Sunshine after the rain




ロンドンでは、三日間雨が降り続いていた。

雨は嫌いではない。

雨の日でも傘をさす習慣の無い次元は、スーツが濡れるのもかまわず、よく散策をする。

今日も次元は、早朝からケンジントン公園にいた。

湿った空気が鼻孔に心地よい。

体を打つ雨の粒も、自分に染みついたもの全てを浄化してくれるような気がする。

血、硝煙、そして死の匂い…これら全てを。

己の過去も、全て。

そんな事を考えながら、俯いて歩いていた時だった。

ふっと、周囲が温かいものに包まれた。

そう感じたのは、傘がさしかけられたからだ。

「よう。」

「…お前さんにしちゃ、早起きだな。」

「次元ちゃんが隣にいないと寒くって。」

すぐ目が覚めちゃう、そう言って相棒は、のほほほと暢気に笑った。

「…静かで、気持ちのいい朝だな。」

笑い止んだ相棒が前を見ながら言った。

「…ああ。」

しばらく二人は、黙って草を踏んで歩いた。

「なあ、次元。」

ふいに相棒が口を開いた。

「何だ。」

俯いたまま、次元は聞き返した。

「過去にお前に降った雨は、俺にはどうすることも出来ないけれど」

目を上げれば、相棒は上を向いて、困ったように笑っていた。

「でも、これから二人で出来ることは沢山あるぜ?」

普段のルパンらしくない、弱気な言葉だった。
だから、茶化しながら正直に言ってみた。

「何だ、随分弱気じゃねえか。お前ぇらしくもない。」

「俺にだって、出来ないことはあるさ。」

んー、と伸びをしながらルパンは笑った。

「たとえば、過去にばっかし向いてる誰かさんの心を、ぜぇーんぶ俺様に向けさせる事とかな。でも、今は出来なくても、必ずそうさせてみせっけどな。」

ちくり、と胸が痛んだ。

何せ俺様天下のルパン三世だもの、かっかっかっ、と笑う相棒に、だから次元も笑い返した。

「へっ。ありがたいこって。」

その時、突然ルパンの唇が重なってきた。

「お、おい!!」

次元は慌てて遮った。

「人が見るぞ、おい!」
「いいからいいから。」

ルパンは笑って、次元の唇を柔らかく包んだ。

あたたかな、くちづけ。

傘が二人の足元に落ちた。

緩やかな時間が流れた。

やがて唇が離れると、ルパンは額を次元の額につけて、その瞳を覗きこんだ。次元もルパンを見つめ返した。

ルパンは満足したように喉を鳴らすと、次元を抱き寄せた。

「ほら。」
「…ん?」

「雨があがった。」

見れば、薄く紫に染まった雲間から、光がさしこんでいた。頭上を小鳥たちが、さえずりながら踊るように飛んで行く。

爽やかな風が、さらりと頬を撫でた。

「さて、散歩はこの位にして、部屋に帰って朝メシ食わねえ?」

「…そうだな。」

そう答えた次元の顔には、確かに、穏やかな微笑が浮かんでいた。

早春の若葉の匂いが香り立つ、ある朝の出来事だった。






〜Fin〜

2008/01/22 忍さまへ

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