00.こんな馴れ初め



「帰りたくないなぁ…」
と帝人が言う。

「帰したくねぇ。」
と静雄が言う。

「じゃあ、結婚しちゃえば?」
と幽が言う。

「そうか、結婚か。どうやったら出来るんだ?」
「男同士だったら養子縁組だね。」
「ん、サンキュ幽。」

それから次の日、役所に届けを提出しに行きました。









01.お引越しします



「本当に荷物はこれだけでいいのか?」

そう言って静雄さんは先程詰めたばかりダンボール箱を軽く叩く。
今日は今まで借りていた部屋を出て、静雄さんと借りたマンションへ引っ越す日。
荷造りはそんなにないから一人で大丈夫だと一旦はやんわり断ったのだが静雄さんと幽さんが手伝うといってきかなかったのでお言葉に甘えることにした。
ちなみに幽さんはというと、車を出してもらいそのまま新居へ荷物を運んでもらう為下で待ってもらっている。

「はい。必要最低限な物だけ詰めましたから。」

いらない物を纏めてダンボールへ詰め、ガムテープで閉じていく。
持っていくものより捨てるものが多くなってしまうのは世の常だろう。

「でも、本当にいいんですか?布団とか持っていかなくて…」

ちらりと横目で先程紐で縛った布団を見やる。持っていこうとした時に別にいらないと言われてそのまま処分行きになったものだ。

「?いらねぇだろ。どうせ一緒に寝るんだから。」

ガシャン。
思わず持っていた食器を落とす。事も無げに言われた言葉を反芻するとつまり、そういうことなのだろうか…?
首を傾げる静雄さんは自分の発言の威力に気づいていないようで僕の怪我の心配をしている。
何だか一人あたふたしているようで恥ずかしくなって荷物を先に運んでくれるように頼んだ。
渋っていた静雄さんに大丈夫だからと言うと諦めたようにいくつかのダンボールを軽々と持ち上げて部屋を出て行く。
ドアの閉まる音を聞いてからその場に横になった。


「絶対に心臓もたないよ…」










02.夕食は一緒に作ります



「静雄さん、これちょっと味見してください。」

手元の鍋から少しスプーンで掬った中華スープを隣の静雄さんへと差し出す。
そのスプーンを少し屈んで口に含んだ静雄さんはしばし逡巡した後、「もう少し辛い方がいい。」と言ってコショウを一振り鍋の中へと入れた。
味の濃いものばかりだと体に悪いんだけどなぁ。と唇を尖らせていると「ほら。」と静雄さんが作っていたチャーハンが目の前に。

「どうだ?」
「…美味しいです。」

もぐもぐと咀嚼して飲み込む。正直な感想だ。
何だかやりこめられたような悔しさで未だに唇を尖らせていると大好きな手が僕の頬を撫でた。

「?何ですか?」
「いや。」

口の端を吊り上げて笑う静雄さんに僕の頭をはてなマークが飛ぶ。



その理由を知ったのはその日の夜のことでした。









03.朝のよくある光景です



静雄さんは朝が弱い。
出勤時間は大抵10時以降が多く、遅いときなど僕が午後からの講義に行く時間まで寝ている時もある。

「はよ……」
「おはようございます。」

今日も寝ぼけ眼で洗面所へとやってくる静雄さん。
歯を磨く僕の横に立ち、同じ様に歯ブラシと歯磨き粉を手にとるのだが…

「あ、静雄さんそれ…!」

僕の制止も時既に遅く、歯ブラシを口に含んだ瞬間、静雄さんの体が傾ぎ大きく咳込んだ。

「静雄さん、それ僕の歯磨き粉です。」

げほげほと肩を揺らすその背をさすりながら苦笑いを零す。
意外にもミント系が苦手な静雄さん用に低刺激な物を用意したのだが、時折こうして寝ぼけて僕のを使ってしまい大変な思いをすることがある。





「仕方がないですね。」

と言ってまだ少し残っている僕用の歯磨き粉をごみ箱に投げ入れた。

「これで間違うことはないですよ。」

にっこり笑うとバツが悪そうな静雄さんに思い切り抱きしめられた。




…Next。


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