第二話
彼等の前に現れた一人の女性
漆黒のローブを身に纏い、それとは逆の色白な肌をもつ彼女
長い金色の髪の隙間から覗く深紅の瞳が、彼等をしっかり見据えている
彼女こそが、この森の主である人喰い魔女だ
「し、死ね!!」
彼女を目の前にして、パニックに陥った男が猟銃を構えて引き金を引く
パァン!と乾いた銃声が鳴り響いた
鳥が一斉に羽ばたき、ドサッと誰かが倒れる
近くで見ているだけだった青年は男を見た
「…え!?」
「おや?歓迎でもしてくれてるのか?
普通は逆だぞ?」
倒れているのは魔女ではない、男だ
太り気味の体が落ち葉の中に沈んでいる
パニック状態での発砲で、体が耐えきれずに倒れてしまったのだろう
そこに訪れようとした静寂を魔女が止める
青年は言葉を失った
魔女が無傷な事に驚いているのは確か
だが彼の視線を引いたのは、男が握る猟銃だった
その銃口からは、白い煙が昇っている
違和感は特に無い
あるのは、舞っている紙吹雪の方だ
「な、何で…」
鉛の塊が一瞬で紙に変わる
手品を見ている様な光景に青年は呆気にとられてしまう
そして確信した。相手は魔女だと
「もうおしまいか?ならば、此方の番だ」
そう言った刹那
彼女の体が光に包まれ始めた
眩い閃光が走り、彼等は反射的に目を瞑る
「何が…!?」
数秒後、光が消えると彼等は目を開ける
そして戦慄した
二本足の巨大な生物
腹部以外は全て金色の鱗に覆われている
鋭い爪や牙、長い尻尾に蝙蝠のような巨大な翼をもつもの
金色の竜
それが彼等の前に現れたのである
悲鳴すら出ない
ただ口を開けて、わなわなと震えるだけ
それでも恐る恐る顔をあげれば、人間の時と同じ深紅の瞳が彼等を見据えている
見下している、と言った方が正しいだろうか
その目は彼等の反応が面白いのか、細められており、口元からは牙が顔を覗かせている
「…!!!」
金竜の邪悪な笑みに青年が銃を向ける
倒れている男を守るためか、同じくパニックに陥ってしまったのか…
どちらにしろ、結果は変わらない
「うぐっ!?」
青年の体に鈍い痛みが走る
ドスッと音がしたかと思えば、彼の体は先程いた場所から離れている木陰に倒れていた
金竜の尻尾に凪ぎ払われたらしい
木が揺れて何枚か葉を落とした
「そこで待っていろ、すぐに喰ってやる」
笑い混じりの声で青年にそう言う
その直後に彼女は男を捕まえた
巨大な手でつまみ上げ、掌の上に落とす
男は必死に逃げようと暴れていた
けれど非力な人間の抵抗は、竜となった彼女から見れば無駄な足掻きに過ぎない
殺そうと思えば、何時でも殺せる
だが、彼女は殺さない。遊ぶのだ
手に力を込め、少しずつ圧迫していく
男が呻き声を漏らせば、竜の口角がゆっくりと上がる
徐々に骨が悲鳴をあげ始め、呻き声も悲鳴へと変わる
「ぐあぁ…ぁ…ぁっ…」
それでも止める気配を全く見せない
すると、男の抵抗が小さくなり始めた
人間である彼には体力があり、それに限界が近づいてきたようだ
「…チッ」
一瞬つまらなさそうな表情を浮かべた
その顔と言ったら、まるで壊れた玩具を見つめる子供のようだ
今のが合図なのか、男が口元へ運ばれていく
金色の中から牙や舌が見えたかと思うと、彼の体はその中へ消えた
隙がある今がチャンスだ
そう思った青年は急いで銃を取り出す
猟銃は落としてしまったが、胸ポケットの片手銃はある
勝利の光が彼の心に差し込む
青年は竜の目に銃口を向けた
ギロッ
「ひっ!?」
だが気づかれたようで、鋭い視線が体に突き刺さる
情けない事に、彼はそれに怯んでしまった
光が遠ざかっていき、彼の心に後悔という言葉が生まれる
「え…何…っっ!!」
隙を見せた青年に魔女が魔法を使う
質量変化の魔法だろうか
彼が持っていた銃が急激に重くなる
小さな銃なのに中身は、巨大な岩ぐらいの重さだ
ロボットでも怪力男ではない彼には耐えれるはずがない
案の定、青年はその場に倒れ込んでしまう
掌にある銃が彼を逃がさない為の鎖となった
必死に逃れようとする青年を金竜は一瞥すると、再び口内の獲物に意識を集中させた
しっかり味わっているようで、時折頬らしき部分に小さな膨らみが出来る
そこから、くぐもった声も聞こえてくる
声は青年にも聞こえている
仲間である男の悲鳴は彼の心にジワジワと恐怖と苦しみを与えていた
少しでも回避したいと思いながら、空いてる左手で耳を塞ごうとする
「っ!?な、何……」
音が止まる
突然の事を彼は不思議に思い、金竜の方へ視線を向けた
彼の視界に飛び込んできたのは、金色一色
そこから視線を移動させると、あの紅玉が見えた
至近距離で見る竜の迫力に圧倒されながらも彼は冷静さを保つ
じゅるっ…ぐちゅっ
「ぐっ、く…そ……ぉっ」
何をするかと思えば、また男を嬲り始める
青年の耳に一段と大きくなった悲鳴が届く
「やめてくれ!」
泣きそうになりながら大声で叫ぶ
すると、また動きが止まった
再び金竜を見上げると、ニヤッと笑う顔が飛び込んでくる
嫌な予感が頭の中を過る
がぶっ!!!
「あ゛ぁあぁあぁ!!!!」
森に一際大きな悲鳴が谺する
その直後、竜の口元から一筋の赤い線が走る
それは一筋から二手に分かれ、顎から地面へと赤い雫を落とす
「嘘…だろ…」
牙の隙間から飛び出る腕を見つめながら彼は呟く
その腕も、赤色に染められていた
言葉を失う彼を面白そうに見つめた後に、また男の体を味わい始める
今度は舐め回しではない
バキバキ、ゴリゴリ。骨の砕ける音が青年の耳に届く
わざとだ
青年の恐怖を煽るためだけの行為、その効果は抜群だった
血の臭いが辺りを漂い始め、青年が吐き気を催す
ごくりっ
咀嚼が終わったかと思えば、生々しい音が鳴る
金色の喉にぷっくりとした膨らみが出来ており、それが一気に落ちていく
そこからゆっくりと竜が頭を戻せば、じゅるり、と口周りを舐める
その際チラリと見える口内には、何も無かった
漆黒のローブを身に纏い、それとは逆の色白な肌をもつ彼女
長い金色の髪の隙間から覗く深紅の瞳が、彼等をしっかり見据えている
彼女こそが、この森の主である人喰い魔女だ
「し、死ね!!」
彼女を目の前にして、パニックに陥った男が猟銃を構えて引き金を引く
パァン!と乾いた銃声が鳴り響いた
鳥が一斉に羽ばたき、ドサッと誰かが倒れる
近くで見ているだけだった青年は男を見た
「…え!?」
「おや?歓迎でもしてくれてるのか?
普通は逆だぞ?」
倒れているのは魔女ではない、男だ
太り気味の体が落ち葉の中に沈んでいる
パニック状態での発砲で、体が耐えきれずに倒れてしまったのだろう
そこに訪れようとした静寂を魔女が止める
青年は言葉を失った
魔女が無傷な事に驚いているのは確か
だが彼の視線を引いたのは、男が握る猟銃だった
その銃口からは、白い煙が昇っている
違和感は特に無い
あるのは、舞っている紙吹雪の方だ
「な、何で…」
鉛の塊が一瞬で紙に変わる
手品を見ている様な光景に青年は呆気にとられてしまう
そして確信した。相手は魔女だと
「もうおしまいか?ならば、此方の番だ」
そう言った刹那
彼女の体が光に包まれ始めた
眩い閃光が走り、彼等は反射的に目を瞑る
「何が…!?」
数秒後、光が消えると彼等は目を開ける
そして戦慄した
二本足の巨大な生物
腹部以外は全て金色の鱗に覆われている
鋭い爪や牙、長い尻尾に蝙蝠のような巨大な翼をもつもの
金色の竜
それが彼等の前に現れたのである
悲鳴すら出ない
ただ口を開けて、わなわなと震えるだけ
それでも恐る恐る顔をあげれば、人間の時と同じ深紅の瞳が彼等を見据えている
見下している、と言った方が正しいだろうか
その目は彼等の反応が面白いのか、細められており、口元からは牙が顔を覗かせている
「…!!!」
金竜の邪悪な笑みに青年が銃を向ける
倒れている男を守るためか、同じくパニックに陥ってしまったのか…
どちらにしろ、結果は変わらない
「うぐっ!?」
青年の体に鈍い痛みが走る
ドスッと音がしたかと思えば、彼の体は先程いた場所から離れている木陰に倒れていた
金竜の尻尾に凪ぎ払われたらしい
木が揺れて何枚か葉を落とした
「そこで待っていろ、すぐに喰ってやる」
笑い混じりの声で青年にそう言う
その直後に彼女は男を捕まえた
巨大な手でつまみ上げ、掌の上に落とす
男は必死に逃げようと暴れていた
けれど非力な人間の抵抗は、竜となった彼女から見れば無駄な足掻きに過ぎない
殺そうと思えば、何時でも殺せる
だが、彼女は殺さない。遊ぶのだ
手に力を込め、少しずつ圧迫していく
男が呻き声を漏らせば、竜の口角がゆっくりと上がる
徐々に骨が悲鳴をあげ始め、呻き声も悲鳴へと変わる
「ぐあぁ…ぁ…ぁっ…」
それでも止める気配を全く見せない
すると、男の抵抗が小さくなり始めた
人間である彼には体力があり、それに限界が近づいてきたようだ
「…チッ」
一瞬つまらなさそうな表情を浮かべた
その顔と言ったら、まるで壊れた玩具を見つめる子供のようだ
今のが合図なのか、男が口元へ運ばれていく
金色の中から牙や舌が見えたかと思うと、彼の体はその中へ消えた
隙がある今がチャンスだ
そう思った青年は急いで銃を取り出す
猟銃は落としてしまったが、胸ポケットの片手銃はある
勝利の光が彼の心に差し込む
青年は竜の目に銃口を向けた
ギロッ
「ひっ!?」
だが気づかれたようで、鋭い視線が体に突き刺さる
情けない事に、彼はそれに怯んでしまった
光が遠ざかっていき、彼の心に後悔という言葉が生まれる
「え…何…っっ!!」
隙を見せた青年に魔女が魔法を使う
質量変化の魔法だろうか
彼が持っていた銃が急激に重くなる
小さな銃なのに中身は、巨大な岩ぐらいの重さだ
ロボットでも怪力男ではない彼には耐えれるはずがない
案の定、青年はその場に倒れ込んでしまう
掌にある銃が彼を逃がさない為の鎖となった
必死に逃れようとする青年を金竜は一瞥すると、再び口内の獲物に意識を集中させた
しっかり味わっているようで、時折頬らしき部分に小さな膨らみが出来る
そこから、くぐもった声も聞こえてくる
声は青年にも聞こえている
仲間である男の悲鳴は彼の心にジワジワと恐怖と苦しみを与えていた
少しでも回避したいと思いながら、空いてる左手で耳を塞ごうとする
「っ!?な、何……」
音が止まる
突然の事を彼は不思議に思い、金竜の方へ視線を向けた
彼の視界に飛び込んできたのは、金色一色
そこから視線を移動させると、あの紅玉が見えた
至近距離で見る竜の迫力に圧倒されながらも彼は冷静さを保つ
じゅるっ…ぐちゅっ
「ぐっ、く…そ……ぉっ」
何をするかと思えば、また男を嬲り始める
青年の耳に一段と大きくなった悲鳴が届く
「やめてくれ!」
泣きそうになりながら大声で叫ぶ
すると、また動きが止まった
再び金竜を見上げると、ニヤッと笑う顔が飛び込んでくる
嫌な予感が頭の中を過る
がぶっ!!!
「あ゛ぁあぁあぁ!!!!」
森に一際大きな悲鳴が谺する
その直後、竜の口元から一筋の赤い線が走る
それは一筋から二手に分かれ、顎から地面へと赤い雫を落とす
「嘘…だろ…」
牙の隙間から飛び出る腕を見つめながら彼は呟く
その腕も、赤色に染められていた
言葉を失う彼を面白そうに見つめた後に、また男の体を味わい始める
今度は舐め回しではない
バキバキ、ゴリゴリ。骨の砕ける音が青年の耳に届く
わざとだ
青年の恐怖を煽るためだけの行為、その効果は抜群だった
血の臭いが辺りを漂い始め、青年が吐き気を催す
ごくりっ
咀嚼が終わったかと思えば、生々しい音が鳴る
金色の喉にぷっくりとした膨らみが出来ており、それが一気に落ちていく
そこからゆっくりと竜が頭を戻せば、じゅるり、と口周りを舐める
その際チラリと見える口内には、何も無かった
12/11/04 18:35更新 / どんぐり