【であい】(いざ+みか)




ここはとある国の小さな街。イケブクロ。
たくさんの種族が暮らすこの街に幼馴染の勧めで最近越してきたばかりの黒猫。
それがみかどだ。

「うぅ…迷った…」

まったく見慣れぬ景色にがっくりとうなだれる。
ただでさえ越してきたばかりの不慣れな街でちょっとだけなら、と案内してくれる幼馴染がいないままに出かけたイケブクロ。
見たことないものにあれこれ目移りしていたらいつの間にか迷子になってしまっていた。
ちょっとのつもりで出かけたので携帯は持ってでなかった。これでは恥を忍んで幼馴染に連絡をとることすらできない。
仕方がないからどこか適当な店で道を聞こうと見回していたときだった。

ドンッ

店を探すことに集中して前方を疎かにしていたみかどはまえから歩いてきた人にぶつかってしまう。

「わぁ!ごめんなさい、ちょっと余所見をしていて…」

勢いよく頭を下げるみかどにぶつかった方は大して気を悪くした様子もなく話しかけてきた。

「あぁ、大丈夫。俺もちょっとぼぅっとしてたから。ほら、顔上げて。」

よかった、いい人そうだ。

ほっとして顔を上げた瞬間、みかどは固まった。
目の前にいたのはそれはそれは綺麗な狼で。
思わず呆けているとクスクスと笑われてしまった。

「何?狼がそんなに珍しい?黒猫ちゃん。」
「!あ、いえ、すみません!」

またぺこりと頭を下げる。

「ところで、この辺じゃ見かけない子だけどここへは遊びに?」
「いえ、最近引っ越してきたんです。」
「どうりで。そういえばきょろきょろとしてたみたいだけど、もしかして迷子?」
「……恥ずかしながら…」

ぺたり、と黒い耳をたたむと狼は堪えきれずに噴出した。

「あはは、可愛いなぁ。」

恥ずかしさにますます縮こまり、何もそこまで笑うことないじゃないかと内心でむくれる。

「どこに行きたかったの?」
「え?」
「俺、ちょっと前までイケブクロに住んでたんだ。だからそこそこ詳しいよ。笑っちゃったお詫びに教えてあげる。」
「あ、えと、サンシャインまで…」
「なんだ、それならあの通りをまっすぐ行けば出られるよ。」
ほっと肩をなでおろすみかど。
「よかったら送っていこうか?」

狼の手がみかどの肩に置かれた刹那、


ぞくり


体の底から湧きあがる何か。
尻尾の毛が総毛立つ。

「ぇ、ぁの大丈夫です!本当にありがとうございました!」

本能的に何かを感じたみかどは深く一礼して先ほど教えてもらった路地を一目散に走っていく。
その背が見えなくなってから狼は大声で笑い出した。

「あははははは!!!可愛いなぁ!まさかあんなに可愛い子だったなんて思わなかったよ。本当、予想以上で期待以上だよ。…みかど君。」


ひとしきり笑い終えると怪しく口角を吊り上げ、狼ーいざやはもときた道を歩いていった。








【ゆび】(いざみか)




カタカタと音をさせて仕事をこなすいざやをみかどは彼の部屋のソファに座りじっと見ていた。
大きい丸型のパウダービーズのクッションは肌触りが気に入ったのとひなたぼっこの枕にちょうどいいとみかどがいざやに買わせたものだ。
そのクッションをぎゅうぎゅう抱きしめてゆらゆらと尻尾を揺らす。
しばらく好きなようにさせていたいざやだが、流石に1時間以上も見つめられては何かあったかと思うもの。

「みかどくん?」
「はい。」
「どうかしたの?」
「何にもしませんよ。」

はぁ、と溜息を吐いてパソコンを落とし、かけていた眼鏡をデスクに置く。

「ちゃんとお仕事しないとダメですよ。」
「みかど君よりも優先させるようなことなんてないよ。」

「嘘ばっかり。」と隣に座ってきたいざやの尻尾を掴む。

「本当なのに…そして地味に痛いからやめようよ、みかど君。」

大人しくその手を離し再びクッションに顔を埋める。

「どうかしたの?さっきからずっと俺のこと見てたよね。」
「……ゆび。」
「指?」
「パソコンを打ついざやさんの指が綺麗だなぁって思って…」

クッションに顔を押し付けていた為、ごにょごにょとしか聞こえなかったがいざやにはしっかりと届いていた。

「って!い、今のなしです!」
「え〜」
「に、ニヤニヤしないでください!気持ち悪い。」

ぱたぱたと黒い尾が揺れている。
言うつもりなどなかったのに…とへたる耳。

あぁ、何て可愛らしいのだろう。

未だ羞恥に耳まで赤く染めるみかどの髪を梳く。



ごめん、我慢できそうにない。








【けづくろい】(しずみか)




「みかど」
「い〜や〜です〜!」

部屋の隅でふーふーと尾を膨らませて威嚇するみかど。
大きく溜息を吐き、逃げようとするみかどを難なく捕獲する。

「し、しずおさん…!」
「別に痛いことするんじゃねぇんだ。大人しくしてろ。」
「う、うぅ……」

捕獲した帝人を抱いたままソファに腰を下ろす。
逃げられないようにしっかりと抱き込み、そのしっとりした黒い小さな耳に舌を這わした。
ぶるりとみかどの体が震える。
ザラザラとした舌が耳を、首をなぞる度に体をかける何かにみかどはいつだって翻弄されてばかりだ。

「っ、っ…///」

一方、しずおは声を押し殺し快感に耐えるみかどを見ていた。

(可愛い。可愛い。俺のものにしたい。閉じ込めたい。離したくない。)
(抱きたい。今ここでぐちゃぐちゃにしてつっこんで犯したい。壊したい。)

そんな欲望をおくびにも出さずみかどへの毛づくろいを続けるしずお。

「ふ、ぅ…」

そろそろ泣き出してしまいそうなみかどにしずおは名残惜しいと思いつつ、毛づくろいを終わらせる。

「ほら、終わったぜ。」

ぽんぽんと優しく背を撫でるとぐったりとしずおにもたれかかるみかど。

(まだ、まだだ。みかどが理解して求めくれるまで、まだ。)
(熱い、アツイ、カラダがアツイ。これは何?)




無自覚発情期。



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