□ Nobody can keep us apart. □






「お主、次元のことが心配ではないのか!?」


五右ェ門が怒りを滲ませながらルパンに問うた。床に正座したまま。






次元が、ストーンマンという男との5年前の因縁の対決に向かおうとしているのだ。

五右ェ門が幾ら助太刀を申し出ても、


「これは俺だけの闘いだ」


そう言って次元は、それを受けようとはしなかった。

焦燥を隠せない五右ェ門に対して、ルパンは呑気に不二子とお宝の事を話し合っている。

そんなルパンが、五右ェ門は許せなかった。




第一の相棒であり、長年行動を共にしてきた次元が死地に赴こうというのに―

いや、恋人である次元が死地に赴こうとしているのに。

何故こんなにも平気な顔をしていられるのだろう。

五右ェ門は手にしていた斬鉄剣を握り締めた。

次元も、自分のことなどお構いなしの風情のルパンに対して何を言うでもなく、別室で入念にコンバット・マグナムの手入れをしている。



愛し合っているのなら、互いのことを案じるのは当然ではないか―



五右ェ門の、叶わぬ恋。

これまで、ずっと心に秘めてきた次元への想い。

それがある分だけ、今回のふたりの言動には五右ェ門は納得がいかなかった。出来るはずがなかった。




「あン?心配じゃないのかって?」


ルパンは、穏やかな秋の日差しが差し込む窓辺に立って珈琲を口にしながら、微笑みを浮かべて五右ェ門に向き直った。


「してないねぇ。”心配”は。」


ルパンのその言葉に、思わず五右ェ門は勢い良く立ちあがった。

五右ェ門が口を開くより先に、ルパンが言葉を継いだ。


「あいつの腕は一流だぜ?”超”のつく、な。ストーンマンだかスットコトンマだか知らねえが、そんなのにあいつが負けるワケねえだろ。」

「それはそうかも知れぬが…!何故お主、そんなに落ち着いているのだ!?」

「何をどうしろってンだよ。五右ェ門。」


ルパンは困った様に笑った。

五右ェ門は何か言おうとしたが、上手く言葉に出来なかった。




もっと焦って欲しい。もっと慌てて欲しい。

「次元、行くな」と、次元を止めて欲しい。

ルパンの言葉なら、次元は受け入れるかもしれない。




だがそのどの言葉も、口に出してしまえば自らの想いが溢れ出してしまうだろう。

ルパンに対して、それをしてはならない。

ルパンは常日頃から表面上は次元に「相棒」として接しているが、心底次元を愛しているのは五右ェ門が一番良く知っている。それ故に、独占欲も強い。例え五右ェ門だとて、次元に想いを寄せる男をルパンは許さないだろう。


「…俺が行くなと言ったって、あいつが行くと決めたならあいつはそれを覆さないだろうし、それはあいつの問題だよ。」


五右ェ門の考えを見透かした様に、ルパンは言った。


「それにな、五右ェ門」


俯いていた五右ェ門は、ルパンに顔を向けた。日差しが強まって、ルパンの姿は光に溶けて影のように見えた。


「…誰も、俺たちを引き離す事はできねぇよ。例え神だろうとな。」


ルパンはカップを傾けて、珈琲を飲み干した。




五右ェ門は黙って続く言葉を待っていた。

真一文字に口を引き結んで真剣な面持ちをしている五右ェ門に、ルパンは再び苦笑しながら言った。


「おい、これ以上聞きてぇのか?俺に言わせたいのか?…もう、十分だろ。」


そう言ってルパンは、不二子の居る部屋へと向かう為に五右ェ門の脇をすり抜けた。すれ違い様に、ルパンは五右ェ門の肩をポン、と軽く叩いた。











首尾良く今回の獲物である「ハンニバルの金貨」を盗み出し、ハンニバルの隠した財宝の在処をつきとめたルパンは、五右ェ門、不二子とともに財宝を掘り出しに向かった。

次元は、ストーンマンの待つレオン・ヒルで一人車を降りた。


「悪かったな、ルパン。」


そう言う次元にルパンは、


「かーってにしろ!そんなに穴掘りヤなのかよ!」


と捨て台詞を吐いて、勢い良く車を発進させてしまった。






誰も、俺たちを引き離す事はできねぇよ。例え神だろうとな―






五右ェ門は、昨日のルパンの言葉を思い出していた。

ルパンだけでなく、次元もそう信じているのだろうか。




ルパンと次元が重ねてきた幾年もの年月―その中で培われた深い愛情と信頼。

五右ェ門は、今更ながらに自分の割り込む余地がない事を思い知らされた気がした。

車が急停車し、ルパンと不二子はそれぞれスコップを手に車から降りた。


「ご〜えも〜ん。お前までどうしちゃったのよ。もう着いたぜ?」


ルパンの言葉に五右ェ門は我にかえり、無言で鍬を手にした。


「まーったく、今回はどいつもこいつもやる気がないねぇ…」


ルパンはぼやきながら、土を掘り起こし始めた。











午後3時。

闘いの火蓋が切って落とされようとする直前に、ルパンたちはレオン・ヒルに着いた。

ルパンが「早く乗れ!」と呼びかけても、次元は応じなかった。

その時、ブランコ空軍の戦闘機が頭上を襲った。

ブランコ総統が目を覚まし、ルパンに金貨を盗まれた事を知って差し向けてきたのだ。

ルパンは迷わず車に飛び乗ると、国境の鉄門に向かって猛スピードでアクセルを踏んだ。


次元―!


五右ェ門は振りかえって、遠く小さくなってゆく次元の姿を目で追っていた。

常になく、不二子が取り乱してルパンに問いただした。


「ねえ、次元は国境までの道を知らないんでしょう!?」

「ああ。…それがどうしたよ。」


ルパンは前を見たままで冷静に言い放った。

後部座席に座っていた五右ェ門は、その言葉に怒り心頭に発した。


「ルパン!お主あんな事を言っておきながら、やはり次元を見捨てる気なのか!」


五右ェ門は斬鉄剣を抜き、迷わず刃先をルパンの首筋にあてた。


「…そう熱くなるなよ。五右ェ門。」


ルパンは軽く笑みを洩らした。


「ルパン!あなたって随分薄情なのね!」


不二子も動揺を隠さずに抗議した。

するとルパンは、更に口端を上げて不敵に笑った。


「なぁに。ヤツなら大丈夫さ。」

「どうして!?」


訳が分からず不二子が聞き返すと、ルパンは笑みを崩さずに言った。


「ハジキを組みたてるくらい、目を瞑ってたってやれる男さ。」


不二子と五右ェ門は、顔を見合わせた。






一方次元は、ルパンが国境への道標としてバラバラにして残していったマグナムを拾い上げては組みたてていた。ストーンマンの放つ無数の銃弾の雨を避けながら。


「バラ撒いていくんならよ、お宝だって良かったんじゃねえか?ええ?ルパン!」


そうぼやきながら。

ストーンマンの撃つ弾は掠りこそしないものの、その装弾数の多さに次元はてこずっていた。まして、マグナムを組みたてながら弾を避けているのだ。それは困難を極める闘いに違いはなかった。

部品はあと残すところ弾倉のみとなったとき、弾倉とともに次元の目に国境の鉄門が映った。そしてこのとき、ストーンマンも次元が反撃してこない理由に気付いた。


「そういうことか。」


ストーンマンはにやりと引きつった笑みを浮かべると、次元が手を伸ばした弾倉を銃で弾いた。
次元の手が弾倉に届かないように―そして確実に次元を倒すために。

それで何度目だったろう、鋭い音を立てて高々と弾倉が弾き飛ばされた、その時―






ワルサーの銃声が響き渡った。ルパンが、次元の元へ弾倉を弾き返したのだ。

次元は宙に舞ってそれを手にし、瞬時に装着すると、ストーンマンに向かって最初で最後の銃弾を放った。

ストーンマンは低くうめくと、そのまま地に倒れ伏した。











結局、お宝は全て国境の鉄門に阻まれて持ち出せなかった。
不二子は怒り、そして呆れてから、次の仕事がある、と言ってモナコへ向かった。




ルパン、次元、五右ェ門は、ブランコ公国の隣国の安宿に逗留する事にした。

宿屋の入り口で、五右ェ門は立ち止まった。

宿に入りかけていたルパンと次元は、五右ェ門がついて来ないのに気づいて振り返った。


「おぉ〜い。どした?」


ルパンが声をかける。次元は煙草を銜えて無言のままだ。



だが、スラックスのポケットに両手を突っ込んで立つふたりの姿は、可笑しくなるくらい良く似ていた。

長年連れ添っていると、言動ばかりか姿形まで似てくるらしい―

五右ェ門は思わず吹き出した。


「なーに笑ってんだよ。早く行くぞ。」

「そうだそうだ。俺ぁ早く風呂に入りてぇんだよ。」


口々にふたりが急き立てるのを手で押しとどめて、五右ェ門は言った。


「…いや、拙者、ここで失礼つかまつる。」

「へ?」

「?」


疑問符を浮かべるふたりに、五右ェ門は嘘をついた。


「最近仕事ばかりで修行に精を出しておらなんだのでな。しばし己を見つめなおしてこようと思う。」

「…あ、そ…。」

「…まあ、そういうことなら…気が済むまでやるこった。」


本当は修行に行く気などなかった。出来ることなら、次元のそばにいたかった。だが―


五右ェ門はもう一度ふたりを見た。


ルパンに次元への「言葉」を求めていた自分。

けれど、このふたりに言葉など必要ないのだ。



黙っていても、ふたりは互いを信じ合っている。

離れても、必ず再び互いが互いの元へ戻ってくると分かっている。



五右ェ門は、自らの負けを認めた。それは、いっそ気持ちの良いくらい吹っ切れた気分だった。


「ではな。」


五右ェ門は踵を返してふたりに背を向けた。

ルパンは手をヒラヒラと振り、次元は大きく紫煙を吐き出した。






五右ェ門の姿が雑踏に紛れて見えなくなってしまうと、突然ルパンは次元の腰に手を回した。


「!?何だよ、おい!」


驚いて次元が身体を引き離そうとすると、ルパンは回した手に更に強く力をこめて、その耳元で囁いた。


「…ふたりっきりだな。今夜は。」


ルパンの瞳は優しかったが、その奥には微かに欲望が滲んでいた。


「…ここ何日か、ずーっとお前を抱けなかったからさ。もう限界なんだよ、俺。」

「だからって…!止せ、人前で!」


次元はルパンの腕から身をよじって逃れた。


「じゃあ、部屋に入って、シャワーを浴びて、それから、な?」


機嫌良さそうに笑うルパンに、次元はボルサリーノのクラウンを押さえて舌打ちした。











信じる事。



信じ合う事。



言葉はなくても、離れても必ずまた会えると信じている事。






それが、ふたりの愛のかたち。
















〜Fin〜




2008年06月17日 ぷにさまへ

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企画サイト「次元補完計画」の絵チャでご一緒させていただいたぷにさまの「無言の内に必ずまた会えることを信じているふたりはラブラブだと思います」というお言葉からヒントを得て、発言者であるぷにさまへお贈りした小説です。

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