願いします!!!助けて下さい!!!」
それをかき消すかの様に今度は叫ぶ
さっきの男の悲鳴にも負けないぐらいの大きさだ
すると魔女の動きが止まった
そのまま顔を元の位置まであげ、人間がやるのと同じように顎に手を添える
青年は彼女を見上げては、何度も同じ言葉を吐いた
「そうだな…お前より子供を喰う方が良いかもしれないな…」
逃がしてもらえる代わりに何処かの子供が喰われる
普通に聞けば、罪悪感を覚えるものだ
だが青年は何とも思わず、首を縦に振り続ける
「仕方ない、見逃してやる」
その言葉が聞こえると同時に、ふわりと手が軽くなる
銃にかけられていた魔法が解けたようだ
ここで反撃…と言う馬鹿な考えはしない
踵を返して逃げるだけ
青年は魔女に感謝の言葉を告げて走り出す
…が
「え!?」
空から何か降ってきたかと思えば、彼の目の前に落ちる
さっき彼を凪ぎ払った尻尾だった
その辺に並ぶ木と同じぐらいの太さの尻尾が逃げ道を塞ぐ
魔女の言葉を頭の中で反芻しながら、ゆっくりと彼は振り返った
「逃げれると思ったか?残念、逃がすつもりはないぞ」
青年の混乱した顔に邪な笑みを浮かべている
一瞬見えた希望を見事に打ち砕かれてしまい、再び込み上げる絶望に顔を歪ませた
「え、うわっ!?」
道を塞いでいた尻尾が彼に迫る
ズリズリと地面を軽く削りながら彼の体に触れる
そこで動きが止まった
何をされるのか分からない状況
青年は今すぐ逃げようと、ズボンのベルトへ手を忍ばせる
上着を着ているので見えなかったが、男と同じ短剣を携えていたのだ
「グルル…」
背後から聞こえる竜の唸り声
そして湿り気のある生暖かい風が青年の体に吹き掛けられる
彼は振り向くと同時に短剣で攻撃しようとした
短剣を強く握り、素早く振り向く
ベロォォ…
だが、先制攻撃を仕掛けたのは彼女の方だった
生暖かいものを青年の体に這わせていく
ねっとりとした液体も絡ませ、不快感を与えた
青年がそれを舌だと理解するのに数秒も掛からなかった
力強い舐めに耐えられず、彼は尻尾に凭れる形となった
それを分かっていたのか、尻尾も軽く形を変えて彼を支えている
「中々美味いではないか…♪」
舌を口内へ戻すと、クチャクチャと反芻して味を楽しむ
そして彼にそう言う
嬉しくない誉め言葉を受け取り、青年は譫言を漏らす
それでも彼の手にはまだ短剣があった
レロォォ…
「んんっ!!」
再び肉厚な舌が彼の体を這う
無駄に柔らかいクッションの様なそれは、彼の形に合わせて形を変える
足元から順番にそのクッションが体を包み込んでいった
膝、腹、胸…とその中へ埋まってしまう
ぷにぷにとした感触のせいか、何処か甘い感覚が彼を襲う
舌の小さな凹凸が更にそれを濃く、強くする
「うぐ…ぁ…ぁぁ…」
声に熱が帯び始める
聞かれてはならないの懸命に隠そうとするが、竜の聴覚は些細な声も聞き取ってしまう
「気持ち良さそうだな?
なら、これはどうだ?」
「んぅぅ!!!」
舌に力が込められる
軽く包み込んでいた舌が、もっと奥へ…と青年を引きずり込むように包んでしまう
ベトベトでぶにゅりと変形する柔らかな舌
だが快楽だけを与える程彼女は甘くない
その舌が青年の顔を覆うと、呼吸の自由を奪ってしまう
息苦しさから脱出しようとするが、舌は密着しており、背後からは尻尾が体を押さえつけている
非力な人間では脱出出来ない状態で彼はもがいた
足で何度も尻尾を蹴るが全て無駄に終わる
暴れれば暴れる程に体力は奪われ、魔女を楽しませてしまう
けれど青年はもう限界だった
無理矢理にでも息を吸おうとすれば、酸素ではなく彼女の唾液が流し込まれる
そのせいで気持ち悪さでまた吐きそうになっていた
スルリと短剣が落ちていき、地面に横たわる
終わりという言葉が過り、意識が薄れていく…
「っ!?はぁ…はぁ…」
気を失う一歩前
そこで舌が離れた
青年は胸一杯に息を吸い、酸素を貪る
「フフフ…もう良いか?」
「え…!?」
ベロォォ…ズプズプ…
呼吸が落ち着いたかと思えば、また舌が彼を襲う
柔軟性に優れた肉の中にまた体が埋まり、快楽が流れ込む
そしてまた息苦しい地獄へ落とされる
「ぶはっ!…はぁ…はぁ…」
今度は早く終わった
それでも疲労と吐き気は全く変わらないようだ
「三回だけで、随分と惨めな姿になったな?」
青年の体は頭から爪先まで、しっかり唾液でコーティングされていた
何処を触ってもぬるぬるとした感触
指の間も不透明な唾液が糸を引いている
少し動けば、ニチャッと音がする
完全に彼は唾液の塊と化していた
足元に広がる不透明な水溜まりも、光でぬらりと光っている
「うっ…うぅ…助けて…」
何も出来ないまま弄ばれる
これはハンターとしてのプライドにかなりダメージを与えていた
青年は力強く目を瞑り、拳に力を込めながらまた命乞いをする
だが返答として返って来たのは恐ろしいものだった
腰辺りにチクッと小さく、鋭い痛みが走る
目を開ければ、彼の上半身ぐらいある爪が腰に宛がわれている光景が飛び込んでくる
もう片方の手は地面に落ちている短剣の上に置かれていた
反撃のチャンスを伺っている
そう悟った魔女は、グッと彼の体に爪を食い込ませた
加減しているようで血は出ていない
「今ここで殺そうと思えば殺せるのだぞ?
フフフ、まぁ選ばせてやろうか…
ここで少しずつ、ゆっくりと痛みを味わいながら死ぬか…もう少し私の遊びに付き合うか」
どちらも似た内容だ
だが、切り裂かれて死ぬと考えれば先程の一瞬の快楽を含んだ攻めが優しく見える
答えとして、彼は所持していた武器を全て捨てた
表情は相変わらず、悔しそうである
「そうだ、大事な事を忘れていた」
シュルシュル…
「ぐっ!」
爪が離れたかと思えば、尻尾が彼に巻き付く
乾いた尻尾は唾液で多少濡れながらも、しっかりと彼を拘束する
「お前は蘇生術を知っているか?」
彼女が言い出した言葉に青年は言葉を失う
蘇生術、文字通り死者を生き返らせる魔法の一種
それは青年も知っていた
何故それを聞くのか一瞬疑問に思うところだが、すぐに意味が分かったようで青年の目が輝く
「知っているようだな?フフフ…
もし、お前が私を満足させる事が出来たら使ってやろう。この中にいる奴も…な」
青年の心に再び希望の光が差し込んでくる
「どうやって満足させれば…がぁぁっ!!!」
ただ、満足させる方法を知らないのが引っ掛かる
恐る恐る聞いてみようとした瞬間、尻尾が彼を締め上げた
肺から空気が絞り出されていく
「抵抗するだけの簡単なお仕事…だ」
ニッコリと笑いながら言っているが、やっている内容は恐ろしいものだ
冷たく、堅い鱗が彼に密着する
青年は言われた通りに抵抗する
最初はぎこちなかったものの、締め付けが強くなる度に迫真の演技へ…
そして素へと変わった
獲物の苦しそうな呻き声、悲鳴
これ等が魔女の好きなものらしい
ミシミシと骨もが悲鳴をあげ始める
彼の口からは涎が垂れていた
それでも両手で尻尾を押し返そうとする
無駄だと分かっていても、魔女を満足させる為に踏ん張った
拳で叩き、更に爪を立ててみるが堅い鱗に見事に弾き返されてしまう
圧倒的な力の差
とぐろの中で苦しむ彼に彼女は笑う
「ここで一度殺してしまおうか?」
蘇生術と言うのは便利だが、同時に残虐性も秘めていた
殺して生き返らせる、そしてまた殺す…
命を玩具に変えてしまう事が出来るのだ
尻尾に力が込められて、更に苦痛が増す
標準より少し太めの青年の体は簡単にその形を変えられてしまう
無理矢理細い体型に変えられ、口からは涎と悲鳴が溢れ出る
痛みある死に直面する事となった彼は、首を横に振って殺さないでと頼む
その目からは、また涙が零れ落ちて彼の頬を伝って落ちていく
「やはり良い…その顔、そそられる…」
どうやら冗談を言ったつもりらしい
演技ではなく、リアルな泣き顔を見る為に
「クフフ、そろそろ良いか」
彼を見下したままニヤリと笑う
尻尾の拘束を解き、今度は腹の上へ落とした
見かけとは違い、お腹は柔らかく温もりもあった
高級なクッションのような感触に青年は気持ち良さそうな声を漏らす
疲れと一緒に意識まで持っていかれそうになっている
「聞こえるか?」
「え?あっ…!?」
突然彼女が青年を自分の腹へと埋めるように押し付けた
柔らかい腹は彼を受け止めながら、ムニュゥ…と沈む
心地よい感触に浸っていると、それをかき消すような声が聞こえた
「や、やめろ…っ…助け…っ…てく…れ…」
彼と一緒にいた男の声だ
くぐもって聞こえにくいが、青年の耳にはしっかり届いた
中で何をされているのかと考えれば、また恐怖が込み上げてくる
ゆっくりと顔が近づけられる
そして、一呼吸置かれた後に青年の目の前で巨大な口が開かれた
ぐぱぁ…
竜の濃い吐息が顔にかかる
生暖かいそれには、仄かに甘い香りが漂う
それを匂えば頭の中がボーッとするような感覚を彼は覚えた
だが、眼前に広がる光景が彼にしっかりと意識をもたせる
牙と舌、そしてお腹の中の獲物の声が聞こえてきそうな肉洞の入り口
先程同じものを見たはずだが、やはり青年は言葉を失い、体を震わせる
体のあちこちから冷や汗が吹き出し、絶えず口からは譫言のような形のない言葉が漏れている
数秒間の静止と静寂
青年は長く、そして時が止まったような感覚を覚えていた
彼の背中に竜の手が触れた刹那
ばくん!!
青年の体は竜の口内へと消えた
今の光景を見た率直な感想
次は自分の番だという事を認めたくないと首を振る
それを見た魔女がまたニヤリと笑う
ぐぱぁ…
突然青年の前で大口を開かれた
彼は目を見開きながら、それを見てしまう
自分の手より巨大な牙
下顎で蠢く肉厚な舌とそれにまとわりつく唾液
赤みを帯びたピンク色の肉壁
これ等が光を浴びて、てらてらと妖しく光っている
更に奥で伸縮する肉洞への入口
牙にこびりついた血と、その臭い
魔法で甘い香りがする息にしてあるようだが、今の血の臭いは消されていないようだ
その臭いが混じった生暖かい吐息が彼の服や髪を揺らす
「嫌だ…怖い…嫌だ……」
金魚のように口をパクパクと動かす彼
そこから吐かれる言葉は同じような単語ばかり
その震え様に魔女も満足げな笑みを零す
まだ青年を入れるつもりはないらしい
生暖かい息を吐きながらゆっくりと口を閉じる
「た、助けて下さい…」
閉じられた口を見て、少しでも助かるかもしれないと無理矢理にでも思い込む
そして彼は震える声で命乞いをした
涙を流していたせいで嗚咽も混じる
それとは対称的に金竜は笑っていた
「その怯えた顔…たまらない…
フフフ、早く喰ってしまいたい」
何処か重みのある声
それが彼に死を告げる
「お、お願いします!!!助けて下さい!!!」
それをかき消すかの様に今度は叫ぶ
さっきの男の悲鳴にも負けないぐらいの大きさだ
すると魔女の動きが止まった
そのまま顔を元の位置まであげ、人間がやるのと同じように顎に手を添える
青年は彼女を見上げては、何度も同じ言葉を吐いた
「そうだな…お前より子供を喰う方が良いかもしれないな…」
逃がしてもらえる代わりに何処かの子供が喰われる
普通に聞けば、罪悪感を覚えるものだ
だが青年は何とも思わず、首を縦に振り続ける
「仕方ない、見逃してやる」
その言葉が聞こえると同時に、ふわりと手が軽くなる
銃にかけられていた魔法が解けたようだ
ここで反撃…と言う馬鹿な考えはしない
踵を返して逃げるだけ
青年は魔女に感謝の言葉を告げて走り出す
…が
「え!?」
空から何か降ってきたかと思えば、彼の目の前に落ちる
さっき彼を凪ぎ払った尻尾だった
その辺に並ぶ木と同じぐらいの太さの尻尾が逃げ道を塞ぐ
魔女の言葉を頭の中で反芻しながら、ゆっくりと彼は振り返った
「逃げれると思ったか?残念、逃がすつもりはないぞ」
青年の混乱した顔に邪な笑みを浮かべている
一瞬見えた希望を見事に打ち砕かれてしまい、再び込み上げる絶望に顔を歪ませた
「え、うわっ!?」
道を塞いでいた尻尾が彼に迫る
ズリズリと地面を軽く削りながら彼の体に触れる
そこで動きが止まった
何をされるのか分からない状況
青年は今すぐ逃げようと、ズボンのベルトへ手を忍ばせる
上着を着ているので見えなかったが、男と同じ短剣を携えていたのだ
「グルル…」
背後から聞こえる竜の唸り声
そして湿り気のある生暖かい風が青年の体に吹き掛けられる
彼は振り向くと同時に短剣で攻撃しようとした
短剣を強く握り、素早く振り向く
ベロォォ…
だが、先制攻撃を仕掛けたのは彼女の方だった
生暖かいものを青年の体に這わせていく
ねっとりとした液体も絡ませ、不快感を与えた
青年がそれを舌だと理解するのに数秒も掛からなかった
力強い舐めに耐えられず、彼は尻尾に凭れる形となった
それを分かっていたのか、尻尾も軽く形を変えて彼を支えている
「中々美味いではないか…♪」
舌を口内へ戻すと、クチャクチャと反芻して味を楽しむ
そして彼にそう言う
嬉しくない誉め言葉を受け取り、青年は譫言を漏らす
それでも彼の手にはまだ短剣があった
レロォォ…
「んんっ!!」
再び肉厚な舌が彼の体を這う
無駄に柔らかいクッションの様なそれは、彼の形に合わせて形を変える
足元から順番にそのクッションが体を包み込んでいった
膝、腹、胸…とその中へ埋まってしまう
ぷにぷにとした感触のせいか、何処か甘い感覚が彼を襲う
舌の小さな凹凸が更にそれを濃く、強くする
「うぐ…ぁ…ぁぁ…」
声に熱が帯び始める
聞かれてはならないの懸命に隠そうとするが、竜の聴覚は些細な声も聞き取ってしまう
「気持ち良さそうだな?
なら、これはどうだ?」
「んぅぅ!!!」
舌に力が込められる
軽く包み込んでいた舌が、もっと奥へ…と青年を引きずり込むように包んでしまう
ベトベトでぶにゅりと変形する柔らかな舌
だが快楽だけを与える程彼女は甘くない
その舌が青年の顔を覆うと、呼吸の自由を奪ってしまう
息苦しさから脱出しようとするが、舌は密着しており、背後からは尻尾が体を押さえつけている
非力な人間では脱出出来ない状態で彼はもがいた
足で何度も尻尾を蹴るが全て無駄に終わる
暴れれば暴れる程に体力は奪われ、魔女を楽しませてしまう
けれど青年はもう限界だった
無理矢理にでも息を吸おうとすれば、酸素ではなく彼女の唾液が流し込まれる
そのせいで気持ち悪さでまた吐きそうになっていた
スルリと短剣が落ちていき、地面に横たわる
終わりという言葉が過り、意識が薄れていく…
「っ!?はぁ…はぁ…」
気を失う一歩前
そこで舌が離れた
青年は胸一杯に息を吸い、酸素を貪る
「フフフ…もう良いか?」
「え…!?」
ベロォォ…ズプズプ…
呼吸が落ち着いたかと思えば、また舌が彼を襲う
柔軟性に優れた肉の中にまた体が埋まり、快楽が流れ込む
そしてまた息苦しい地獄へ落とされる
「ぶはっ!…はぁ…はぁ…」
今度は早く終わった
それでも疲労と吐き気は全く変わらないようだ
「三回だけで、随分と惨めな姿になったな?」
青年の体は頭から爪先まで、しっかり唾液でコーティングされていた
何処を触ってもぬるぬるとした感触
指の間も不透明な唾液が糸を引いている
少し動けば、ニチャッと音がする
完全に彼は唾液の塊と化していた
足元に広がる不透明な水溜まりも、光でぬらりと光っている
「うっ…うぅ…助けて…」
何も出来ないまま弄ばれる
これはハンターとしてのプライドにかなりダメージを与えていた
青年は力強く目を瞑り、拳に力を込めながらまた命乞いをする
だが返答として返って来たのは恐ろしいものだった
腰辺りにチクッと小さく、鋭い痛みが走る
目を開ければ、彼の上半身ぐらいある爪が腰に宛がわれている光景が飛び込んでくる
もう片方の手は地面に落ちている短剣の上に置かれていた
反撃のチャンスを伺っている
そう悟った魔女は、グッと彼の体に爪を食い込ませた
加減しているようで血は出ていない
「今ここで殺そうと思えば殺せるのだぞ?
フフフ、まぁ選ばせてやろうか…
ここで少しずつ、ゆっくりと痛みを味わいながら死ぬか…もう少し私の遊びに付き合うか」
どちらも似た内容だ
だが、切り裂かれて死ぬと考えれば先程の一瞬の快楽を含んだ攻めが優しく見える
答えとして、彼は所持していた武器を全て捨てた
表情は相変わらず、悔しそうである
「そうだ、大事な事を忘れていた」
シュルシュル…
「ぐっ!」
爪が離れたかと思えば、尻尾が彼に巻き付く
乾いた尻尾は唾液で多少濡れながらも、しっかりと彼を拘束する
「お前は蘇生術を知っているか?」
彼女が言い出した言葉に青年は言葉を失う
蘇生術、文字通り死者を生き返らせる魔法の一種
それは青年も知っていた
何故それを聞くのか一瞬疑問に思うところだが、すぐに意味が分かったようで青年の目が輝く
「知っているようだな?フフフ…
もし、お前が私を満足させる事が出来たら使ってやろう。この中にいる奴も…な」
青年の心に再び希望の光が差し込んでくる
「どうやって満足させれば…がぁぁっ!!!」
ただ、満足させる方法を知らないのが引っ掛かる
恐る恐る聞いてみようとした瞬間、尻尾が彼を締め上げた
肺から空気が絞り出されていく
「抵抗するだけの簡単なお仕事…だ」
ニッコリと笑いながら言っているが、やっている内容は恐ろしいものだ
冷たく、堅い鱗が彼に密着する
青年は言われた通りに抵抗する
最初はぎこちなかったものの、締め付けが強くなる度に迫真の演技へ…
そして素へと変わった
獲物の苦しそうな呻き声、悲鳴
これ等が魔女の好きなものらしい
ミシミシと骨もが悲鳴をあげ始める
彼の口からは涎が垂れていた
それでも両手で尻尾を押し返そうとする
無駄だと分かっていても、魔女を満足させる為に踏ん張った
拳で叩き、更に爪を立ててみるが堅い鱗に見事に弾き返されてしまう
圧倒的な力の差
とぐろの中で苦しむ彼に彼女は笑う
「ここで一度殺してしまおうか?」
蘇生術と言うのは便利だが、同時に残虐性も秘めていた
殺して生き返らせる、そしてまた殺す…
命を玩具に変えてしまう事が出来るのだ
尻尾に力が込められて、更に苦痛が増す
標準より少し太めの青年の体は簡単にその形を変えられてしまう
無理矢理細い体型に変えられ、口からは涎と悲鳴が溢れ出る
痛みある死に直面する事となった彼は、首を横に振って殺さないでと頼む
その目からは、また涙が零れ落ちて彼の頬を伝って落ちていく
「やはり良い…その顔、そそられる…」
どうやら冗談を言ったつもりらしい
演技ではなく、リアルな泣き顔を見る為に
「クフフ、そろそろ良いか」
彼を見下したままニヤリと笑う
尻尾の拘束を解き、今度は腹の上へ落とした
見かけとは違い、お腹は柔らかく温もりもあった
高級なクッションのような感触に青年は気持ち良さそうな声を漏らす
疲れと一緒に意識まで持っていかれそうになっている
「聞こえるか?」
「え?あっ…!?」
突然彼女が青年を自分の腹へと埋めるように押し付けた
柔らかい腹は彼を受け止めながら、ムニュゥ…と沈む
心地よい感触に浸っていると、それをかき消すような声が聞こえた
「や、やめろ…っ…助け…っ…てく…れ…」
彼と一緒にいた男の声だ
くぐもって聞こえにくいが、青年の耳にはしっかり届いた
中で何をされているのかと考えれば、また恐怖が込み上げてくる
ゆっくりと顔が近づけられる
そして、一呼吸置かれた後に青年の目の前で巨大な口が開かれた
ぐぱぁ…
竜の濃い吐息が顔にかかる
生暖かいそれには、仄かに甘い香りが漂う
それを匂えば頭の中がボーッとするような感覚を彼は覚えた
だが、眼前に広がる光景が彼にしっかりと意識をもたせる
牙と舌、そしてお腹の中の獲物の声が聞こえてきそうな肉洞の入り口
先程同じものを見たはずだが、やはり青年は言葉を失い、体を震わせる
体のあちこちから冷や汗が吹き出し、絶えず口からは譫言のような形のない言葉が漏れている
数秒間の静止と静寂
青年は長く、そして時が止まったような感覚を覚えていた
彼の背中に竜の手が触れた刹那
ばくん!!
青年の体は竜の口内へと消えた
12/11/04 18:36更新 / どんぐり