の嘘 (そして僕らは、)

※やや古いです。WEB用一人称、二次創作の参考に。

 

開かない扉(藤赤/共有前提)

最近になって気付く。
昼間の藤堂は、強いて言葉にするならば

――――優しかった。

「何読んでるんだ?」

服を着るのも面倒で、シャツ一枚かぶっただけの姿で本を読んでいる俺に、藤堂は興味無さそうに訊く。

「あぁ…俺の部屋にあった奴か?」
「…うん。ごめん、勝手に」

本当にどうでもいい風なのに、藤堂は本を覗き込む。

「犯人教えてやろうか」
「藤堂…推理小説じゃないよ、これ」
「そうだったか?ま、どうでもいいか」

藤堂の部屋にあった本の中で、この本は何度か読み返された痕があった。
古い、どこか淡々とした哀しい物語。
何度も賞を取った作家の若い頃の物だ。数ある作品の中でこれが一番好きだという人間は少ないと思う。

これをどんな気持ちで彼は読んでいたのだろう、と思いながら俺はこの救いのない物語を読み耽っていた。

「赤井」
「何、藤堂」

名を呼ばれると、少し構えてしまうのは
夜毎繰り返される行為のせいかも知れない。

「腹減らないか?」
「え」
「何怯えてんだ、んな突然襲ったりしねぇよ」
「……するだろ」
「ま、否定はしねぇが。…とにかく、腹減ったんだよ」

少し不機嫌そうに煙草に火をつけ、藤堂は電話帳を繰った。何か出前でも思ったらしいが、ふと手を止める。

「何か食いてぇ物とかあるか?」
「俺?」
「他にいるか?やめてくれよ、お前まで視えるだの言い出して水子がどうのとか言われたら俺だって参るんだよ」
「み、水子?」
「そこに食いつくんじゃねぇよ…ほら、何が食いたいんだ?言ってみろ」

藤堂は苦笑しているが、怒っているようではなかった。
ただじっと、俺が何か言うのを待っている。

食べたい物か、と考えるが特に思い浮かばなかった。

「俺、あんまり減ってないんだ」
「…昨日もろくに食ってねぇだろ、お前」
「そうだったかな。でも、本当に…だから何でも良いよ、藤堂が食べたい物で」
「……赤井」
「何」

低く呼ぶ声に、身体が震えた。

強引に手首を掴まれるが、予測の範囲内だった。こんなことはもう慣れた。
せめてもう少し優しく扱ってくれればと思ったが、そんな事を望む時点でもう、どうかしている。

そんな事を望める立場に、俺は居ないのだ。

「お前、痩せたろ」
「そうかな」
「誤魔化せるとでも思ってんのか?」

手首を掴む指の力が強くなる。
睨むような目付きで顔が近付いて、額が押し当てられた時

あったかい、と思った。

「……“誰のせいだ”と言いたげだな?赤井」
「そんな、こと」

無い、と言おうとした。

誰のせいだ
こうなったのは、一体、誰のせいだ?
俺のせいじゃないか

俺が例えば藤堂を選んでいたら、こんなに近くに居るのに遠く離れているような気持ちにはならなかった筈だ。

触れ合っているのに、全く手が届かない。

「赤井」
「な、に」

おかしかった。
今日の藤堂は、おかしかった。あまりにもおかしかった。おかしくておかしくて、俺はきっと自分の頭がとうとういかれてしまって都合のいい幻を見てるんじゃないかと思う程だった。

「とう…ど、う?」

こんな。

こんな優しくて熱い抱擁は、おかしい。

これは俺らの間にあっちゃいけないものだ。
――― 俺らの。俺と、藤堂と、蒼山の。

誰も選べないからこうなったんじゃ無いのか。藤堂が、俺が、蒼山が、それを赦さないからこうなったんじゃ、無いのか。

「言えよ」
「何を」
「早く言っちまえよ、俺が好きだって」
「言ったら、どうなるって言うんだ」
「…さぁな、何か変わるかもしれないぜ」

頭を抱く掌が優しいのは何故だ。

抱き返せないのは、どうして。

「何か、作ってよ」
「俺が?」
「食べたい物言えって言ったろ?そろそろ店屋物じゃなくて人の作ったものが食べたい」
「めんどくせぇ…」
「藤堂も、ちゃんとした物食べてないだろ」

身体を腕で押し返すようにして俺は藤堂と離れた。
急に寒くなったような気がする。
でも、再び手を伸ばすことはない。

「わーったよ…ったく、手のかかるペットだな」
「っわ」

頭をくしゃりと撫でられて、暖かいようなくすぐったいような気分になるのが可笑しかった。
この時間。
この時間は、一体、何なんだ。

この感情は、何。

 

行き過ぎたぬるま湯は少しずつ腐敗して俺達を蝕んでいる。
藤堂は携帯を開き、何か操作をして乱雑にそれを閉じた。


「赤井」
「何」
「あと一時間位したら終わるから、それから来るってよ」
「……そう」

蝕んでいる。

俺たち三人は、そのうちぼろぼろになって腐って溶けてしまうのかも知れない。

「……何だよ」

台所に立つ藤堂の背に、頭をつけた。
何でもないという風に頭を振る。

柔らかい布の感触が鼻にかかり、藤堂のいつも吸っている煙草の匂いがした。

うしないたくない

少なくともこれだけは、あの時からずっと
この男に抱いてる感情だと言い切れる。

 

俺はその香りを吸い込むようにして目を閉じた。

 

扉はまだ、開かない。

 

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