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【日記ログ】
夜景の見えるビルの屋上。
行きかう人。うるさいキャッチ。絶えない抗争。
そんな池袋の町を見下してくすくすと笑う声が聞こえる。まだ高いその声は少年のもの。
「あ〜ぁ。どうしてボクがいろいろと種を撒いてあげてるのになかなか咲いてくれないんでしょうね…ね、臨也さん。」
くるり、と後ろを向けば黒衣の、池袋で手を出してはいけない人間と称される折原臨也その人が。
「どうしてだろうね、帝人くん。きっと人間が愚かでとても用心深いからじゃないかな。」
「つまらないなぁ…。」
頬を膨らます姿は可愛らしいが、今不機嫌な彼の隣に立てば迷うことなく突き落とされるか、鳩尾に一発くらうか、しばらく口を聞いてもらえないかのどれかだろう。
ちなみに、臨也は最後が一番堪える。
「いいですよ、許してあげますからこっちきてください。」
再びくすくすと笑い己の隣を指差す。
許しが出たのであればこっちのもの。意気揚々とその隣に立つ。
「あ、でもおさわりは厳禁ですからね。破ったら1週間会いません。静雄さんのところに行ってずぅっといちゃいちゃしてますから。」
「はぁ、い。女王様。」
以前に言われたことを破ったら本当にその通りにやられた。
そして最後に「本当に臨也さんは仕方ない人ですね。次やったら臨也さんの前で静雄さんとHしますから。それが嫌なら僕のいうことちゃんと聞いてくださいね。子供じゃないんですから。」
と言ったのだ。
「それにしても、本当、退屈ですねぇ…セルティさんも最近落ち着いてきちゃいましたし…あぁ、でもあの人はいい人なんでそのままでいいんですけど。やっぱり正臣で遊ぼうかな?それとも罪歌?どっちがいいと思います?臨也さん。」
「うーん。とりあえず、俺が面白そうなの見繕ってきてあげるから、ね。機嫌なおして。君から俺以外の名前が出るのが憎くてたまらないよ。」
「あははは!やっぱり臨也さん大好きですよ。楽しみにしてますね。」
ちゅ、とその頬にキスを送る。
(あぁ、それだけで満たされるなんて!)
すべては君の思うがまま。
【日記ログ2】
ぱちぱち。
突如聞こえてきた拍手の音。
暗い路地裏。まさに地獄絵図といわんばかりに倒れる人に流れる血の中、ただ一人立つ男がいた。
平和島静雄。
ヤクザですら裸足で逃げ出すような人間の前にいたのはまだ小学生のような少年だった。
「すごい、すごいです!!とりあえず、なんて言っていいのか…とりあえず、ものすごく綺麗でした!」
目をキラキラとさせて力説する少年の言葉に先ほどまでイラついていた気持ちが途端に萎える。
今、この少年はなんといったのだろうか。
「きれいだぁ?」
「はい!貴方が動くたびにまるで何かの舞をみているようで…何ていうのか目が離せなくて…!飛び散る血ですら綺麗だと思いました!」
子供らしからぬ言動に静雄は言葉を失う。それ以前に喧嘩をしているところを『綺麗』などと称されたことは初めてだ。
面白いガキ。
ふ、と触れてみたい衝動に駆られ、手を伸ばすとその子供は消えた。
否、
横から現れた男が抱えあげたのだ。
「ちょ!帝人くん駄目でしょ、勝手にいなくなっちゃ。しかもアレに近づいちゃダメ!壊されちゃうから!」
帝人、という少年を抱え上げたのは黒服の男。
この男を静雄はわかりたくないくらい知っていた。
天敵とも言える大嫌いな折原臨也だ。
「えぇ〜。やです。だってすごく綺麗だったんですよ。もっかい見たいです。」
「だめったらダメ!俺だって帝人君にそんなこと言われたことないのにシズちゃんだけそんな風に言うのは許せないよ。」
「「死にさらせ変態。」」
言うと同時に静雄は近くにあったゴミ箱を投げつけ、帝人は臨也の頭に肘鉄をくらわす。
残念ながら静雄が投げた鉄製のゴミ箱は当たらなかったが、帝人の肘鉄に声にならない声をあげていたので結果的には静雄は満足だった。(にもかかわらず子供を下ろさなかったのはいただけなかったが。)
「へぇ、まさかてめえがこんな子供、しかも男にご執心とはねぇ…」
「なんとでも言えば?帝人君の良さとか可愛さとかいっそのこと全ては俺だけが知ってればいいことだからシズちゃんが何を吼えても気にしないし。」
バチバチと二人の間に火花が見える。
そんな一触即発な空気を破ったのはやはり帝人の声だった。
「喧嘩するなら僕は帰ります。下ろしてください、臨也さん。」
「えぇ!?やだ!せっかく数少ない帝人君と触れ合える時間なんだから。」
「ちょ、ま…」
そんな二人ににっこりと少年は笑う。
「初めまして、竜ヶ峰帝人、14歳です。そして臨也さん?僕の嫌いなことを言ってください。」
「…子ども扱いと放置プレイだね。」
「正解です。というわけで、」
ごん、と音がして先ほどと同じところに肘鉄が食らわされる。
今度こそ臨也は帝人を離し、何事もなくその小さな足を地におろした。
「とりあえず、お見知りおきを。平和島静雄さん。」
これが絶対君主との出会い。
【お仕置き】※流血注意
「臨也さん」
少年が青年の名を呼ぶ声はひたすらに甘い。
壁に寄りかかる青年の上に乗り、己の額と付き合わせる。
これだけを見れば仲のいい恋人同士に見えるが、普通とは言えない点がたった一つだけあった。
青年の片手は壁にナイフで縫い付けられていたのだ。
「帝人君、流石にこれは俺でもちょっと痛いかな…」
だが、少年は青年の言葉には耳を貸さず、掌から流れる血を舐める。
「ん……だって痛くなかったらお仕置きにならないでしょう?」
ある程度掌の血を舐めとった後、汗の滲むこめかみに唇を寄せる。
その声音はどこまでも楽しそうだ。
「ねえ、帝人君。謝るから取ってよ、これ。」
生殺しもいいところなんだけど。と口角を上げる。それを見て少年も仕方がない
ですね。と呟いて己の腕を青年の口に寄せた。
青年は一瞬、躊躇った後口を開けてその白く細い腕を噛んだ。
すると何の予告もなしに少年は突き刺したナイフを思い切り引き抜いた。
「〜っ!」
荒く息を吐く青年の前ではっきりと歯型がつき、滴る血を舐めとって少年はどこまでも楽しそうに笑う。
「それじゃ、新羅さん呼びましょうか。」
女王様のお仕置きタイム。
(どれで臨也さん何か言うことは?)
(どうも申し訳ありませんでした。)
(はいよろしい。じゃ、ちゃんと治るまで介抱してあげますね。)
(!!!)
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