フリストの街外れ、むしろ街の外と言って良いだろうか?
町並みは途切れ、既に境界線の外
薄い枯れかけた草の生い茂る辺りに、タカシは粗末な露店を立てていた
商売する気があるのかないのか、露店と言っても敷物の上に錆びた剣を一振りごろんと無造作に投げ出してあり
「刀貸し升」の暖簾が細い棒に括りつけてパサパサと風に揺れている、ただそれだけ
さっぱり客は寄りついてこない。
口を半開きに、ぼんやり空を眺めている。

既に早い連中は次の街にたどり着いた事だろう、とか
同行の2人はもう少し、自分に優しくならないものだろうか、とか
早く儲かってウッハウッハにならないものだろうか、とか
フリストの街を離れて行く冒険者達を横目に見ながら
そんな愚にもつかない事を考えていた
そんないつもの風景

・・・ぼんやりとした時間が流れている



「お客さん来ないでやすね…」
呟いてみるも、仕方ない。これも皆貧乏が悪いのだと自分に言い聞かす。
「貧乏じゃなければ、パーっと店でも構えて、もうウッハウッハでやんすのに…」
その前に色々改善するべき所があるだろうと、指摘をする人も今はいない。やる気のない店構えや商品にも
「はぁ…一攫千金も一歩からでやんすね…」
よほどぼんやりしていたのだろう、久し振りの来客にも気付いていなかった

「――取り込み中失礼、刀貸しよ」
「ヒィイ!?なんでございやしょう!?」
間抜けな声を出す。まったく気付いていなかった。
そういえばどこかで聞いた声…いや、良く良くみれば数日前に依頼を請けた女性剣士だった。
「これはこれは、エターナル様。
 また、お会い出来て光栄でやす」
大仰に両手を広げて、挨拶をする。
「――うむ。息災そうだな」
「へぃ。ま、なんとか今日も生き延びておりやす。エターナル様も御健勝で何よりで」

「丁度良い所で出会えたものだ、これを見てくれ」
コトッと、粗末な件の横に、程程しっかりとした作りのレイピアを置く。
「これはアッシの『お貸し』しやした、?」
「そうだ。私は『吹雪の螺旋階段』と呼んでいるが」
良く良く目を凝らすと。剣先から刀身にかけて表面に割れ目が出来ている
「捻じれにヒビが入ってやすね」
「マンモス相手に戦っている時にな。嫌な手ごたえはしたんだが」
むしろ、良くあの固いマンモス相手に、ヒビが入った剣で勝利したものだ…
「流石でございやすね。いやいや、アッシの拙い腕で御迷惑おかけしやした…」
「――どうだ直せるか?」
「一旦潰して、屑鉄化しないとダメでやすね…仕方ないでございやすが
 ま、少々お待ち下さいませ」
手元の鍛冶道具をテキパキと取り出し、槌を振い始める。
「――先程までの呆けぶりとはえらい違いだな」
「ハハっ、いやいや。御勘弁下さいやせ」ガキンガキン
ガキンガキン
「しかし、良い使われ方されてやすね…手入れもして頂いて、剣冥利に尽きるでやしょう」
「ほう、それはありがたい事だ…が、騎士としては当然だな」
「当然でございやすか」カンカンカン
「――無論だ。『常在戦場』常に戦場にあり、だからこそ武装を整えるのも、食事をするのも、休むのもな」

その言葉にふと、剣士を見やる。このアンジニティではそう見たこともない「誇り」のようなものを感じた。
それは刀貸しの心に若干の羨ましさのようなものを浮かばせる

「はは、となると先程までのあっしは、戦場にはおりやせんでしたね」
「――楽して金儲けしようなどと思うものは、戦場にはおるまい」
「こりゃ、手厳しいでございやすね」
思わず苦笑いを浮かべる。先程、感じたものは既に彼を通り過ぎて行った。
「とっとと、出来やした」
「早かったな」
「より鋭い刺撃が出来るようにしやしたし、芯の強度も増してるはずでございやす」
「ふむ、では『Dirge of Sting』と名付けさせて貰おう」
「ありがとうございやす」
「それでは、健勝でな刀貸し」
「エターナル様も、道中お気を付けてくださいやせ 
「また、御縁がございやしたら、よろしくお願い致しやす」
「そちらも、精々ぼんやりしてくたばらんようにな?」
「ハハハ、精進致しやす」


女性騎士は颯爽と歩いて行った。彼女の道は、常に戦場なのだろうか。
刀貸しは剣を打ち、剣を貸す。
その道は、一体何処に続いているのだろうか?
彼女の様な覚悟も矜持も、果たしてあるのだろうか・・・

やーれやれ、ガラにもない事考えても仕方ないでやんすねぇ…
あっしはただ刀打って、貸して稼ぐだけ…のはずで良いはずなのですやすが
「どうにも、旅に出てから調子狂う事ばかりでやす」

異界の者たちに触れる事で、世界にはいろいろな変化が出ている
それは街や物だけではない、人にも影響を及ぼすものなのかもしれない。

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