「あ」








亮の部屋に招かれ思う存分デュエルを楽しみ、お互いまったりとした時間を過ごしていた時、ふと窓を見た十代が声をあげた。

「どうした?」
「ん〜雨。降ってきたみたいだ。」
十代の言うとおり外からは雨音がしていた。
「…止みそうにもなさそうだな。」
隣で亮も空を見上げ、苦笑いを零す。
そう言っている間にも雨脚は激しさを増していった。
「どうする?寮に戻るなら送っていくが…」
「…」
きゅ、と亮の服を掴み、何かをいいたげに口を開いては閉じ、俯く十代。
普段の彼からは想像もつかない姿に亮は微笑を浮かべる。

きっと、こんな彼の姿を知っているのは世界で自分ひとりだけ。

その事実にとてつもない優越感を覚えた。

「…なら、泊まっていくといい。」
「いいのか?」

ぱぁっと満面の笑みを浮かべる十代。
カイザーのところに泊まるって翔にメールする!と端末をいじるその背を見守る。
恋人と一つ屋根の下で2人きり。
なのにここまで警戒心を抱かれないと毒気を抜かれてしまう。

「まぁ、それも悪くないか。」

酷いことを、嫌がることをしたいわけじゃない。
真綿でくるむようにじわじわと、ゆっくりと、自分しか見えないように侵食していけばいい。

「?何か言ったか?」
「いや、まるで『遣らずの雨』のようだと思ってな。」
「?何だ?それ。」
「恋人を帰したくないときに降る雨のことを昔はそう呼んでいたんだ。」
「っ///」
途端、ぼんっと音が聞こえそうなくらいに十代の顔が朱く染まる。
くすくすと笑みを零しその色づいた頬を撫でる。
「どうした?」
「〜///カイザーって結構意地悪だ…///」
唇を尖らせ、拗ねた様に俯く十代を亮は腕の中に抱きしめる。
「何だ、今頃気づいたのか?」
「…前から知ってましたー」
照れ隠しなのか赤くなった顔を見られまいと十代はぎゅうぎゅうと亮の胸に押し付ける。
耳まで真っ赤なので隠しきれていないのだが。
「十代。」
耳元で囁かれるあまい声。この次に何があるのか十代は知っている。
おずおずと少し体を離せば降ってくる唇。
服を握る手に力を込めればそれに比例して囲う腕も強くなる。







もう、雨の音は聞こえない。





fin.


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