午睡




遠くで鳴ったクラクションの音で、ルパンは目を覚ました。






淡い秋の日差しが差し込むパリの午後三時―

傍らでは、恋人が身じろぎもせず深い眠りに落ちている。

ルパンは寝返りを打つと、恋人に向き直った。




数時間前の激しい情事の痕跡は、常は撫でつけているが、今は汗で乾いて額にはりついた前髪から知ることが出来る。

ルパンは頬杖をつき、そのまま次元の寝顔をじっと見つめた。











ここ数ヶ月、ルパンは次の獲物である、とある資産家が保有する大粒のルビーを盗み出す計画に余念がなかった。

念入りに張り巡らされた警備網をどうやって突破するか。

脱出経路の確保。必要な小道具、そもそもの資産家への接近の方法―

ルパンは一旦盗みの計画を練る段階に入ると、他の事が目に入らなくなる。

その計画が楽勝なら数時間でそれは済む事なのだが、今回の様に厄介な警備網があったりすると、その思考時間は数週間、時には数ヶ月に及ぶ事がある。

次元はその間、何も言わず、じっと待っている。

起居を共にしていようがいまいが、決して口出しをせず、一番ルパンが思考を働かせやすい様に自分の立ち位置を保つ。




だが今回は、少しばかり待たせすぎたらしい。

先ほどの情事での情熱的な次元を思い出して、ルパンは苦笑いをした。




しかしルパンは、次元のルパンの仕事に対するその姿勢をずっと愛おしく思い、また気遣いに感謝してきた。






こいつ以外に、俺の相棒が勤まる奴ぁいねえ。






そして、ルパン三世の恋人も。

世間ではルパン三世は女に目がないプレイボーイで通っているが、ルパン三世の心に住んでいるのはたった一人、傍らで眠る黒衣のガンマンだけなのだった。






「…う…ん…」


小さな溜め息のような声とともに、次元が目を覚ました。

何度かゆっくり瞼を上下させると、次元はルパンの視線に気がついた。


「…起きたのか?」


ルパンが愛おしそうにその頬を、髪を撫ぜる。


「ああ…。今、起きた…」


次元は気だるそうに身体を折り曲げた。その動きに、微かにベッドが軋んだ。

シーツにくるまって、満足そうに深い溜め息を漏らした次元は、再びルパンの方へと顔を向けた。

相変わらず、ルパンは優しい瞳で次元を見つめている。


「…何見てんだ?」


次元が不思議そうに聞くと、ルパンが覆い被さってきた。


「お前を見てた。」


シーツごと抱き締められながら、次元はやはり不思議そうに聞く。


「…それって、楽しいか?」

「幸せな気分になれる。」


ルパンは心底嬉しそうに言った。


「…そういうもんかねぇ…。」


次元はふあ、と一つあくびをして、もぞもぞと二度寝の態勢に入った。


「分っかんねえかなあ。」


ルパンが次元の首に腕を回してその額にキスすると、次元は目を開けた。


「…俺には分からんよ。」


その頬に微かに赤みがさしていることをルパンは知っていたが、黙っていることにした。


「…俺様、今、最高に幸せだわ。本当に。」


ルパンも次元に向かい合う様にして横になり、目を閉じた。


「…そりゃ良かった。」


次元もまた、目を閉じた。











穏やかな秋の午後。

永遠さえこの手に掴めそうな、澄んだ午後。





















Fin

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