TRICK



「はい次元ちゃん、コレ。」

手渡されたのはグラスに入った水。

ハロウィーンの熱気も冷め遣った午前1時。

「…なんだこりゃ。」

次元はしげしげと手の中のグラスを眺めてから、ルパンに問うた。

「次元ちゃん、前から飲みたいって言ってたバーボンがあったでしょ。だから、ソレ。」

「ただの水じゃ…!?」

一瞬ルパンの方を振り返っている間に、手の中のグラスには琥珀色の液体が波打っていた。

「…また、お前さんお得意の手品か。」

「ちっちっ。イタズラって言って欲しいなあ〜。」

ルパンはのほほ〜と呑気に笑う。

相変わらずフザけた野郎だ。

そう思いながらも、次元はグラスから漂ってくる芳香に引き寄せられ、一気に飲み干した。

心地良い痺れが、喉を伝っていく。

「美味かった?」

ルパンがロングソファーの背もたれに手をかけて、次元を真上から覗き込む。

「ああ。想像してた通りの美味さだったぜ。」

やや頬を紅色に染めて、次元は満足そうに答えた。

…おや?

次元はこの程度の酒で、頬を上気させるような男だっただろうか。

しばらくすると、次元の様子がおかしくなりだした。

妙に身体が火照る。何やらもぞもぞと落ち着かない気分になる。

次元が額に汗を滲ませてネクタイを緩めていると、ルパンが意味深な含み笑いをして近づいてきた。

「次元ちゃん、なぁ〜んか身体の様子がおかしくなぁ〜い?」

その言葉に次元ははっ!として、「やられた!」と思った。

「てめえ…何か入れやがったな!?」

じろりとルパンを睨み返すと、あったりまえじゃ〜ん、と、また呑気に笑われた。

「”お菓子をくれなきゃイタズラするぞ”ってね。それを実行したワケ。しっかし良く効くねぇこの薬。」

ルパンは笑って、手にした小瓶にキスをする。

「畜生!俺はお前に何にも言われてねぇぞ!いつお前Trick or treat?なんて俺に言った!?」

次元は詰め寄ったが、既に力の抜けかけた身体は、いとも簡単にルパンに抱き上げられた。

「…今日、俺が買い物に出かける時」

「ああ!?」

身体の自由が効かないなりに次元が手足をばたつかせていると、ルパンがぼそりと恨みがましく言った。

子どもの様に口を尖らせて、拗ねた顔をしていた。

「ほっぺにチューして、って頼んだら、お前してくれなかっただろ?」

「……………」

時々こいつが分からなくなる。頭の良い奴のはずなんだが…

と、次元が呆れかえっているうちに、ルパンはさっさとベッドルームへ足を運んでいた。

どさり、とベッドに放り出される。

次元は観念した。

「さァて、美味しいお菓子をいただきましょうかねぇ〜。」

ルパンは手を揉むと、一気に首から服をすっぽ抜けて飛び込んできた。

…Trickといえば、こいつのこういう服の脱ぎ方のからくりは未だに分からねぇな…

ルパンのキスによって跳ねあがる鼓動の中で、次元はぼんやりとそんな事を考えたが、やがて熱い奔流の中に、その小さな思考も微塵に吹き飛んでしまった。






〜「TRICK」〜

Fin




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