コイツは俺のだから(静帝)※原作4巻ネタバレ



「シーズオーさ〜ん!!」
がばっと音をさせて静雄の背に何かがおぶさる。思わずびく、とその隣にいた帝人は肩を震わせた。
「あ〜、マイルだからお前毎回毎回その登場の仕方やめろよ。」
静雄はマイル、と呼ばれた少女の襟首を掴んで持ち上げると己の背から引き剥がし、地面へ降ろす。
「晩(こんばんわ)…」
その後ろではいつものようにクルリがぺこり、と頭を下げる。
あまりにも自然に繰り広げられる光景に帝人はぽかんと口を開けたままだ。
「あ〜!この前の!」
すると帝人に気づいたマイルがその顔を覗き込んできた。
「!!?」
「やっぱり、この前黒バイクの人追っかけてたとき一緒だったお兄さん!」
「え、あ…」
そういえばバンにいた女の子たち…とあの夜のことを思い出す。
「あの時は本当に巻き込んでしまってごめんなさい。」
「え〜、何でお兄さんが謝るの?」
「否(ちがう)…」
「それでも、僕が謝りたいだけなんです。」
もう一度すみませんでした。と帝人が頭を下げるとマイルともう一人の少女、クルリが何やらひそひそと話をしている。

(あ〜、何かヤな予感がするぜ。)

「お兄さん名前教えて!私はねぇ、折原舞流!」
「折原…九瑠璃…」
「へ、りゅ竜ヶ峰帝人です。」
「あは!私たちとおんなじくらい変わった名前〜!あのね、あのね!私もクル姉もお兄さんのことすごく気に入っちゃった!」
それからマイルは帝人の肩を掴み、顔を近づける。
突然の出来事に呆然とする帝人を他所に顔が近づいていき、唇が触れ合うかという距離で…
「やめとけ。」
ふわりと帝人の体が宙に浮いた。それまで隣で見ていた静雄が帝人の体を担ぎ上げたのだ。
「やだ〜!シズオさんのケチ!!」
寸でのところで邪魔をされたクルリは唇を尖らせて静雄に向かって抗議の声を上げる。
「ったりめぇだろ?」


なんたって、コイツは俺のだからな。


誰にもやらない。触らせない。



お題拝借:確かに恋だった様より




好きって言ったら?
(臨帝)



「やぁ。」
現在帝人が借りているアパートのドアの前でいい笑顔を浮かべているのは新宿を根城に活動する情報屋、折原臨也。
「…」
「え?何々?嬉しくて声もでない?」
「…何しにいらしたんですか。バイト帰りで疲れてるんで、ツッコむ気力もないんです。さっさとどっか行ってください。」
これ見よがしに帝人は思い切り大きな溜息を吐く。
が、そんな嫌味が通用するならとっくの昔に臨也は帝人のところに来たりしていない。
「え〜太郎さんったらそんな怖い顔しないでくださいよ〜」
「…………………おぇ。」
「それ、地味に傷つくなぁ。」
と言いながらも全然傷ついてなどいないような口調で笑っている。
「明日も学校なので用があるなら手短にお願いしたいんですけど。」
「うん。好きだよ。」
「…毎回言ってますよね、それ。」

臨也は帝人に会うたびに『好き』という言葉を紡ぐ。
それこそ飽きることなくずーっとだ。

「だって好きだからね。」

頼むから会話のキャッチボールというものを覚えてくれ。

はぁ〜と深い溜息をおとす。
そのとき、ピンと何かが帝人の中に芽生える。

「ねえ、臨也さん。僕も好きですよ?」

するとその返答は予想していなかったのだろう。
珍しく臨也が目を丸くしている。

「あはは!臨也さん面白い顔!!」
「え、え、ちょ、帝人君!?」

あまりにも面白い顔だったので仕方なく家の中に入れてあげた。



どんな顔をするか気になったんだ。


お題拝借:確かに恋だった様より





さっさと死にやがれ(戦争サンド)




「い〜ざぁ〜やく〜んよぉ…池袋に来るなっつってんだろうがよ!」

大きな風を切る音がして黒い青年の前に道路標識が突き刺さる。

「嫌だなぁ、シズちゃんってば。君に俺の行動を制限する権利なんかあるわけないじゃない。それとも何?シズちゃんってそんなに俺のこと好きなわけ?気持ち悪いからそれだけはやめてね。俺には帝人君っていう運命の相手がいるんだから…さっ!」

最後に黒い青年――折原臨也はポケットからナイフを取り出してバーテンダーの服を着た青年−−平和島静雄に切り付けた。

「冗談じゃねぇ。気色悪ぃ。それに竜ヶ峰はお前のじゃねぇだろ。」

それから静雄はベリっと近くにあった自動販売機に手をかけ、持ち上げる。
その光景を目の当たりにした臨也は驚くでも恐怖を抱くわけでもなく、ただ嘆息した。

「相変わらず非常識すぎるよね、シズちゃんは。普通、人間の腕力じゃ自販機なんて持ち上がんないんだよ?」

にたり、と悪辣な笑みを浮かべる臨也。

「これじゃ、すぐに帝人君は壊れちゃうね。」

ぎり、と歯の軋む音がする。
臨也の言ったことは事実で、常日頃から静雄が思っていることだった。
それを知っていて臨也は静雄に暗に言っているのだ。
『お前には彼を愛することなど無理だ。』と。
だけれども、静雄だって譲れない。

「お前だって似たようなもんじゃねぇか。お前は竜ヶ峰を壊す。」

それは静雄のように外側からではなく内側から。
まるで遅効性の毒のように。
じわじわと、じくじくと。
臨也は答えない。ただ笑みを深くするだけ。
それが答えだ。

「こりゃぁ、埓があかねぇなぁ…」
「不本意だけど同感だね。」

「「だから…」」



「「さっさと死にやがれ!!」」



お題拝借:虚言症より






切れ長な貴方の目が好きで(静帝)



本当、どうにかしてしまったのだと思う。

自分で言うのもなんだが、非現実は好きだが、結構現実的だったはずだ。
過去形…いや、今でもそう思っている。
だけれども、どうしてこの人を前にするとこう、女々しくなってしまうのだろうか…


「あれ?静雄さん今日はサングラスしてないんですね。」

学校からの帰り道、僕はよく仕事帰りの静雄さんと待ち合わせをする。
いつもは学校が早く終わる僕が静雄さんを待つのだが、今日は委員会の仕事が思いの外かかってしまい、静雄さんを待つはずが待たせる形になってしまった。
もちろん、メールで遅くなりそうだから今日は帰ってていいと送ったのだが、予想に反して静雄からの返信は『待ってる。』の一言だった。
急いで待ち合わせの公園まで走って、たどり着いた頃には息も絶え絶えで。
見兼ねた静雄さんが持っていたコーヒーを差し出してくれて、それを一気に飲み干す。
それから違和感に気づいて最初の台詞に戻るのだ。

「あ、あぁ…さっきの取り立てで走ってるときに壊した。」
「怪我はしてないですか?」

僕は慌てて近寄って静雄さんの顔をぺたぺたと触る。

「してねぇよ。」

小さく笑われて、頭を撫でられる。
怪我の心配なんかするのは僕ぐらいだと静雄さんは言うが、恋人としてじゃなくても心配をするのは当然だと思う。

(あ……)

いつもはサングラス越しに見える瞳が近い。
童顔な僕と違ってキリッとした顔立ちに思わず心臓が跳ねる。

(静雄さんといるといつもこうだ…なんだか女の子になったみたい…)

一挙一動にドキドキして視線に囚われる。
いつもの僕じゃなくなっていく。

「帝人?」

反応のない僕に焦れた静雄さんの声で現実へ引き戻される。
慌てて顔を触っていた手を離し、少し距離をとった。

「よかったです、怪我がなくて。」

ほっとすると静雄さんの視線が僕を射抜いた。


(ああぁ!!もう!!)



切れ長な貴方の目が好きで。







帝人、何だか変だぞ?何かあったのか?

しいて言うなら静雄さんのせいです…

俺?

これ以上僕をたぶらかしてどうするんですか…

!?


お題拝借:虚言症様より




真夜中の寝息、寝顔(静帝)



傍らで安らかに眠るその寝顔を見つめる。

可愛い恋人の痴態を前に我慢がきかず昨夜はいつもより激しく抱いてしまった。

目尻に僅かに残る涙を拭う。

ほんの少しの罪悪感はあるが、だからといって反省や自制などする気は毛頭ないのだが。

時計を見れば午前4時。夜明けには少し早い。

明日は(といっても今日なのだが。)休日で特にすることもなかったはずだ。

ならば時間の許す限りの休息を与えよう。御飯は起きたら考えればいい。

寒さのせいか擦り寄って来る恋人にキスを落とし、静雄は再び眠りについた。





お題拝借:虚言症様より



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