タイトル:alphabet proverb titles
(apt*)様 Glueck Glas, wie leicht bricht
das.
不安はたぶん最初からあったが、それ以上に浮かれていたから忘れていた。 最初の違和感は、Bがいるとき。 Bがいた。 深い青い目に、光と熱を宿らせて、セバスチャンはBを見ていた。 そう悟って、認めて、突き上げるほどの怒りが沸いてきたのは、夕食の片付けの時だった。 「もういい?入れたい」 ひどい、セバスチャンは。 「つっ……!」 「くぅ、……」 どれだけ辱めても、セバスチャンは何も言わなかった。 デイビッドは言って欲しかった。 「B君が好きなんでしょ?でもB君に言えなくて、好きだって言う俺にケツ貸したの?」 デイビッドは、セバスチャンのアナルを犯しているバイブのスイッチを変えた。バイブレーションからスイングへ。 ぐちゃぐちゃにされたセバスチャンは、それでも掠れた声で、すまなかった、と言った。 嘘を言わなかったのは、やはり彼なりの誠実さなのだろう。でも欲しいのはそれじゃない。
ある夜のことだった。
使用人休憩室で、デイビッドが日誌をつけていると、セバスチャンがやって来た。
時計は22時を過ぎた頃で、セバスチャンはすでに部屋着を纏っていた。
珍しいなとデイビッドは思った。彼がそんな格好で邸内をうろつくのはまずないことで、どうしたのかと聞いた。帰ってきた言葉は。
「男と寝るのはどういうものだ?」
「は、ハニー!?」
「どうだ」
「どうって……感想を聞いてるの?方法?」
「両方だ」
「…………男同士のセックスに興味ある?」
「ああ」
「…………」
「…………」
「……………………じゃあ、俺と……してみる?」
「ああ」
「…………」
「…………」
「えーと。…………これから、俺の部屋、来る?」
「ああ」
そんなふうに、デイビッドはセバスチャンと関係を持った。
最初の夜はレクチャーしつつ、セバスチャンを抱いた。
デイビッドはセバスチャンに一目ぼれだったから、緊張しつつ舞い上がりつつでいっぱいいっぱいだった。
好きだよと囁いても、無言かああ、という短い返事しか返ってこなかったが、いつかセバスチャンが言ってくれたらいいと思った。言ってくれなくても、こんなふうに好意を示してくれるなら。
そうして何度かそんな夜を過ごし、セバスチャンが抱いてみたいと言うので脚を開いたりもした。
どうして突然受け入れる気になったのか。あの日のセバスチャンは唐突すぎた。
それでも、気持ちの比重は自分の方が重くても、セバスチャンだって俺を好きなんだと、思っていた。思い込もうとしていたのかもしれない。
その時、キッチンにはデイビッドとセバスチャンと、ヘイヂがいた。
デイビッドがパイ生地を練っているとき、Bが青い顔で飛び込んできた。またユーゼフに遭遇したのだろう。
Bが背中にひっつく感触にはすでに慣れていたので、気にせずパイ生地を練り続けた。
セバスチャンにパイの具は何が好きか、問いかけようと顔を上げたとき。
セバスチャンの青い目には、暗く硬い光があった。それはデイビッドと、Bに向かっていた。
それはほんの一瞬で、デイビッドが見ていることに気づいた彼は、さっと幕を引くようにその光を隠した。
なんだか嫌な予感がした。
嫉妬、に見えたからだ。
それも自分に対する。堂々と抱きついてくるBではなく、自分に。
その一週間後だったと思う。
午後の廊下で、セバスチャンを見かけた。
広い屋敷だから、セバスチャンまでは結構距離があった。彼に向かって足を進めようとして、思わず止まった。
セバスチャンは立ち止まって、窓の外を見ていた。体は進行方向、デイビッドの方を向いていて、顔だけが外に向けている。
夕暮れに近い時間の日差しは角度を持って、彼を留めるように射し、その立ち姿を絵画のようにみせている。冷ややかな表情の中で、瞳だけが浮き立って見えた。
とても綺麗だった。
そんな綺麗な目で何を、とセバスチャンの見ている方向に目を向けた。
庭で、ティータイムの後片付けをしている。
少しはなれたところに、クロスと花瓶を抱えたAがいた。
Aは歩いている。
Bは椅子を重ねている。
セバスチャンの視線は揺るがない。
セバスチャンが好きなのは俺じゃない。
抱きたいのも、ひょっとしたら抱かれたいのも、俺じゃない。
あの廊下から記憶が曖昧だ。
だがこうして皿を洗っているということは、ほぼオートマティックに仕事をしていたのだろう。
問い詰めなければ、とデイビッドは焼け付くような苦しさで思った。
セバスチャンから本当のことを。
「はっ、……っ」
「セバスチャンも結構慣れてきたなー、ここ」
デイビッドの部屋のベッドで、セバスチャンは夜着の上だけを身に付け、尻を突き出すような格好で突っ伏していた。
デイビッドはセバスチャンのアナルを指で拡げながらベッドの横に置いた袋に手を伸ばす。じゃらり、という金属音にセバスチャンは振り返ろうとしたので、留めるために指を3本、乱雑に突き入れた。
「ぐ、」
「ごめん、ちょっと早かった?」
取り出したものを、ベッドの上、セバスチャンに見えないような角度で置く。
「……いや……」
ぐちゅぐちゅと入り口を揉みこむ。潤滑剤でぬめるアナルは、小さな明かりでてらてらと光っている。
もう何度もデイビッドに開かれた場所は、断続的に指を締め付けながらひくついている。
受け入れてくれるここを、幸せな気持ちで愛撫してきた。
今までは。
まだ馴染んでいないのを承知で言えば、伏せられたままの黒髪が微かに頷く。
デイビッドは少し笑った。
別におかしくはない。ただセバスチャンが、こんなに従順に体を開いてくれるのは、俺がBの代替品だからだろうかと思った。
だから、酷く仕返したい。
一気にセバスチャンを貫くと、彼の体が跳ねて、強張った。痛いほどペニスを締める肉を感じながら、そのまま勢い良く出し入れする。
「デイ、ビッド……待て……痛っ……!」
「ごめんね」
パンパンと肉を打つ。
「……う、……っ」
制止にも動きを止めず、ベッドに置いたものを取る。また、金属の鳴る音がしたが、セバスチャンは性急な動きに耐えていて、振り向きはしなかった。
深く嵌め込んだまま抜き差しをやめれば、セバスチャンがほっとしたように脱力する。それを見計らって、シーツに落ちている彼の両手を取り、背中で拘束した。
セバスチャンはとっさに抵抗しようとしたが、アナルに深々と刺さったもののせいで、普段とは段違いに動作は遅かった。
かしゃんかしゃんと金属が鳴る。
上手くいったと、残酷な気分でデイビッドは笑う。銀色の手錠の鎖が、白い背中で鈍く光る。
「何を……はずせっ!」
「だめ」
「デイビッド!」
「ねえハニー」
拒絶を取り上げず、デイビッドは止めていた動きを再開させる。
今度は緩やかに犯しながら、セバスチャンのペニスに手を伸ばす。半分ほど起っているそこにかすかに触れる程度の愛撫を。
「俺に言うことない?」
「…………言うこと、……何?」
「判らない?はずないよね?」
「……っ」
「――B君のことだよ」
その名を出した途端、ぎゅうっとアナルが締まった。ちょうど亀頭を締め上げられて、デイビッドはセバスチャンの中で達した。
いつもより早いな、と冷ややかな怒りの中で思った。
「無言でいればいいって思ってる?」
「外せ……!」
「どれのこと?外すのは、ハニーが全部白状してからだぞ」
セバスチャンは、両手を後ろで拘束されたまま、ベッドに仰向けに転がっていた。脚はそれぞれ脛と腿を縛られ、開いてしまう脚の間、ペニスには小さなローターを付けられ、アナルには、デイビッドのものよりさらに一回り大きなバイブを嵌められている。
ローターとバイブはそれぞれ小さく振動して、絶頂には及ばない快感を与えて続けている。
デイビッドはセバスチャンの傍らに座り込み、見下ろしながら、彼の首や肩や乳首辺りをゆるやかに撫でる。
上気した顔は美しかった。
快楽に歪む表情を見せてくれるのが嬉しかった。
抱き合う腕の強さが愛しかった。
愛憎とはよく言ったものだ、好きだからこそ、怒りは激しい。
「ひどいよねえ、ハニーは」
呟くように言って、デイビッドはセバスチャンのアナルに差し込まれたバイブに手を伸ばす。
根元を握って何度も貫く。
「……っぐ……うぅっ」
すでに二度、中で出したザーメンが、ぐちゅぐちゅと鳴りながら泡を立てる。
「あー、ハニーのお尻どろどろになってるよ」
「や……めろ……」
振動するバイブを角度を上げて抜き取る。
引き攣れる入り口がよく見えた。部屋の明かりはもう暗くは無く、赤く腫れたアナルも、ぽかりと開いたその奥の粘膜も見えた。
「わかるよねえ、濡れて開いたままだぞ。入り口もぴくぴくしちゃって」
「ん……っ、黙れ……」
「ああごめんね、やらしい穴にコレ、戻してあげる」
「ああっ!」
二度犯して、ローターもバイブもアナルビーズも挿入して、それでも達せないように調整して。
明かりをつけてしたのも、縛ったのも、玩具を使ったのも始めてだった。
本当はこんなふうではなく、ちゃんと了解を得てプレイとして楽しもうと思っていたのに。
Bを好きではないと、同僚以外に思っていないと、言って欲しかった。
そうすれば、ひどいことをしてごめんと謝れるのに。嫉妬したって言えるのに。好きだよって、キスを出来るのに。
セバスチャンは否定と無言で、行為を受け止め、デイビッドを拒絶した。
振動を続けるバイブを握り、体を重ねては出来ない様々な角度で激しく動かす。
長時間ペニスと玩具で開かれ続けたアナルは、緩くなってきたのか、出し入れはとてもスムーズだった。
「嫌……あっ、やめろ……っ」
「B君を抱きたかった?抱かれたかったのかなー?俺に突っ込まれながら、何考えてた?」
「……デイビッ……、んん……!」
「俺って何。ただの棒?ただの穴?」
「……いぁっ!……く……」
「答えて」
嘘でも、好きだといってくれれば。
セバスチャンは最初から嘘は言わなかった。
今も言わない。日頃は軽々と吐いているのに。それが誠実さだとでも思うのだろうか。
「ヒィっ!」
「あはは、気持ちいい?」
バイブは直腸のうねっているのだろう。より大きく内側を抉られ、さらにピストンをされて、セバスチャンは耐えられないというように頭を振った。
セバスチャンの身動きと、振動するローターのせいで、彼のペニスは震えている。
「イっていいよ」
先端を指で嬲ってやると、彼は小さく悲鳴をあげて、達した。
「バイブでいっちゃたんだ?太くてよく動くからなー」
バイブを抜き取って、荒く息を付く体を引き寄せる。
「っデイビッド……!もう、」
「だめ」
デイビッドのペニスは抵抗も無く飲み込まれた。
「ゆるゆるだなあ。……あー、二時間近く、色んなもの入れっぱなしだったし、ずいぶん拡張できた」
「……言うな……!」
「恥ずかしい?ねえ?」
「っ……んっ」
出したばかりで、貫かれるのは辛いだろうが、デイビッドはやめなかった。
セバスチャンは、ぐっと目を瞑って耐えている。
抱かれる、ではなく、犯されるセバスチャンも美しかった。
その顔を見ながら、デイビッドはだんだん辛くなってきた。怒りはピークを過ぎ、まだ燻っていたけれど、かわりに寂しさや悲しさが足元のほうからやってきた。
恋人と思っていた人の体を揺さぶりながら、
「……俺が欲しかったのは、体だけじゃ、ないよ」
と呟いた。
セバスチャンは、聞こえたのかどうなのか、切れ切れに喘ぐだけだった。
明け方近く、デイビッドはセバスチャンの拘束を解いた。彼はすでにぐったりとし、意識はあるが起き上がれない状態だった。
両足には縛られたあとがくっきり残り、手首は金属で傷ついていた。
体には二人分の、何回ものザーメンが乾いたり濡れたままだったりでこびりついて、どう見ても痛々しく、陵辱された後の姿だった。
謝罪が過去形で、そして遂にセバスチャンに認められて、デイビッドは苦々しい気分で、「んん」と曖昧に答えた。
自分と変わらないほどの体を抱きかかえ、バスルームに向かう。
ひどく犯されて、開いたままのアナルからザーメンが落ちて、床を汚した。
やりすぎた。と素直に思ったが、謝る気はなかった。
ついに振られたな、と思う。
もうセバスチャンは、触らせてはくれないだろう。最悪解雇か。
投げやりな気分で、でも動けないセバスチャンを放置することも出来ず、シャワーを捻る。
湯に打たれるセバスチャンはデイビッドを見上げ、すこし痛いような顔をした。
「すまなかった」
デイビッドは何も言わず、シャワーヘッドを取って、セバスチャンの体を清めていった。
欲しいのは、セバスチャンの特別な気持ち。セバスチャンの中の特別な位置。
それをBは、知らずに占めているのだ。
ぞわりとした触り心地の、重い感情がこみ上げた。
ねえハニー、俺はB君を憎んでしまいそうだよ。
2007年6月頃UP
若干申し訳ないと思っています。そして正直えろくないエロを書ける才能はあるんじゃないかと思う今日この頃。精進します。
Glueck Glas,
wie leicht bricht das.(幸せと硝子、それはなんと儚く破れることか)