TOO MUCH OF EVERYTHING




―お前には、俺にないものがあり過ぎる。







ある晴れた日の午後、うたた寝から目を覚ましたルパンは、次元の姿が見えないことに気が付いた。


(…そう言えば、午後買出しにいくからなんか欲しいもんあるか、って聞かれたっけ…。)


頭をボリボリと掻きながら大きなあくびをして、ルパンはソファーから起き上がった。



初冬の日は柔らかく、温かかった。

通りを見下ろせる窓辺に腰掛けて、ルパンは見るともなしに街の風景を眺めていた。






平和な日だ。

まるで常の喧騒が嘘のようだ。






もし泥棒という道を選ぶことなく、普通の生活を営むことを選んでいたら―

ふと、そんな考えが頭をよぎった。






ジェットコースターのような毎日。危険と隣り合わせのスリル。

それを望むことなく生きていけたら。―次元とふたりで。




そこまで考えて、ルパンはふっと瞼を閉じて、首を横に振った。




自分には、そんな生き方はできない。




生まれたときからこの体には、スリルを望む血が流れている。それも半端なものでなく、生と死の間、ぎりぎりのスリルを。











俺の血をたぎらせてくれ。俺の心をその気まぐれな誘惑で満たしてくれ。











―そういう自分であることを、そしてそれが生涯逃れることができない宿命的な血であることを、ルパンは知っていた。






聞き慣れた次元の足音はまだ聞こえない。

ふいに泣きたいほど次元を抱きしめたくなって、ルパンは表へ出た。






このアジトに滞在するときの次元の買出し先は限られている。たとえもう店を出てしまったあとでも、走り回れば次元に会える―

その時ルパンは、行き違いになるかもしれないということを思い浮かべもしなかった。子供のように後先を考えず、走った。ただ次元をこの腕に抱きしめたくて、ひたすら走った。











見慣れた後姿を見つけたのは、アジトから半キロほど離れたところにある小さな公園だった。

その背中を見ただけで、体中が痺れるくらい愛しさがこみ上げてきた。



まっしぐらに次元に駆け寄ろうとして、しかし、はたとルパンは足を止めた。



次元の周りに、人垣ができている。小さな小さな人垣が。






その公園は見晴らしがよく、春ならば花が咲き誇り、夏ならば木々の緑が鮮やかに映える。秋になれば色とりどりの落ち葉に覆われ、そして冬には―

子供たちがスノーマンを作って遊ぶ。そんな場所だ。


今は秋の終わり。紅葉した落ち葉が、子供たちの小さな足を首まで埋めてしまっていた。笑い声が、周囲を満たしていた。




次元は子供たちに、落ち葉を使ったお面を作ってやっている所だった。

既にその手に落ち葉でできた動物のお面を手にした子供たちは、おおはしゃぎで次元の周りを駆けている。

順番を待っている子供たちの顔が、一様に喜びにきらきらと輝いている。


「さあ出来たぞ。つけてみな。」


次元が笑って最初の順番の子にキツネのお面を手渡した。


「ありがとう!!」


栗色の巻き毛の男の子は大きな声でそう言うと、勇んで駆け回っている子供たちの列に入り込んだ。

次元が次の子のためにお面を作っている間も、手一杯にした落ち葉を次元の背にかけて遊ぶ子や、次元の腕にしがみついて離れない子もいた。

落ち葉をかけられるたびに次元は大笑いし、一緒になって子供たちに落ち葉をかけ返したりしている。

その笑顔は本当に―

本当に輝いていた。











これが、「暗黒街の死神」と恐れられる無二のガンマンの顔だろうか。いいや、死神などであるものか。まるで―











まるで天使みたいだ。











ルパンはしばらく、そこに立ち尽くしたまま動けずにいた。











…なんてこった…。




ルパンの目に、じんわりと滲むものがあった。

やがてそれは、一粒、二粒と雫になって足元に落ちていった。




馬鹿げている。こんなことで泣くなんて。




ルパンが袖口で涙をぬぐっていると、


「ルパン?」


そばで聞くのがが当たり前になったあの声がした。




見ると、次元の腕にしがみついている内気そうな金髪の女の子が、不安そうにルパンを指差している。


「何してんだよ、こんなとこで。」


ちょっと待っててくれな、と子供たちに頼むと、次元はルパンに駆け寄ってきた。


「どうした。何かあったのか?」


次元が心配そうに聞いてくる。

当たり前だ。涙はぬぐっても後からあとから溢れ出してくるのだ。




「おじちゃん泣いてるー。」

「大人なのにへんなのー。」


子供たちもぞろぞろと寄ってきた。


「ルパン、本当にどうしたんだよ。」


次元のその声に遂に耐え切れなくなって、ルパンは次元を抱きしめた。強く、強く。骨も折れんばかりに、強く。




「あ痛てて…!…おい、どうしちまったんだ?また女に振られでもしたのか?」

「おじちゃん、ほら、お面あげるから泣くの止めなよー。」

「キャンディもらったよ、これあげるから泣かないでよ。」




次元と子供たちに慰められながら、ルパンは次元の髪に顔を埋めて、しゃくりあげて泣いた。











その夜。

食事を終え、照明を落としたリビングでワインを飲んでいると、次元が懐かしそうに言った。


「…久しぶりに見たな。」

「何を?」


グラスを片手に、ルパンはソファーの次元の隣に腰をおろした。


「お前の泣いてる顔。」


悪戯っぽく次元が笑う。


「ま、珍しいモン見せちまったな。」


ルパンは次元の手からグラスを取り上げた。

そのまま倒れるようにして重なり合い、唇を奪った。




「ん…」




次元が小さく、吐息を洩らす。

ふたりの息遣いが荒くなる。室内の空気が変わる。




思うさま口付けて、ルパンは顔をあげ、愛しい男の頬を撫ぜた。


「…ひとつ、聞いていいか?」


荒いだ呼吸のまま、次元が問い掛けた。


「…どうして泣いてたんだ?」

「…さあ。どうしてだったかねえ。」


次の言葉が継げないように、ルパンは再び次元の唇に自らの唇をあてがうと、その舌を絡めとった。




燃え上がる欲望の渦の中にあって、ルパンは脳裏の片隅でもう一人の自分の声を聞いた。






(本当は、分かってるくせに。)






…分かってるさ。理由なんて。




次元の肌に口付けながら、ルパンは自嘲した。






俺はあんなに無邪気に笑うことができない。

俺の手はどんな複雑な鍵だって開けちまうが、あんな優しいものは作れない。











なあ、次元。

お前には俺にないものがあり過ぎる。

こうしてお前を抱いているとき、俺は怪盗でもなんでもない、ただの男だ。

お前のすべてが、俺にとっては眩しいんだ。死ぬまで言ってやらねえけどな。






だからせめて―






半分でもいいから、お前に見合う男になろう。

これまでだって自信がなかったワケじゃないけど―




これからは、もっとそうなるように。









愛しているよ、次元。

俺は他のどんな男だって女だって、いや、世界中の誰だって真似できないように、お前を愛そう。






…俺をこんな気持ちにさせるのはお前だけだってことも、言ってやらねえけどな。











恋人たちの夜は、熱気のうちに過ぎていく。

その夜何度昇りつめたのか分からなくなるほど激しく、ふたりは愛し合った。






時間も、互いの境界すらもわからなくなった頃、ルパンは小さな、幻のような次元の声を聞いたような気がした。






「…愛してる、ルパン…」






声は確かにそう言っていたと、霞んでいく意識の中でルパンは信じたのだった。












Fin


















(何事も持ちすぎているというのはルパンの方だという印象が強いですし、実際そうかもしれませんが、あえてルパンから見た次元がルパンにないものを沢山持っている、という設定で書いてみました。)

2008/11/16

アーティスト:コルネイユ
曲名:「TOO MUCH OF EVERYTHING」
アルバム:『The Birth of Cornelius』

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